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Chapter13(生誕編)
Chapter13-⑦【悲しみは雪のように】
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しかしブレーキが踏み込めない。
「な、何だ!
どうなってんだ?」
目を見開き、迫る障害物に叫ぶ。
道の左側にトラックが停車していた。
瞬時にハンドルを右に戻す。
だがパジェロのフロントがトラックのリアに接触した。
車体は減速しないまま右に逸れて行く。
『ガッシャーン!』
電柱に激突した爆音に、人が集まり出す。
リョウは野次馬を掻き分け、人垣の前に出る。
パジェロは大破し、割れたフロントガラスから血塗れのナリヒラが見えた。
「誰か、救急車を呼んで下さい。」
野次馬達へ呼び掛ける。
運転席のドアは開きそうもない。
助手席に回り込み、中に頭を突っ込む。
ハンドルがのめり込み、ナリヒラを引き摺り出すのは無理そうだ。
ブレーキ板の下に手を伸ばす。
潰れた缶コーヒーを取り出すと、ポケットに仕舞う。
目の前にダラリと伸びた手があった。
逆さになった髑髏の目が赤く光る。
歪に曲がった手から指輪を外した。
「こちら側からでは出そうもありません。
運転席のドアをこじ開けるのを手伝って下さい!」
助手席から顔を出すと、ざわつく人混みに声を掛ける。
停車していたトラックの運転手が、工具を持って来た。
ドアの回りに人だかりが出来、皆で力を合わせる。
それを見届けたリョウは、野次馬達を後にした。
サイレンの音が近付いて来る。
ポケットから拉げた缶コーヒーを取り出し、一気に飲み干す。
「グッドジョブ!」
自分自身を労う。
大通りを反対側に渡り、裏道に入る。
ひたすら住宅街を歩き、駅を目指す。
リョウのごつい指でスカルが笑っていた。
イオリは翌日の新聞でその事故を知った。
地方版の片隅の小さな記事だった。
死亡者の名前と年齢からいってナリヒラに間違いない。
猛スピードで左折したと目撃談が載っていて、操作ミスか?と締め括られていた。
イオリは違和感を拭い去れない。
ナリヒラは次の日曜日、リョウに会いに行くと言った。
その日曜日は昨日だ。
『偶然の一致だろうか?』
直ぐにイオリの中で燻る焔が『NO!』と答えた。
自分の中の焔とリョウの中の怪物は同じ類いだと思う。
イオリも当初は焔に翻弄された。
今くらいの燻り方だと、何とかコントロール出来る。
しかし次に業火の如く燃え立った時、それはイオリの破滅を意味していた。
遅かれ早かれリョウも、己の中の怪物によって身を滅ぼすだろう。
対峙か撤退か、判断が付かない。
頭を冷まそうと、カーテンと窓を開ける。
一面、白銀の雪景色だった。
空を見上げると、雪はもう止んでいる。
冷たい風に身震いした。
窓を閉めようと下を見下ろした時、妙な物が目に入った。
一般道からアパートの敷地に足跡が続く。
その足跡はアパートに入ることなく、また一般道へ戻って行った。
誰かがあの位置からアパートを見上げていたんだ。
「リョウだ!」
そこに佇むリョウの幻を見た。
宣戦布告か、それとも単なる視察か?
イオリにはその両方に思えた。
態々雪の日を選んだのは、イオリに気付かせる為だ。
表に出て、Uターンした足跡を見に行く。
間近で見ると、Uのカーブの位置だけ複数の足跡が残っていた。
やはりここで立ち止まっていたんだ。
そこから見上げると、丁度イオリ達の部屋が正面に見える。
引き返すそうとすると、足元で何かが光った。
「あっ!」
雪の中から髑髏が覗く。
不気味に微笑むスカルの彫金は、ナリヒラの指で笑っていた物だ。
震えが止まらないのは、北風だけの所為ではなかった。
(完)
「な、何だ!
