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Chapter13(生誕編)
Chapter13-④【表裏一体】
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ジュンヤは股間の痛みで飛び起きた。
「い、痛ぇ!」
股間を摩るが、痛みは引かない。
何がどうなっているのか、さっぱり分からない。
慌てふためきパジャマを下げる。
朝起ちしたマラは毎朝の光景だ。
ただ違うのは睾丸の付け根に、分厚いリングがガッチリ嵌まっていた。
「こ、これは!」
このリングに見覚えがある。
以前、リョウが行き摩りの男に噛まされた奴だ。
そういえば、昨夜リョウが来た夢を見た。
徐々に記憶が蘇ってくる。
「あの野郎!」
ジュンヤは顔を真っ赤にしてリビングに向かった。
受話器を持つと、リョウの家の電話番号を回す。
数回の呼出し音の後、留守電のメッセージが流れた。
「チキショ!」
ジュンヤは納戸の中の工具入れをひっくり返す。
もしかしてと思ったが、やはり六角レンチなど入っていなかった。
試験前にホームセンターが開いている訳がない。
八方塞がりだ。
藁にも縋る気持ちでイオリに電話を掛ける。
「はい、もしもし…。」
眠たげな声が聞こえた。
その声を聞いた瞬間、涙腺が一気に決壊する。
溢れ出る涙が止まらない。
涙声で経過を話し出す。
「どうすればいい?」
ジュンヤが鼻を啜った。
「とにかく落ち着くんだ。
前にも言ったけど、受験で一番大事なのは冷静になる事だ。
カッカしたり、しょげてたら、解ける問題も解けないぞ!」
大声で活を入れる。
イオリはこの件が、もしかするといい方向に転ずる気がしてきた。
何もないまま受験していたら、きっと緊張で実力の半分も出せないだろう。
「何か名案はないのかよ!」
ジュンヤがイオリに当たる。
「そのまま受けるしかないな。
深呼吸してみろ。」
イオリは指示する。
受話器から繰り返す呼吸が聞こえてきた。
「名案はジュンヤ君が今日、平常心を保つ事だよ。
朝起ちは一時的だ。
萎えれば、なんて事はない。
今日の共通一次なら、落ち着いて実力を出し切れば必ず受かる。
もし不合格なら、君はリョウ君に負けた事になるんだ。」
運動部員の負けん気に期待する。
「そうか…、俺がリョウに負けるの…か。」
ジュンヤがぽつりと言う。
「ああ。だから卑屈な手段を選んだリョウ君に、一泡を吹かせてやろうぜ。」
イオリは殊更明るく激励した。
「どうだった?」
喫茶店に入って来たジュンヤに声を掛ける。
「これレンチだ。
先に取って来ちゃえよ。」
ホームセンターの袋を差し出す。
「あ ー、スッキリした!
丸で孫悟空の輪っかだよ。」
笑顔のジュンヤが戻って来た。
「緊箍児(きんこじ)と言うんだ。
で、手応えはどうだ?」
身を乗り出して聞く。
「うん、まあまあかな。
英語の長文を解いてる時に、リョウの顔が浮かんだけど。
それ意外はかなり出来たかな。」
ジュンヤが苦笑した。
こういう場合、人は低めに報告する。
それを加味すると、この『まあまあ』はかなり期待出来た。
『正に人間万事塞翁が馬だな。』
イオリは満足感に包まれた。
教師を目指していたイオリにとって、この達成感はひとしおだ。
「でもさ、何でリョウはこんな事したんだろう?
もう一年以上も話してないのに。」
ジュンヤの笑顔が俄に曇る。
きっと蓄積された憎悪だろう。
ジュンヤの光はリョウの闇を意味する。
楽しい事は直ぐに風化するが、憎しみは消えさならい。
「大学もレスリングもボディビルも、順風満帆なのにさ。
俺なんかに構うことないないと思わない?」
ジュンヤが首を傾げる。
それより心配なのがこの後だ。
目を覚ました怪物がこれで諦めるか?
