妄想日記7<<DAYDREAM>>

YAMATO

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Chapter2(テツオ編)

Chapter2-⑧【ジワるDAYS】

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「私は早く独り暮らししたいんです。
あんながさつな兄と同居してたら、恋人も出来ません。
お給料さえ上がればな。」
「陽子君は美人だから、理想が高いんじゃないか？」
大門は冗談で切り返した。

「土曜日は挨拶もせずに帰って、済みませんでした。
テツオとミーティング中と聞きましたので。」
陽子がいなくなったタイミングで頭を下げる。
「ミーティングか…。
誰が言った？」
「ホクト君から聞きました。」
正直に告げる。
「ホクトか…。
他に何か言っていなかったか？」
「特には聞いていませんが。」
まさかパイパン同士で風呂へ行った等言えない。
そこで大門が黙った。
「ではオフィスに戻ります。
これ、ご馳走様でした。」
コーヒーを溢さない様に早足でその場を後にする。
背後から痛い程視線を感じた。

「おい、いつの間に部長と仲良しになったんだ？」
席に戻ると、ダミ声が待ち構えていた。
「先週の木曜日に。
資料の出来を誉めて頂きました。」
シオンは顔を上げずに答える。
「その後、食事に誘ってもらいました。」
視界の端に震える拳が見えた。
「ど、どんな話をしたんだ？」
「ここの職場について。
仕事はしやすいかとか聞かれました。」
「で、どう答えたんだ？」
低い声で、怒りに耐えている事が分かる。
「明るい職場だと答えました。
陽子さんのお陰で。」
「あっ、それでさっき部長はあんな事を言ったんだ。」
隣の陽子が入ってきた。
一発即発の雰囲気を察したのだろう。
「私のお喋りが上にも聞こえているのかと、心配しちゃった。」
態とおどけて陽子が言う。

「なら、いい…。」
主任は自席へ戻っていった。
『あ、り、が、と、う。』
声に出さずに口を動かす。
陽子は微笑み返すと、パソコンに目を向けた。

「私、秘書の怜子女子に聞いちゃったの。」
退社後、陽子と待ち合わせをしていた。
席に座るなり、口を開く。
「何を聞いたんだ？」
シオンはポカンと陽子を見る。
「絶対に他言無用よ。」
近付いた顔の前で人差し指を立てた。
シオンは唾を飲み込んで、大きく頷く。
「どうも主任は左遷らしいの。」
「えっ！」
「声が大きい。シー。」
嗜まれたシオンは真一文字に口を閉じる。
「で、後任は誰だと思う？」
黙ったまま顔を振るしかない。
「どうもシオンさんらしいの。
部長が強く押してるって。」
シオンは目の前が真っ暗になった。

「それで主任はシオンさんの事が気になって、しょうがないのよ。」
陽子の言葉でやっと納得がいく。
主任が自分を目の敵にする訳を。
左遷させられる主任は自業自得だが、かといって自分が主任になるのは無理がある。
皆が出世欲を持っている訳ではない。
シオンみたく毎日、平凡な人生を送っている事に幸せを感じる者もいるのだ。
『何としても阻止しなくては！
他人に指示するなんて、俺には絶対に無理だ！』
陽子の口は動いたままだが、その内容は一切入ってこない。
不安がじわじわと押し寄せてきた。

「失礼します。」
大門の部屋をノックする。
ここ迄来るのに一時間要した。
何度も行き来を繰り返したのだ。
「どうぞ。」中から返事が聞こえた。
「おう、どうした？
ここへ来るのは初めてだな。」
シオンは後ろ手でドアを閉めると、背筋を伸ばす。
何度もシミュレーションしてきたが、口が動かない。
「人事の事か？」
先に大門が口を開いた。

(つづく)

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