どうなってんだ?」
目を見開き、迫る障害物に叫ぶ。
道の左側にトラックが停車していた。
瞬時にハンドルを右に戻す。
だがパジェロのフロントがトラックのリアに接触した。
車体は減速しないまま右に逸れて行く。
『ガッシャーン!』
電柱に激突した爆音に、人が集まり出す。
リョウは野次馬を掻き分け、人垣の前に出る。
パジェロは大破し、割れたフロントガラスから血塗れのナリヒラが見えた。
「誰か、救急車を呼んで下さい。」
野次馬達へ呼び掛ける。
運転席のドアは開きそうもない。
助手席に回り込み、中に頭を突っ込む。
ハンドルがのめり込み、ナリヒラを引き摺り出すのは無理そうだ。
ブレーキ板の下に手を伸ばす。
潰れた缶コーヒーを取り出すと、ポケットに仕舞う。
目の前にダラリと伸びた手があった。
逆さになった髑髏の目が赤く光る。
歪に曲がった手から指輪を外した。
「こちら側からでは出そうもありません。
運転席のドアをこじ開けるのを手伝って下さい!」
助手席から顔を出すと、ざわつく人混みに声を掛ける。
停車していたトラックの運転手が、工具を持って来た。
ドアの回りに人だかりが出来、皆で力を合わせる。
それを見届けたリョウは、野次馬達を後にした。
サイレンの音が近付いて来る。
ポケットから拉げた缶コーヒーを取り出し、一気に飲み干す。
「グッドジョブ!」
自分自身を労う。
大通りを反対側に渡り、裏道に入る。
ひたすら住宅街を歩き、駅を目指す。
リョウのごつい指でスカルが笑っていた。
イオリは翌日の新聞でその事故を知った。
地方版の片隅の小さな記事だった。
死亡者の名前と年齢からいってナリヒラに間違いない。
猛スピードで左折したと目撃談が載っていて、操作ミスか?と締め括られていた。
イオリは違和感を拭い去れない。
ナリヒラは次の日曜日、リョウに会いに行くと言った。
その日曜日は昨日だ。
『偶然の一致だろうか?』
直ぐにイオリの中で燻る焔が『NO!』と答えた。
自分の中の焔とリョウの中の怪物は同じ類いだと思う。
イオリも当初は焔に翻弄された。
今くらいの燻り方だと、何とかコントロール出来る。
しかし次に業火の如く燃え立った時、それはイオリの破滅を意味していた。
遅かれ早かれリョウも、己の中の怪物によって身を滅ぼすだろう。
対峙か撤退か、判断が付かない。
頭を冷まそうと、カーテンと窓を開ける。
一面、白銀の雪景色だった。
空を見上げると、雪はもう止んでいる。
冷たい風に身震いした。
窓を閉めようと下を見下ろした時、妙な物が目に入った。
一般道からアパートの敷地に足跡が続く。
その足跡はアパートに入ることなく、また一般道へ戻って行った。
誰かがあの位置からアパートを見上げていたんだ。
「リョウだ!」
そこに佇むリョウの幻を見た。
宣戦布告か、それとも単なる視察か?
イオリにはその両方に思えた。
態々雪の日を選んだのは、イオリに気付かせる為だ。
表に出て、Uターンした足跡を見に行く。
間近で見ると、Uのカーブの位置だけ複数の足跡が残っていた。
やはりここで立ち止まっていたんだ。
そこから見上げると、丁度イオリ達の部屋が正面に見える。
引き返すそうとすると、足元で何かが光った。
「あっ!」
雪の中から髑髏が覗く。
不気味に微笑むスカルの彫金は、ナリヒラの指で笑っていた物だ。
震えが止まらないのは、北風だけの所為ではなかった。
(完)
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今日、完全に、最後まで読み終わりました。これからも続くのですか?興奮覚めやらずです👍‼️
今日わ❗、初めまして。メチャクチャエロくて面白いですね。今度は姉の旦那と、姉の弟の、話を書いて下さい✊‼️
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