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YAMATO

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Chapter9(対峙編)

Chapter9-⑥【ギザギザハートの子守唄】

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「うわっあぁ!!!」
リョウは自分の声で飛び起きた。
急いで部屋の照明を点ける。
辺りを見回し、誰もいない事に安堵した。
「また奴が来た…。」
決して夢ではない。
全身寝汗で、パジャマがびしょ濡れだった。
部屋のドアを開けると、左右を慎重に確認する。
濡れたパジャマを洗濯機へ入れる為、階下に行く。
喉がカラカラだったので、冷蔵庫からコーラを取り、部屋に戻る。
動悸はまだ納まらない。
リョウは布団に包まるが、部屋を暗くする気にはなれない。
漆黒の闇は奴の好物だ。
『きっとまた来る!』
リョウは瞳を見開き、天井を睨んだ。
勃起もしてないマラを必死で扱く。
悪夢を追い払うにはこれしかなかった。
このまま朝を待ち、朝日の気配を感じると学校へ向かう。
 
リョウが悪夢に魘される様になったのは、木枯らしが吹き出した頃からだ。
両親がいない夜を狙って、奴は来た。
眠りに付くのを見計らって、やって来る。
階段を軋ませ、リョウの部屋を目差す。
最初の頃は足音が、微かに聞こえる程度だった。
それが回を追う度に近付いてくる。
そして今晩、とうとう部屋の前まで来た。
忍び足がドアの前で止まる。
荒い息遣いまでハッキリと聞き取れた。
「夢だ!これは夢なんだ!」
どんなに叫んでも、夢は覚めない。
布団に包まり、ガクガク震える。
瞼をギュッと閉じて、嵐が過ぎるの待つしかなかった。
ノブを回す音が耳元でする。
「うわっあぁ!!」
リョウは絶叫した。
 
お陰で月曜日の授業中は居眠りばかりしてしまう。
「リョウ起きろ!
お前は学校へ寝に来ているのか!」
鈴木先生の投げたチョークが命中して、クラスメートが爆笑した。
チャイムが鳴り、皆が帰り支度をする。
リョウは鞄を持ち、プールへ向かう。
「リョウ、ちょっと待て!」
鈴木先生が声を掛けてきた。
「お前、どこか悪いのか?
顔色も悪いし。
無理して練習に出なくていいぞ。」
鈴木先生がリョウの額に掌を当てる。
「熱はないな。」
訝しげに顔を覗き込む。
「べ、別に何でもないです。
しっ、失礼します。」
リョウはちょこんと頭を下げると、逃げる様に教室を後にした。
 
金曜日家に帰ると、お手伝いの桃が夕食の用意をして待っていた。
「あれ、母さんは?」
冷蔵庫からコーラを出しながら聞く。
「奥様は急遽、スピーチを頼まれて、夕方の新幹線で大阪に向かいました。
お帰りは明日の夜になるそうです。」
桃がコンロの前で答えた。
「えっ!そんなの聞いてないよ!」
顔が青褪めていくのが分かる。
「ね、ねぇ!桃さん、今日泊まれない?
一生のお願いだから!」
震える唇が桃に訴えた。
「そう言われても…。
何の用意もしていませんし。」
困惑した顔が振り返る。
「きょ、今日だけでいいんだ!
次回は自分でなんとかするから…。」
涙で声が詰まる。
桃はリョウの頼みに尋常でない物を感じ取った様だ。
「分かりました。
では、今日はリョウさんの部屋で眠る事にします。」
桃は微笑むと、フライパンで肉を焼き出した。
 
久し振りに電気を消して、熟睡出来た。
隣から聞こえてくる息遣いが優しく響く。
丸で子守唄の様に感じられた。
「じゃあ、行ってきます。
桃さん、昨日はありがとう。」
リョウはスッキリした気分で家を飛び出す。
トレーニングする気力が漲っていた。
練習後に、駅前の雑貨屋に寄る。
『もう桃さんには頼れない。
自分でやるしかない!』
リョウは自分に言い聞かす。
「今度、学校でキャンプに行くので、便利なナイフありませんか?」
店内に入り、店主に聞く。
店主は棚の中から万能ナイフとサバイバルナイフを出してくれた。
サバイバルナイフの刃先が鈍く光る。
キラキラ反射する万能ナイフより美しく思えた。
「じゃあ、こっちを下さい。」
ブレードをシースに収めると、サバイバルナイフを店主に渡す。
 
 
(つづく)
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