妄想日記4<<New WORLD>>

YAMATO

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Chapter11(The Wind Rises編)

Chapter11-⑩【カンナ8号線】

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単調な読経が続く中、あちこちから啜り泣きが聞こえた。
ブラックは遺影のピンクと視線が合わない様に、 固く瞼を閉ざす。
入学式に派手なピンクのスーツでやって来た姿が蘇る。
直ぐに意気投合し、スーツアクターについて夢中で話した。
部活動の申請をする為に、二人で校門の前に立ち勧誘を続けた。
やっと部室のドアをノックしてくれたのがブルーとイエローだ。
盟友との想い出は尽きる事がない。
「おい、焼香してる奴を見ろ。」
隣のブルーが囁く。
むち打ちのギブスをした姿が痛々しい。
吐き気が続くイエローはまだ入院中だ。
焼香中の男に目を向けた。
礼服を着ているが相当の筋量が計り知れる。
「あの日、バスが横転した後に車が一台来たんだ。
降りてきた奴に似てる。」
ブルーがボソッと言う。
「間違いないか?」
「いや、分からん。
存在自体忘れてたからな。
ただ今見て、ピンと来たんだ。」
「風紀マンとは別にもう一人いたんだな。」
貴重な情報を知り、念を押す。
「ああ、ムービー持って、乱闘を撮影してた。
それにあの日の風紀マンはチビッコだった。」
「記録してたのか。」
「それと確かじゃねぇが、ナイトで出くわした風紀マンは奴だと思う。
背格好が似すぎてる。
並外れた筋肉の奴なんて、そうはいないからな。」
首を固定されたブルーが視線だけで、出口に向かう男を追う。
話を聞いて、ナツキとの推理が裏付けされた。
あの男が元風紀マンで、チビッコの新風紀マンの試験風景を記録していた。
きっと審査委員会に提出するのだろう。
ブラックは席を立つ。
「まさか追うのか?
止めとけ、危険過ぎる。」
ブルーが袖口を掴む。
「何故、奴がここに来たと思うか?
俺を誘っているんだ。
近くに新風紀マンがいる筈だ。
挨拶してくるさ。」
袖から手が離れた。
 
駐車場の片隅にスモールライトの点いたセダンが一台停車していた。
礼服の男が助手席に滑り込んだ。
ヘッドライトを全灯させたセダンが駐車場から出ていく。
ブラックは愛車に跨がり、テールランプを追走した。
セダンは甲州街道を西に向かって走る。
右手に煌々と輝く味の素スタジアムが見えてきたが、止まる気配はない。
調布を通過して暫くすると、左折を知らせるドアミラーが点滅した。
ブラックもウィンカーを出す。
センターラインもない狭い道だが、スピードを落とさない。
赤信号を無視して、セダンは一方通行の道を逆走行していく。
「いて欲しい時に限って、警察はいないもんだな。
仕方ねぇな。」
ブラックは舌打ちすると、右ハンドルを持ち直す。
その時、けたたましい警報音が鳴り響いた。
緊急地震速報だ。
慌ててバイクを止め、固唾を呑む。
揺れ始めだが、然程大きくはない。
精々震動3程度だろう。
揺れが収まると、一方通行の道に視線を送る。
ぎりぎり車がすれ違える道幅で、長い壁が続いていた。
セダンはもういない。
ブラックは誰もいない事を確認し、一方通行の道を進む。
誘っておいて、このまま奴が去るとは思えない。
その瞬間、二つのライトがブラックを捉えた。
道のど真ん中を車が加速してくる。
道幅を考えれば車の脇をすり抜けられそうだ。
ブラックはアクセルを全開にした。
 
至近距離になって、向かってくるセダンに違和感を覚える。
車幅がやけに短い。
ハイビームの奥に目を凝らす。
左右のライトの大きさが微妙に違う。
二台の車が並走していたのだ。
両車とも壁側のライトを消し、一台を装っている。 
「しまった!」
両側は壁に囲まれ、逃道はない。
ブラックは覚悟を決め、前輪を持ち上げた。
「ピンク見てろ!
ここで決めなきゃ、スーツアクターは名乗れないからな!」
バイクをフロントガラスの角度に固定し、一気に駈け上る。
瞬間、礼服の男が微笑んだのが分かった。
隣のマスクを被った男を脳裡に焼き付ける。
 
夜の静寂に衝撃音が響き渡った。
大きくジャンプしたバイクの態勢を空中で立て直す。
恐怖より、高揚感が勝った。
着地の衝撃を上手く逃がし、そのまま疾走する。
バックミラーに二台のテールランプの白灯が映った。
ブレーキランプが点く事なく駈け抜けて行く。
ブラックはバイクを止めると、ヘルメットを外す。
大量の汗が顔を濡らしていた。
「次に買うのはモトクロスだな。」
ネクタイを緩め、バイクを下りる。
狭い道には近隣の住人が集まっていた。
一方通行が終わるまでバイクを押す事にする。
「ピンク、ありがとな。
絶対、仇を討つぜ!」
ブラックはそう語り掛けると、夜空を見上げた。
まだ背筋がゾクゾクしている。
このスリルが俺の生きる道だと、夜空に誓う。
何故か、股間が隆起していた。
沸き上がる性欲を覚えた。
「これが生きてる証なんだな。」
一方通行が終わり、バイクに跨がる。
風にはためくスーツの音が心地好い。
分離帯で咲くピンク色のカンナが背中を押してくれた。
 
 
(完)
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