妄想日記7<<DAYDREAM>>

YAMATO

文字の大きさ
上 下
69 / 112
Chapter7(気場編)

Chapter7-⑦【半分の記憶】

しおりを挟む
「ねぇ、シオンさん、ちゃんと聞いていますか?」
陽子の声で慌てて前を見る。
バックミラーに膨れっ面が映っていた。
「勿論、聞いているよ。
た、滝に連れていってくれるんだろ?」
「そう、パワースポットなんですよ。
最初は肝試しで行ったんですけど、妖精達が話し掛けてくるんです。」
「肝試し?妖精?」思わず繰り返す。
「私はそう呼んでます。
心を無にすると、誰かが語り掛けてくるの。
きっと妖精だわ。」
陽子は意外と運転が上手い。
お陰でついうとうとしてしまう。
昨夜はアキノリとの抱擁で眠りは浅かった。
瞼が重く、気を抜くとくっついてしまう。
 
「どんな事を話してくるんだ?」
何でも良いから口を動かしていないと、睡魔に負けそうだ。
「色んな事よ。
私が質問すると、答えてくれる事もあるの。
だから今日は沖縄に戻った方が良いか、聞いてみるつもり。
シオンさんも何か聞いてみると良いわよ。」
「それって霊じゃないのか?」
肝試しと聞いて不安が過る。
「違うわ、妖精よ。
だって聞いてみたの。」
「誰に?」
「話し掛けてくる人に。
そしたらまぶやーだと答えたわ。」
「まぶやーって?」
「うーん、何て言うんだろ。
敢えて言うと魂かな。」
背筋が冷たい汗が流れた。
 
『それは妖精ではなく、霊だよ!』
反論を何とか飲み込む。
ここで陽子の機嫌を損ねる訳にはいかない。
右側に東シナ海が続く。
テツオとの事を聞いてみようかと思った。
馬鹿らしいと思いながらも、今は神にもすがりたい気持ちだ。
但し霊でなければと、注釈を付けた。
 
「ここから降りるわよ。」
陽子はロープに掴まり、慣れた様子で降りていく。
スニーカーを履いてこいと言われた意味がやっと分かった。
陽子の様に身軽に降りれない。
ドン臭いと思われようが慎重に降りていく。
それでも何度も足が滑った。
 
滝の音が聞こえ出した。
身体が震える。
気温が一気に下がった気がした。
大きな池が見える。
グリーンに染まる水を湛え、神秘的だ。
確かに何かがいそうだ。
一番奥に滝が見えた。
岩場から水流が池に流れ込む。
「ここって泳げるのかな?」
「今は禁止になっているの。
何人も溺れているから。」
変な事を聞いたと後悔する。
 
「お弁当を食べましょう。
早起きして作ってきたの。」
陽子が膝の上にランチボックスを広げた。
この神聖な場所で食事する事が躊躇われる。
だが陽子はそんな風には思わない様だ。
「卵とポークでカラシが隠し味なんです。
辛いのは大丈夫ですか?」
陽子がサンドイッチを差し出す。
受け取る手が震える。
ここの寒さは異常的だった。
 
瞑想する陽子がぶつぶつ言っている。
シオンはここから早く立ち去りたい。
辺りの森は熱帯にいる事を実感させた。
深い緑は原始的だ。
それは神秘的を通り越し、不気味さを漂わせていた。
陽子が早く目を開けてくれる事を願う。
 
水面に波紋が出来た。
突然出来た波紋はどんどん大きくなり、岸に広がっていく。
辺りを見回す。
波紋の出来た訳が分からない。
雨も降ってなければ、葉っぱも落ちてない。
『どうして波紋が?』
シオンは恐怖を覚える。
 
「ねぇ、そろそろ行かないか?」
声を掛けるが、陽子は微動だにしない。
『落ち着け、落ち着け。
怖いと思うから怖いんだ。』
心の中で念ずる。
動かない陽子を見て、恐怖は加速し出した。
 
 
(つづく)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

食われノンケの野球部員

熊次郎
BL
大学野球部の副主将の荒木は人望も厚く、部内で頼りにされている存在だ。 しかし、荒木には人には言えない秘密があった。

白バイ隊員への強淫

熊次郎
BL
浅野拓哉は28歳の白バイ隊員だ。バイクを乗り回し、日々任務を遂行している。白いヘルメットとスカイブルーの制服が奮い立たせるは、仕事への情熱だけのはずたった、、、

消防士の義兄との秘密

熊次郎
BL
翔は5歳年上の義兄の大輔と急接近する。憧れの気持ちが欲望に塗れていく。たくらみが膨れ上がる。

土方の性処理

熊次郎
BL
土方オヤジの緒方龍次はある日青年と出会い、ゲイSEXに目醒める。臭いにおいを嗅がせてケツを掘ると金をくれる青年をいいように利用した。ある日まで性処理道具は青年だった、、、

中年教師と初恋と調教

熊次郎
BL
真田は私立高校の教師だ。ウエイリフティングの顧問。42歳だか168/83のガタイでイカつい顔は生徒に怖がられている。離婚して間もなく真田は女子学生に恋をする。禁断の恋がきっかけで踏み入れては行けない扉を開いた。

体操部出身の新入社員へのセクハラ

熊次郎
BL
渡守は今年入ってきた体操部経験者の新入社員だ。ちょっと変わってるがガッチビで可愛い。初めのきっかけを作ったのは奴からだった。エリートの俺の理性が崩れていく、、、。

ラグビー部主将の屈辱

熊次郎
BL
強豪社会人チームの主将勇次は部員の不祥事をかばい自らの体を差す出す。屈辱に耐えながら、熱くなる体をどうにもできない自分をコントロール出来なくなっていく、、、

競輪師匠の躾け方

熊次郎
BL
13年前競輪界で君臨した男がいた。今となってはイカつい親父の選手だ。弟子の大悟の育成に全力を注いでいる。弟子を守る為に、屈辱の中に秘められた性癖が開花させられる、、、

処理中です...