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Chapter1(シオン編)
Chapter1-⑩【夢見る少女じゃいられない】
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「あっ、大門さん、お疲れ様です。」
キャップを被った男が入ってきた。
グランドコートを着た男はまだ大学生にしか見えない。
『これがテツオ?』
やはり会わなかった方が良かった。
疲れ切った自分を見せたくない。
「お疲れ、ビールでいいか?」
「はい、ゴチになります。」
キャップを取った男が席に座った。
「誰だか分かるか?」大門が聞く。
テツオがまじまじとシオンを見た。
「えっ、知ってる人ですか?」
きょとんとした表情を見て、益々暗い気分になる。
「あっ、もしかして…、シオン?」
見開いた瞳が小さくなっていく。
「マジにシオンか!懐かしいな!
どうしてる?何してる?元気か?」
テツオはシオンの両手を握ると、大きく振った。
振られた事で、暗い気持ちも失せていく。
「そうか、大門さんの所で働いているのか。
英文科出はいいよな。
俺なんて、バイトしながら、コーチ業だ。
貧乏暇なしで、クタクタだぜ。」
そう言いながらも、瞳は輝いている。
充実した毎日を送っている証拠だ。
「だったらウチへ来ればいい。
何度も誘っているだろう。」
「ありがとうございます。
只、身体が動く内はアメフトやってたいんです。
それに俺にデスクワークは無理です。」
屈託のない笑顔は少しも変わってない。
ジョッキを持つ腕が盛り上がる。
二頭筋に浮かぶ血管が淫らに思えた。
「シオンさ、筋肉付いたな。
昔はガリガリだったのによ。」
「テツオから見たら、誰だってガリガリだよ。」
つい昔の口調に戻ってしまう。
慌てて大門を見るが、そんな事に気を掛けている様子はない。
少し安心して、近況を聞いてみる。
「コーチ以外は配送業のバイトだ。
力仕事以外は出来ないしな。」
おどけたテツオが力こぶを作って見せた。
『あれっ?』捲れ上がった袖から二頭筋が剥き出しになる。
そこに太い輪っかの跡があった。
その跡は縄文土器の模様に似ていた。
『縄?』シオンは見てはいけない物を見た気がした。
「部長から見て、テツオのコーチングはどうですか?」
違う話へ持っていく。
「そうだな、フィジカル面は文句ないんだが、戦略となると…。」
「それはヘッドコーチの仕事ですから。
俺は肉体強化専門ですから。」
テツオが胸を叩く。
「まあ、そこは最初から期待してないしな。」
大門が愉快そうに笑った。
だがシオンは素直に笑えない。
『緊縛、拘束、SM』
淫らな単語が頭を駆け巡る。
『このテツオがそんなプレイを…。相手は?』
この発達した筋肉に食い込む荒縄が脳裏に浮かぶ。
股間が熱くなっていく。
「今度、練習見に来ないか?」
その誘いに淫らさは一切ない。
「いつ?」
「直近の土曜日だと、明日だけど。」
「明日なら俺も顔を出す。
どうだ来ないか?」
大門にも同調され、断る事は出来ない。
「明日でしたら大丈夫です。」
「だったらN大学のグランドに10時だ。
遅れるなよ。」
一気に距離が縮まった。
だが手放しでは喜べない。
明日はツグムのジムへ行く約束をしている。
あの日、今後も殴られる代わりに条件を出した。
「俺のトレーニングを見て欲しいんだ。
俺をマッチョにしてくれ。」
「ちっ、仕方ねぇな。
本来ならパーソナル代取る所だけどよ。」
ツグムは条件を飲んだ。
『優しさが、時として。』
陽子の言葉が引っ掛かっていた。
優しいだけでない男になりたかった。
(完)
キャップを被った男が入ってきた。
グランドコートを着た男はまだ大学生にしか見えない。
『これがテツオ?』
やはり会わなかった方が良かった。
疲れ切った自分を見せたくない。
「お疲れ、ビールでいいか?」
「はい、ゴチになります。」
キャップを取った男が席に座った。
「誰だか分かるか?」大門が聞く。
テツオがまじまじとシオンを見た。
「えっ、知ってる人ですか?」
きょとんとした表情を見て、益々暗い気分になる。
「あっ、もしかして…、シオン?」
見開いた瞳が小さくなっていく。
「マジにシオンか!懐かしいな!
どうしてる?何してる?元気か?」
テツオはシオンの両手を握ると、大きく振った。
振られた事で、暗い気持ちも失せていく。
「そうか、大門さんの所で働いているのか。
英文科出はいいよな。
俺なんて、バイトしながら、コーチ業だ。
貧乏暇なしで、クタクタだぜ。」
そう言いながらも、瞳は輝いている。
充実した毎日を送っている証拠だ。
「だったらウチへ来ればいい。
何度も誘っているだろう。」
「ありがとうございます。
只、身体が動く内はアメフトやってたいんです。
それに俺にデスクワークは無理です。」
屈託のない笑顔は少しも変わってない。
ジョッキを持つ腕が盛り上がる。
二頭筋に浮かぶ血管が淫らに思えた。
「シオンさ、筋肉付いたな。
昔はガリガリだったのによ。」
「テツオから見たら、誰だってガリガリだよ。」
つい昔の口調に戻ってしまう。
慌てて大門を見るが、そんな事に気を掛けている様子はない。
少し安心して、近況を聞いてみる。
「コーチ以外は配送業のバイトだ。
力仕事以外は出来ないしな。」
おどけたテツオが力こぶを作って見せた。
『あれっ?』捲れ上がった袖から二頭筋が剥き出しになる。
そこに太い輪っかの跡があった。
その跡は縄文土器の模様に似ていた。
『縄?』シオンは見てはいけない物を見た気がした。
「部長から見て、テツオのコーチングはどうですか?」
違う話へ持っていく。
「そうだな、フィジカル面は文句ないんだが、戦略となると…。」
「それはヘッドコーチの仕事ですから。
俺は肉体強化専門ですから。」
テツオが胸を叩く。
「まあ、そこは最初から期待してないしな。」
大門が愉快そうに笑った。
だがシオンは素直に笑えない。
『緊縛、拘束、SM』
淫らな単語が頭を駆け巡る。
『このテツオがそんなプレイを…。相手は?』
この発達した筋肉に食い込む荒縄が脳裏に浮かぶ。
股間が熱くなっていく。
「今度、練習見に来ないか?」
その誘いに淫らさは一切ない。
「いつ?」
「直近の土曜日だと、明日だけど。」
「明日なら俺も顔を出す。
どうだ来ないか?」
大門にも同調され、断る事は出来ない。
「明日でしたら大丈夫です。」
「だったらN大学のグランドに10時だ。
遅れるなよ。」
一気に距離が縮まった。
だが手放しでは喜べない。
明日はツグムのジムへ行く約束をしている。
あの日、今後も殴られる代わりに条件を出した。
「俺のトレーニングを見て欲しいんだ。
俺をマッチョにしてくれ。」
「ちっ、仕方ねぇな。
本来ならパーソナル代取る所だけどよ。」
ツグムは条件を飲んだ。
『優しさが、時として。』
陽子の言葉が引っ掛かっていた。
優しいだけでない男になりたかった。
(完)
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