妄想日記7<<DAYDREAM>>

YAMATO

文字の大きさ
上 下
19 / 112
Chapter2(テツオ編)

Chapter2-⑨【オレンジ】

しおりを挟む
「出過ぎた事は重々承知です。
ですが私に主任の職は無理です。」
つっかえてた言葉が一気に出てくる。
「秘密裏にしていたが、もう知っていたか。」
大門が小さく笑う。
「笑い事ではありません。
私は専門職として入社しました。
今の仕事が大好きなんです。
とても管理職は無理です。」
勢い余って失礼な言葉が出てしまう。
「しかしな、他に適任者がいないんだ。」
「でしたら引き続き主任のままで良いではないでしょうか。」
大門の表情から笑みが消えた。
『怒らせたか?だが後には引けない。』
シオンはじっと大門を見詰める。
 
「君は現主任の下のままで良いのか?
君が一番困ってると思っての移動だが。」
腑に落ちない大門が聞いてきた。
「はい、今の主任のままで結構です。」
「どうしてだ?」
「上手くは言えませんが…。
でも主任がいるお陰で、私は仕事に集中出来ています。
色々小言は言われますが、それ以上に今の仕事に満足しています。
私の仕事を取らないで下さい。
お願いします。」
シオンは大きく頭を下げる。
「そうか…、少し考えさせてくれ。」
「失礼します。」
部長室を出ると、自分の鼓動の音に驚く。
『こんな大胆な事を良くしたもんだ…。』
胸を押さえ、その場にしゃがみ込む。
「どうかなされましたか?」
怜子女子が寄ってきた。
「いや、大丈夫です。
少し立ち眩みがしただけです。
もう落ち着きました。」
シオンはゆっくりと歩き出す。
丸で自分の足ではない感覚だった。
 
結局、シオンは副主任という事で落ち着いた。
相変わらずダミ声は聞こえる。
だが職種が同レベルになった事で、主任の口出しはなくなった。
 
「昇給おめでとうございます。」
陽子が祝いの会を催してくれた。
といっても二人だけだが。
「主任ったら酷いんですよ。
即座に欠席の返事を寄越して。
シオンさんのお陰で左遷されずに済んだのに。」
怜子女子から話は筒抜けの様だ。
「でもいない方が楽しいじゃないか。」
つい本心が溢れた。
「それって、私と二人きりの方が楽しいって意味ですか?」
陽子の言葉にドキッとする。
陽子の美貌は群を向いていた。
隣のテーブルの会社員達もちらちら陽子を見ている。
美形同士の陽子とホクトはとても似合いに思えた。
 
「先日さ、偶然ホクトと知り合ったんだ。」
陽子の箸が止まる。
「ホクトって、サッカー部の?」
「今は大学でアメフトをやっている。
推薦を蹴って、東京迄追ってきたのに、君がつれないと嘆いていたぞ。」
「アイツ、そんな事を言ったの?
落第して、推薦取り消されただけなのに。」
つっけんどんな物言いにシオンは怯む。
「陽子さんは全く気がないのか?
彼は両思いだけど、ツグムが邪魔すると言ってたけど…。」
思わず口籠る。
「あー、バッカじゃないの。
そんな馬鹿だから、気に入らないのよ。
もー、止めましょう、こんな話。
気分が滅入るわ。」
陽子はバッグを持つと、席を立った。
 
まさかあんなに怒るとは思わなかった。
もう二度とホクトの名前を出すまいと心に誓う。
「それでさ、台風がやっと通過したのは帰る前日。
でもあの夕焼けは今でもはっきりと覚えているよ。
海がオレンジ色に染まって、綺麗だったな。」
トイレから戻った陽子に沖縄へ初めて行った時の話をする。
地元の話をすれば、機嫌が直るだろうと、安易な発想だった。
 
 
(つづく)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

思春期のボーイズラブ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:幼馴染の二人の男の子に愛が芽生える  

【 よくあるバイト 】完

霜月 雄之助
BL
若い時には 色んな稼ぎ方があった。 様々な男たちの物語。

後悔 「あるゲイの回想」短編集

ryuuza
BL
僕はゲイです。今までの男たちとの数々の出会いの中、あの時こうしていれば、ああしていればと後悔した経験が沢山あります。そんな1シーンを集めてみました。殆どノンフィクションです。ゲイ男性向けですが、ゲイに興味のある女性も大歓迎です。基本1話完結で短編として読めますが、1話から順に読んでいただくと、より話の内容が分かるかもしれません。

松本先生のハードスパンキング パート1

バンビーノ
BL
 中学3年になると、新しい学年主任に松本先生が決まりました。ベテランの男の先生でした。校内でも信頼が厚かったので、受験を控えた大事な時期を松本先生が見ることになったようです。松本先生は理科を教えていました。恰幅のすごくいいどっしりした感じの先生でした。僕は当初、何も気に留めていませんでした。特に生徒に怖がられているわけでもなく、むしろ慕われているくらいで、特別厳しいという噂もありません。ただ生活指導には厳しく、本気で怒ると相当怖いとは誰かが言っていましたが。  初めての理科の授業も、何の波乱もなく終わりました。授業の最後に松本先生は言いました。 「次の授業では理科室で実験をする。必ず待ち針をひとり5本ずつ持ってこい。忘れるなよ」  僕はもともと忘れ物はしない方でした。ただだんだん中学の生活に慣れてきたせいか、だらけてきていたところはあったと思います。僕が忘れ物に気がついたのは二度目の理科の始業ベルが鳴った直後で、ほどなく松本先生が理科室に入ってきました。僕は、あ、いけないとは思いましたが、気楽に考えていました。どうせ忘れたのは大勢いるだろう。確かにその通りで、これでは実験ができないと、松本先生はとても不機嫌そうでした。忘れた生徒はその場に立つように言われ、先生は一人ずつえんま帳にメモしながら、生徒の席の間を歩いて回り始めました。そして僕の前に立った途端、松本先生は急に険しい表情になり、僕を怒鳴りつけました。 「なんだ、その態度は! 早くポケットから手を出せ!」  気が緩んでいたのか、それは僕の癖でもあったのですが、僕は何気なくズボンのポケットに両手を突っ込んでいたのでした。さらにまずいことに、僕は先生に怒鳴られてもポケットからすぐには手を出そうとしませんでした。忘れ物くらいでなぜこんなに怒られなきゃいけないんだろう。それは反抗心というのではなく、目の前の現実が他人事みたいな感じで、先生が何か言ったのも上の空で聞き過ごしてしまいました。すると松本先生はいよいよ怒ったように振り向いて、教卓の方に向かい歩き始めました。ますますまずい。先生はきっと僕がふてくされていると思ったに違いない。松本先生は何か思いついたように、教卓の上に載せてあった理科室の定規を手に取りました。それは実験のときに使う定規で、普通の定規よりずっと厚みがあり、幅も広いがっしりした木製の一メートル定規です。松本先生はその定規で軽く素振りをしてから、半ば独り言のようにつぶやいたのでした。「いまからこれでケツひっぱたくか……」。  

処理中です...