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Chapter10(覚醒編)
Chapter10-⑮【愛のマタドール】
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リョウは毎朝、5時に起きる様になった。
目覚ましを止めると、躊躇なく布団から出る。
どんな寒い朝でも苦にならない。
7時には学校に着き、開門を待つ。
「おはようございます!」
警備員に挨拶する。
「おお、リョウ君おはよう。
今日も元気いいな。」
警備員が挨拶を返す。
リョウは変わった。
一口でいえば明るくなった。
以前の吃りや赤面は殆ど出ない。
リョウはレスリングに感謝した。
水泳は子供の頃に無理矢理習わされ、惰性で続けていただけだ。
しかしレスリングは違う。
リョウは本気で打ち込んでいた。
部員が少ない所為か、レスリング部は和気あいあいとしている。
皆、背が低いことや痩せてる事にコンプレックスを持っていた。
だからリョウを馬鹿にする奴はひとりもいない。
一年生の中にはリョウに羨望の眼差しを向ける者もいた。
一時間たっぷり筋トレを行う。
その後、始業のベルが鳴るぎりぎりまで前転と後転、そしてブリッジを繰り返す。
これが朝の日課となった。
他の者が嫌がる単純な基本練習が性に合っていたのだ。
イヴまでの一週間はあっという間に過ぎた。
終業式を終えた後、部室に向かう。
部室にはトールとミキオしかいなかった。
「あれ、みんなは?」
リョウは交互に二人を見て聞く。
「明日から冬休みだ。
始業式まで練習は休みだぜ。
昨日の練習後に言っただろ。」
ミキオが苦笑する。
リョウはいつも体力の限界まで追い込む。
練習後はへとへとで、ミキオの言葉は頭に入っていなかった。
「じゃ、最後に三人で練習するか?」
トールが椅子から飛び下りる。
「悪いな。今日はイヴだから、彼女とデートさ。
お前らに付き合ってる暇はないんだ。」
照れ笑いを浮かべたミキオが部屋を後にした。
「あいつ、いつの間に彼女なんか作ったんだ!」
トールが憤慨する。
「仕方ねえ、二人でやるか!」
トールがズボンを脱ぐと、饐えた臭いが鼻孔を擽る。
早くこの臭いを胸いっぱいに吸いたい。
体育館はガラガラだった。
どこの部活も今日は休みらしい。
「こんな広い体育館に二人きりか!」
マットを敷きながらトールが嘆く。
『二人きり』その言葉にリョウは動揺した。
いつも通りマットの回りを走る。
トールのシングレットはいつもに増して薄手だった。
股間が黒々と透けている。
前を走っている後ろ姿は尻の割れ目まで見えていた。
間を詰め、思い切り深呼吸をする。
「今まで基礎ばかりで飽きただろ。
今日は実践的なタックルを教えてやる。」
柔軟をしながらトールが言った。
「マジっすか!」
興奮したリョウの大声が体育館に響く。
トールが素早い動きで両方の足を掴む。
リョウは物の見事にすっ転んだ。
「これが両足タックルだ。」
トールが倒れているリョウに言う。
『次は避けてやる!』
闘志を剥き出しにして、襲ってくる相手を凝視する。
トールは瞬時に片足に飛び掛かった。
足を引くが間に合わない。
右足を捕まれ、またしても転ぶ。
「これは片足タックル。」
トールがニヤリと笑う。
『くっそ!次こそは!』
唇を噛む事しか出来ない。
今度は組んできた。
リョウは構えしか教わっていない。
組まれて揺すぶられると、直ぐに体勢が崩れる。
そこをすかさずタックルされた。
豪快に後頭部を打ち付ける。
痛みは感じず、悔しさが込み上げてきた。
あんなに受け身の練習をしたのに、全く役に立たない。
「これが崩しからのタックルだ。」
リョウは半ベソになりながら頷く。
「次はリョウの番だ。
タックルして来い!」
トールが身構えた。
勢い良く飛び掛かる。
しかし軽く躱され、身体に触れる事も出来ない。
身を起こし再びトライするが、結果は同じだ。
「リョウさ、そんな今にもタックルしますよって感じじゃ、相手は待ってないぞ。」
トールがアドバイスする。
『という事はタックルしない振りをする?』
助言の意味がイマイチ分からない。
リョウはターゲットの足の動きを見て、飛び掛かるタイミングを計る。
足が止まった瞬間、タックルした。
トールはマタドールの如く、リョウの指先をヒラリと躱す。
リョウの息が上がる。
「なら、こうしようぜ。
もしリョウがタックルに成功したら…。」
トールは言い掛けて、先を悩む。
「せ、成功したら?」
