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Chapter13(生誕編)
Chapter13-⑤【READY STEADY GO】
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「後二ヶ月だ。」
イオリは呟く。
後二ヶ月経てば、リョウは東京に行く。
それまで時間稼ぎさえ出来れば、それで良かった。
イオリはジュンヤと別れると、電車を乗り継ぎ堂山へ向かう。
一年前の記憶だが、店は直ぐに分かった。
店に入ると、キャサリンは仕込みの最中だ。
「まだ開けてないんですけど…。
あら、前に来てくれた…。」
さすがに名前までは覚えてないらしい。
「イオリといいます。
ビールを貰えますか?」
立ち話で済ます内容ではないので、強引に注文をする。
キャサリンは嫌な顔もせず、グラスにビールを注ぐ。
「で、お話は?」
ビール瓶を置くと、キャサリンが聞いてきた。
「何故、話があると分かったんですか?」
イオリは目を見開きキャサリンを見る。
「一年近く来てないお客さんが開店前に居座るのよ。
特別なお話がある事は直ぐに分かるわ。」
冗談交じりに言うと、ウインクして見せた。
「その一年前にここにいた…。
高校生に騙されたと言っていた人に連絡を取りたいのですが。」
イオリは今は空いているカウンター席を指差す。
「あっ、ナリさんね。
でもどうして?」
キャサリンが乾きものを出しながら、聞いてくる。
リョウの目先を他に移すのが手っ取り早い。
ヨウの時にも使った作戦だ。
ナリヒラでは悪辣過ぎるが、今は手段を選んでいる時間がない。
『目には目を』で行くしかなかった。
「その高校生らしき人の居場所が分かったので、教えてあげたいんです。」
来店の真意を伝える。
「今更?もう一年も前の話よ。
本人も忘れているようだがら、そっとしておいたら?」
キャサリンが眉を顰た。
店の客をトラブルに巻き込みたくないのだろう。
「もう本人は忘れているんですか?
なら、余計なお世話ですね。」
失笑を買い、照れ隠しにビールを追加する。
「さあ、作り立てよ。
温かい田楽ですけど、お気に召すかしら?」
キャサリンがお通しを出してくれた。
「美味しいです。」
味噌の風味を愉しむ。
別のルートからナリヒラとのコンタクトを試みようと、あれこれ思案しなから箸を動
かす。
ドアの呼び鈴が鳴った。
「いらっしゃい!
あら、ナリさん…。」
キャサリンの表情が曇る。
「よっ、キヨシ。
相変わらず時化た店だな。」
ナリヒラが悪態を吐きながら座った。
「お店で本名は呼ばないでって、言ってるでしょ!
いつものロックでいいかしら?」
キャサリンはナリヒラに話し掛けながら、イオリに目配せする。
喋るなという、サインだと直ぐに分かった。
「前にここで会いましたよね?」
その視線に気付かぬ振りをして口を開く。
「そうだっけ?」
ナリヒラは首を捻る。
「一年前にここで、高校生に騙されたと言ってませんでしたか?」
イオリが話し出すと、キャサリンは背中を向けた。
「おう、あの時の!」
叩い手の音が狭い店に響く。
「実はリョウと言う名前の高校生を見掛けたので、知らせようと思って来たんです。」
イオリは一気に話し出す。
「マジか!俺もあの後、色々探したんだけどな。
で、どこにいたんだ?」
ナリヒラが身を乗り出す。
教習所の名前と日曜日の午後に見掛けた事を伝える。
「よっしゃあ!
早速、次の日曜日に行ってみるぜ。
少し痛い目に合わせねぇと、碌な大人にならねぇからな!
まあ、一杯飲めよ。奢るぜ。」
上機嫌なナリヒラがイオリの肩を叩く。
肩に置かれた指に、彫金のスカルが不気味に笑っていた。
(つづく)
イオリは呟く。
後二ヶ月経てば、リョウは東京に行く。
それまで時間稼ぎさえ出来れば、それで良かった。
イオリはジュンヤと別れると、電車を乗り継ぎ堂山へ向かう。
一年前の記憶だが、店は直ぐに分かった。
店に入ると、キャサリンは仕込みの最中だ。
「まだ開けてないんですけど…。
あら、前に来てくれた…。」
さすがに名前までは覚えてないらしい。
「イオリといいます。
ビールを貰えますか?」
立ち話で済ます内容ではないので、強引に注文をする。
キャサリンは嫌な顔もせず、グラスにビールを注ぐ。
「で、お話は?」
ビール瓶を置くと、キャサリンが聞いてきた。
「何故、話があると分かったんですか?」
イオリは目を見開きキャサリンを見る。
「一年近く来てないお客さんが開店前に居座るのよ。
特別なお話がある事は直ぐに分かるわ。」
冗談交じりに言うと、ウインクして見せた。
「その一年前にここにいた…。
高校生に騙されたと言っていた人に連絡を取りたいのですが。」
イオリは今は空いているカウンター席を指差す。
「あっ、ナリさんね。
でもどうして?」
キャサリンが乾きものを出しながら、聞いてくる。
リョウの目先を他に移すのが手っ取り早い。
ヨウの時にも使った作戦だ。
ナリヒラでは悪辣過ぎるが、今は手段を選んでいる時間がない。
『目には目を』で行くしかなかった。
「その高校生らしき人の居場所が分かったので、教えてあげたいんです。」
来店の真意を伝える。
「今更?もう一年も前の話よ。
本人も忘れているようだがら、そっとしておいたら?」
キャサリンが眉を顰た。
店の客をトラブルに巻き込みたくないのだろう。
「もう本人は忘れているんですか?
なら、余計なお世話ですね。」
失笑を買い、照れ隠しにビールを追加する。
「さあ、作り立てよ。
温かい田楽ですけど、お気に召すかしら?」
キャサリンがお通しを出してくれた。
「美味しいです。」
味噌の風味を愉しむ。
別のルートからナリヒラとのコンタクトを試みようと、あれこれ思案しなから箸を動
かす。
ドアの呼び鈴が鳴った。
「いらっしゃい!
あら、ナリさん…。」
キャサリンの表情が曇る。
「よっ、キヨシ。
相変わらず時化た店だな。」
ナリヒラが悪態を吐きながら座った。
「お店で本名は呼ばないでって、言ってるでしょ!
いつものロックでいいかしら?」
キャサリンはナリヒラに話し掛けながら、イオリに目配せする。
喋るなという、サインだと直ぐに分かった。
「前にここで会いましたよね?」
その視線に気付かぬ振りをして口を開く。
「そうだっけ?」
ナリヒラは首を捻る。
「一年前にここで、高校生に騙されたと言ってませんでしたか?」
イオリが話し出すと、キャサリンは背中を向けた。
「おう、あの時の!」
叩い手の音が狭い店に響く。
「実はリョウと言う名前の高校生を見掛けたので、知らせようと思って来たんです。」
イオリは一気に話し出す。
「マジか!俺もあの後、色々探したんだけどな。
で、どこにいたんだ?」
ナリヒラが身を乗り出す。
教習所の名前と日曜日の午後に見掛けた事を伝える。
「よっしゃあ!
早速、次の日曜日に行ってみるぜ。
少し痛い目に合わせねぇと、碌な大人にならねぇからな!
まあ、一杯飲めよ。奢るぜ。」
上機嫌なナリヒラがイオリの肩を叩く。
肩に置かれた指に、彫金のスカルが不気味に笑っていた。
(つづく)
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