妄想日記7<<DAYDREAM>>

YAMATO

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Chapter8(リスタート編)

Chapter8-③【危なっかしい計画】

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「直木賞って、凄いじゃないですか！」
シオンは興奮を抑えきれない。
だがアキノリは浮かぬ表情でスマホを見ていた。
「折角、これから拡張しようと思っていたのに。」
「えっ、そんなの何時でも出来ます。
嬉しくないのですか？」
「特には…。」その答に驚いて、アキノリを見る。
微笑みは消え、うんざりした表情を浮かべていた。

「だって、名誉な事じゃないですか！
もし受賞したら、歴史に名が残りますよ。」
「その分、制約が出来ます。
僕は思いのままに書きたいのです。
何にも縛られずに。」
「でもそれで売れるなら…。」
つい下世話な発言をしてしまう。
「売れる売れないはどうでもいいのです。
僕は小学生の頃から妄想が好きでした。
それを文章にしてきた迄です。
逆に言えば、制約された下では書けないのです。」
アキノリが吐き捨てるのと同時に来客を告げるチャイムが鳴った。

「先生、おめでとうございます。
これは詰まらぬ物ですが。」
若手の男が手土産をテーブルに置く。
「内の様な小さな出版社から直木賞にノミネートされるなんて、前代未聞です。
社長も是が非でも取れと、全面バックアップすると言っています。」
年配の男が前のめりで話す。
「こちらは当社のシオン君です。
これから僕のマネージメントは彼に任せます。」
男の話を無視してシオンを紹介した。
「当社ですか？」
年配者がきょとんとした表情で聞き返す。
「ええ、個人事務所を立ち上げる事にしました。」
「個人…、事務所ですか…。
それは併せて…、おめでとうございます。
ご挨拶が遅れました。」
年配者が名刺を差し出す。
若い男も慌てて名刺を出した。

「では次回作の打ち合わせは予定通り明後日にお願いします。
ノミネートされたので、初版は大胆に刷る様、社長に言われています。
本屋に山積みされた先生の本を想像すると気合いが入ります。」
ドアが閉まり、頬を染めた若手の顔が消えた。
アキノリは無言でリビングへ戻る。
重苦しさが部屋を満たした。

「気分転換に走りに行きましょうか。」
唐突にアキノリが立ち上がった。
時計を見ると、既に10時を回っている。
「そろそろ帰らないと。」
「えっ、帰るのですか？
泊まってくれると思っていたのですが。」
アキノリの顔が下を向く。
丸で子供の様だ。
「あっ、いや、迷惑でなければ泊まっていくけど。」
その一言で瞳が輝く。
見開いた瞳に夜景が映っていた。

「どうせなら一緒に住みませんか？
ここ迄、毎日通うのは大変ですし。」
走りながらアキノリが言う。
サングラスで表情は分からないが、少し落ち込みが和らいだらしい。

それは願ってもない誘いだ。
しかもトレーニング機器も揃っている。
家賃と会費が浮けば、ツグムにも金を返せる。
アルバイト代を貰えれば充分だった。

「迷惑じゃないか？」
「迷惑であれば誘いません。
執筆もトレーニングもモチベーションが上がります。
シオンさんが側にいてくれたら。」
アキノリのスピードが増していく。
気が付くと、あの公園の中だった。
見覚えのある遊歩道を走る。
もう少しで、脇道がある筈だ。
息が上がり、呼吸が乱れた。

前を行く背中が消える。
脇道に入ったのだ。
先で待っている広場が脳裏に浮かぶ。
あそこが二人の始まりだった。

(つづく)

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