リョウが急かす。
「そうだな?リョウの命令を何でも聞いてやるか。」
トールが不敵な笑みを浮かべた。
(つづく)
目覚ましを止めると、躊躇なく布団から出る。
どんな寒い朝でも苦にならない。
7時には学校に着き、開門を待つ。
「おはようございます!」
警備員に挨拶する。
「おお、リョウ君おはよう。
今日も元気いいな。」
警備員が挨拶を返す。
リョウは変わった。
一口でいえば明るくなった。
以前の吃りや赤面は殆ど出ない。
リョウはレスリングに感謝した。
水泳は子供の頃に無理矢理習わされ、惰性で続けていただけだ。
しかしレスリングは違う。
リョウは本気で打ち込んでいた。
部員が少ない所為か、レスリング部は和気あいあいとしている。
皆、背が低いことや痩せてる事にコンプレックスを持っていた。
だからリョウを馬鹿にする奴はひとりもいない。
一年生の中にはリョウに羨望の眼差しを向ける者もいた。
一時間たっぷり筋トレを行う。
その後、始業のベルが鳴るぎりぎりまで前転と後転、そしてブリッジを繰り返す。
これが朝の日課となった。
他の者が嫌がる単純な基本練習が性に合っていたのだ。
イヴまでの一週間はあっという間に過ぎた。
終業式を終えた後、部室に向かう。
部室にはトールとミキオしかいなかった。
「あれ、みんなは?」
リョウは交互に二人を見て聞く。
「明日から冬休みだ。
始業式まで練習は休みだぜ。
昨日の練習後に言っただろ。」
ミキオが苦笑する。
リョウはいつも体力の限界まで追い込む。
練習後はへとへとで、ミキオの言葉は頭に入っていなかった。
「じゃ、最後に三人で練習するか?」
トールが椅子から飛び下りる。
「悪いな。今日はイヴだから、彼女とデートさ。
お前らに付き合ってる暇はないんだ。」
照れ笑いを浮かべたミキオが部屋を後にした。
「あいつ、いつの間に彼女なんか作ったんだ!」
トールが憤慨する。
「仕方ねえ、二人でやるか!」
トールがズボンを脱ぐと、饐えた臭いが鼻孔を擽る。
早くこの臭いを胸いっぱいに吸いたい。
体育館はガラガラだった。
どこの部活も今日は休みらしい。
「こんな広い体育館に二人きりか!」
マットを敷きながらトールが嘆く。
『二人きり』その言葉にリョウは動揺した。
いつも通りマットの回りを走る。
トールのシングレットはいつもに増して薄手だった。
股間が黒々と透けている。
前を走っている後ろ姿は尻の割れ目まで見えていた。
間を詰め、思い切り深呼吸をする。
「今まで基礎ばかりで飽きただろ。
今日は実践的なタックルを教えてやる。」
柔軟をしながらトールが言った。
「マジっすか!」
興奮したリョウの大声が体育館に響く。
トールが素早い動きで両方の足を掴む。
リョウは物の見事にすっ転んだ。
「これが両足タックルだ。」
トールが倒れているリョウに言う。
『次は避けてやる!』
闘志を剥き出しにして、襲ってくる相手を凝視する。
トールは瞬時に片足に飛び掛かった。
足を引くが間に合わない。
右足を捕まれ、またしても転ぶ。
「これは片足タックル。」
トールがニヤリと笑う。
『くっそ!次こそは!』
唇を噛む事しか出来ない。
今度は組んできた。
リョウは構えしか教わっていない。
組まれて揺すぶられると、直ぐに体勢が崩れる。
そこをすかさずタックルされた。
豪快に後頭部を打ち付ける。
痛みは感じず、悔しさが込み上げてきた。
あんなに受け身の練習をしたのに、全く役に立たない。
「これが崩しからのタックルだ。」
リョウは半ベソになりながら頷く。
「次はリョウの番だ。
タックルして来い!」
トールが身構えた。
勢い良く飛び掛かる。
しかし軽く躱され、身体に触れる事も出来ない。
身を起こし再びトライするが、結果は同じだ。
「リョウさ、そんな今にもタックルしますよって感じじゃ、相手は待ってないぞ。」
トールがアドバイスする。
『という事はタックルしない振りをする?』
助言の意味がイマイチ分からない。
リョウはターゲットの足の動きを見て、飛び掛かるタイミングを計る。
足が止まった瞬間、タックルした。
トールはマタドールの如く、リョウの指先をヒラリと躱す。
リョウの息が上がる。
「なら、こうしようぜ。
もしリョウがタックルに成功したら…。」
トールは言い掛けて、先を悩む。
「せ、成功したら?」
リョウが急かす。
「そうだな?リョウの命令を何でも聞いてやるか。」
トールが不敵な笑みを浮かべた。
(つづく)
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