妄想日記2<<BEGINS>>

YAMATO

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Chapter9(対峙編)

Chapter9-⑦【SEVEN DAYS WAR】

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リビングに入ると、小さなイルミネーションが点滅していた。
電話の再生ボタンを押す。
「もしもし、リョウちゃん?
母さん、大阪のイベントが長引いて、今夜も帰れそうもないの。
悪いけど、今晩も独りでお留守番をお願いします。
明日、リョウちゃんの大好きなおたべを買って帰ります。」
留守番を聞き終わると、乱暴に操作して音声を消去した。
リョウは懐に入れてあるサバイバルナイフを確認し、大きく息を吐き出す。
『もう俺は怯えない!
化け物なんかぶっ殺してやる!』
震える指で、レンジのスタートボタンを押した。
自分の部屋でサバイバルナイフの刃先を飽きる事なく眺める。
決して派手ではないが、尊厳な輝きを放っていた。
リョウはその美しさに魅入る。
「化け物も血を流すのかな?」
くすっと笑いが零れた。
しかしその足の震えは止まる事がない。
デシダル時計にゼロが四つ並んだ。
それを見届けると、ベッドに潜り込む。
電気は点け放しで、サバイバルナイフを握り締める。
『決着を付けてやる!』
リョウはドアを睨みつけた。
 
うとうとしかけた時に、微かな音を感じ取った。
点けておいた筈の照明が消えている。
『キシッ、キシッ…。』
微かな音が次第に大きくなっていく。
ゆっくりだが、確実にこの部屋へ近付いてくる。
身体の震えは止まらないが、もう目を瞑って嵐が過ぎるのを待つだけじゃない。
サバイバルナイフを両手でがっちりと握る。
ノブの回る音が大きく聞こえる。
『ギィ…。』
ドアの開く音がし、闇の中で影が蠢く。
黒い頭が覗き、全身が現れた。
心臓がバクバクいい、口から飛び出してきそうだ。
リョウは唇を噛み、何とか平常心を保つ。
『まだだ。もっと…、もっと引き寄せるんだ。』
汗ばむ手でハンドルを握り直す。
恐怖がピークとなる。
インジケータがマックスを振り切った。
『今だ!今だ!!今だ!!!』
リョウは影に飛び掛かる。
「うわぁー!!」
影にサバイバルナイフを突き刺す。
しかしナイフの刺さった感触がない。
影の両手が首に掛かった。
『跳ね返された?』
リョウの背筋が凍る。
首筋に圧迫を感じた。
柄尻を腰に当て、身体を預ける。
少しずつ肉に食い込でいくのが分かった。
始めての感覚に興奮を覚える。
それは性的な興奮と同じだった。
 
リョウは狂った様に、何回も刺した。
刺せば刺す程、興奮が増す。
何回刺したが分からないが、首筋に掛かっていた手が離れる。
影が動かなくなるのと同時に、リョウは射精した。
「はぁ…、はぁ…、はぁ…。」
のろのろと起き上がる。
ドアの脇にある照明のスイッチを弄った。
数回点滅した後に部屋が明るくなる。
ベッドの前に男が倒れていた。
大の字に俯せになり、顔は見えない。
リョウは首を押さえながら、男の向こう側に回り込む。
しゃがみ込んで、その顔を見て絶句する。
「イオリ…先生?」
眼鏡を掛けた男だった。
「先生が化け物?
俺が、先生を殺した??」
鮮血が足を這い上がってくる。
臍を超え、大胸筋を通過した。
リョウはその場に突っ伏す。
本能が精神を保つ為に失神を選んだのだ。
 
翌日、朝陽の中でリョウは目を覚ました。
床の上で寝ていたため、身体中が痛い。
少しずつ記憶が蘇る。
辺りを見回すが、何もない。
ただサバイバルナイフがフローリングに突き刺さっていた。
 
「どうしたんだい?」
玄関に入るなり、イオリが聞いてきた。
目が充血し、首筋が紫色に変色している。
それに答える事なく、向かい入れた。
「ね、先生聞いて!
俺は化け物を退治したんだ!」
誇らしげに武勇伝を語る。
「ば、化け物?」
イオリが素っ頓狂な声を出した。
「先生こそ、顔色が冴えないっすよ。
昨晩、何かあったんすか?」
リョウはポケットの中でサバイバルナイフの柄を握る。
「ああ、寝不足なんだ。
さあ、勉強を始めようか。」
話を逸らしたイオリが大欠伸をした。
 
その日以来、悪夢は見なくなった。
臆病で人見知りのリョウはもういない。
『俺は何でも出来るんだ!』
リョウの中で自信が漲る。
そして肉を裂くナイフの感触が忘れられなくなった。
リョウは化け物を殺し、自身が化け物と化したのだ。
 
 
(完)
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