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Chapter2(テツオ編)
Chapter2-⑨【オレンジ】
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「出過ぎた事は重々承知です。
ですが私に主任の職は無理です。」
つっかえてた言葉が一気に出てくる。
「秘密裏にしていたが、もう知っていたか。」
大門が小さく笑う。
「笑い事ではありません。
私は専門職として入社しました。
今の仕事が大好きなんです。
とても管理職は無理です。」
勢い余って失礼な言葉が出てしまう。
「しかしな、他に適任者がいないんだ。」
「でしたら引き続き主任のままで良いではないでしょうか。」
大門の表情から笑みが消えた。
『怒らせたか?だが後には引けない。』
シオンはじっと大門を見詰める。
「君は現主任の下のままで良いのか?
君が一番困ってると思っての移動だが。」
腑に落ちない大門が聞いてきた。
「はい、今の主任のままで結構です。」
「どうしてだ?」
「上手くは言えませんが…。
でも主任がいるお陰で、私は仕事に集中出来ています。
色々小言は言われますが、それ以上に今の仕事に満足しています。
私の仕事を取らないで下さい。
お願いします。」
シオンは大きく頭を下げる。
「そうか…、少し考えさせてくれ。」
「失礼します。」
部長室を出ると、自分の鼓動の音に驚く。
『こんな大胆な事を良くしたもんだ…。』
胸を押さえ、その場にしゃがみ込む。
「どうかなされましたか?」
怜子女子が寄ってきた。
「いや、大丈夫です。
少し立ち眩みがしただけです。
もう落ち着きました。」
シオンはゆっくりと歩き出す。
丸で自分の足ではない感覚だった。
結局、シオンは副主任という事で落ち着いた。
相変わらずダミ声は聞こえる。
だが職種が同レベルになった事で、主任の口出しはなくなった。
「昇給おめでとうございます。」
陽子が祝いの会を催してくれた。
といっても二人だけだが。
「主任ったら酷いんですよ。
即座に欠席の返事を寄越して。
シオンさんのお陰で左遷されずに済んだのに。」
怜子女子から話は筒抜けの様だ。
「でもいない方が楽しいじゃないか。」
つい本心が溢れた。
「それって、私と二人きりの方が楽しいって意味ですか?」
陽子の言葉にドキッとする。
陽子の美貌は群を向いていた。
隣のテーブルの会社員達もちらちら陽子を見ている。
美形同士の陽子とホクトはとても似合いに思えた。
「先日さ、偶然ホクトと知り合ったんだ。」
陽子の箸が止まる。
「ホクトって、サッカー部の?」
「今は大学でアメフトをやっている。
推薦を蹴って、東京迄追ってきたのに、君がつれないと嘆いていたぞ。」
「アイツ、そんな事を言ったの?
落第して、推薦取り消されただけなのに。」
つっけんどんな物言いにシオンは怯む。
「陽子さんは全く気がないのか?
彼は両思いだけど、ツグムが邪魔すると言ってたけど…。」
思わず口籠る。
「あー、バッカじゃないの。
そんな馬鹿だから、気に入らないのよ。
もー、止めましょう、こんな話。
気分が滅入るわ。」
陽子はバッグを持つと、席を立った。
まさかあんなに怒るとは思わなかった。
もう二度とホクトの名前を出すまいと心に誓う。
「それでさ、台風がやっと通過したのは帰る前日。
でもあの夕焼けは今でもはっきりと覚えているよ。
海がオレンジ色に染まって、綺麗だったな。」
トイレから戻った陽子に沖縄へ初めて行った時の話をする。
地元の話をすれば、機嫌が直るだろうと、安易な発想だった。
(つづく)
ですが私に主任の職は無理です。」
つっかえてた言葉が一気に出てくる。
「秘密裏にしていたが、もう知っていたか。」
大門が小さく笑う。
「笑い事ではありません。
私は専門職として入社しました。
今の仕事が大好きなんです。
とても管理職は無理です。」
勢い余って失礼な言葉が出てしまう。
「しかしな、他に適任者がいないんだ。」
「でしたら引き続き主任のままで良いではないでしょうか。」
大門の表情から笑みが消えた。
『怒らせたか?だが後には引けない。』
シオンはじっと大門を見詰める。
「君は現主任の下のままで良いのか?
君が一番困ってると思っての移動だが。」
腑に落ちない大門が聞いてきた。
「はい、今の主任のままで結構です。」
「どうしてだ?」
「上手くは言えませんが…。
でも主任がいるお陰で、私は仕事に集中出来ています。
色々小言は言われますが、それ以上に今の仕事に満足しています。
私の仕事を取らないで下さい。
お願いします。」
シオンは大きく頭を下げる。
「そうか…、少し考えさせてくれ。」
「失礼します。」
部長室を出ると、自分の鼓動の音に驚く。
『こんな大胆な事を良くしたもんだ…。』
胸を押さえ、その場にしゃがみ込む。
「どうかなされましたか?」
怜子女子が寄ってきた。
「いや、大丈夫です。
少し立ち眩みがしただけです。
もう落ち着きました。」
シオンはゆっくりと歩き出す。
丸で自分の足ではない感覚だった。
結局、シオンは副主任という事で落ち着いた。
相変わらずダミ声は聞こえる。
だが職種が同レベルになった事で、主任の口出しはなくなった。
「昇給おめでとうございます。」
陽子が祝いの会を催してくれた。
といっても二人だけだが。
「主任ったら酷いんですよ。
即座に欠席の返事を寄越して。
シオンさんのお陰で左遷されずに済んだのに。」
怜子女子から話は筒抜けの様だ。
「でもいない方が楽しいじゃないか。」
つい本心が溢れた。
「それって、私と二人きりの方が楽しいって意味ですか?」
陽子の言葉にドキッとする。
陽子の美貌は群を向いていた。
隣のテーブルの会社員達もちらちら陽子を見ている。
美形同士の陽子とホクトはとても似合いに思えた。
「先日さ、偶然ホクトと知り合ったんだ。」
陽子の箸が止まる。
「ホクトって、サッカー部の?」
「今は大学でアメフトをやっている。
推薦を蹴って、東京迄追ってきたのに、君がつれないと嘆いていたぞ。」
「アイツ、そんな事を言ったの?
落第して、推薦取り消されただけなのに。」
つっけんどんな物言いにシオンは怯む。
「陽子さんは全く気がないのか?
彼は両思いだけど、ツグムが邪魔すると言ってたけど…。」
思わず口籠る。
「あー、バッカじゃないの。
そんな馬鹿だから、気に入らないのよ。
もー、止めましょう、こんな話。
気分が滅入るわ。」
陽子はバッグを持つと、席を立った。
まさかあんなに怒るとは思わなかった。
もう二度とホクトの名前を出すまいと心に誓う。
「それでさ、台風がやっと通過したのは帰る前日。
でもあの夕焼けは今でもはっきりと覚えているよ。
海がオレンジ色に染まって、綺麗だったな。」
トイレから戻った陽子に沖縄へ初めて行った時の話をする。
地元の話をすれば、機嫌が直るだろうと、安易な発想だった。
(つづく)
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