まずそれはない。
一年以上も恨み続けた獲物をそう簡単には諦めないだろう。
対応策を講じる必要がありそうだ。
(つづく)
「い、痛ぇ!」
股間を摩るが、痛みは引かない。
何がどうなっているのか、さっぱり分からない。
慌てふためきパジャマを下げる。
朝起ちしたマラは毎朝の光景だ。
ただ違うのは睾丸の付け根に、分厚いリングがガッチリ嵌まっていた。
「こ、これは!」
このリングに見覚えがある。
以前、リョウが行き摩りの男に噛まされた奴だ。
そういえば、昨夜リョウが来た夢を見た。
徐々に記憶が蘇ってくる。
「あの野郎!」
ジュンヤは顔を真っ赤にしてリビングに向かった。
受話器を持つと、リョウの家の電話番号を回す。
数回の呼出し音の後、留守電のメッセージが流れた。
「チキショ!」
ジュンヤは納戸の中の工具入れをひっくり返す。
もしかしてと思ったが、やはり六角レンチなど入っていなかった。
試験前にホームセンターが開いている訳がない。
八方塞がりだ。
藁にも縋る気持ちでイオリに電話を掛ける。
「はい、もしもし…。」
眠たげな声が聞こえた。
その声を聞いた瞬間、涙腺が一気に決壊する。
溢れ出る涙が止まらない。
涙声で経過を話し出す。
「どうすればいい?」
ジュンヤが鼻を啜った。
「とにかく落ち着くんだ。
前にも言ったけど、受験で一番大事なのは冷静になる事だ。
カッカしたり、しょげてたら、解ける問題も解けないぞ!」
大声で活を入れる。
イオリはこの件が、もしかするといい方向に転ずる気がしてきた。
何もないまま受験していたら、きっと緊張で実力の半分も出せないだろう。
「何か名案はないのかよ!」
ジュンヤがイオリに当たる。
「そのまま受けるしかないな。
深呼吸してみろ。」
イオリは指示する。
受話器から繰り返す呼吸が聞こえてきた。
「名案はジュンヤ君が今日、平常心を保つ事だよ。
朝起ちは一時的だ。
萎えれば、なんて事はない。
今日の共通一次なら、落ち着いて実力を出し切れば必ず受かる。
もし不合格なら、君はリョウ君に負けた事になるんだ。」
運動部員の負けん気に期待する。
「そうか…、俺がリョウに負けるの…か。」
ジュンヤがぽつりと言う。
「ああ。だから卑屈な手段を選んだリョウ君に、一泡を吹かせてやろうぜ。」
イオリは殊更明るく激励した。
「どうだった?」
喫茶店に入って来たジュンヤに声を掛ける。
「これレンチだ。
先に取って来ちゃえよ。」
ホームセンターの袋を差し出す。
「あ ー、スッキリした!
丸で孫悟空の輪っかだよ。」
笑顔のジュンヤが戻って来た。
「緊箍児(きんこじ)と言うんだ。
で、手応えはどうだ?」
身を乗り出して聞く。
「うん、まあまあかな。
英語の長文を解いてる時に、リョウの顔が浮かんだけど。
それ意外はかなり出来たかな。」
ジュンヤが苦笑した。
こういう場合、人は低めに報告する。
それを加味すると、この『まあまあ』はかなり期待出来た。
『正に人間万事塞翁が馬だな。』
イオリは満足感に包まれた。
教師を目指していたイオリにとって、この達成感はひとしおだ。
「でもさ、何でリョウはこんな事したんだろう?
もう一年以上も話してないのに。」
ジュンヤの笑顔が俄に曇る。
きっと蓄積された憎悪だろう。
ジュンヤの光はリョウの闇を意味する。
楽しい事は直ぐに風化するが、憎しみは消えさならい。
「大学もレスリングもボディビルも、順風満帆なのにさ。
俺なんかに構うことないないと思わない?」
ジュンヤが首を傾げる。
それより心配なのがこの後だ。
目を覚ました怪物がこれで諦めるか?
まずそれはない。
一年以上も恨み続けた獲物をそう簡単には諦めないだろう。
対応策を講じる必要がありそうだ。
(つづく)
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