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Chapter9(対峙編)
Chapter9-②【路地裏の少年】
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驚いて、振り返る。
すぐ後ろに細身の体躯の男が、ニヤニヤしながら立っていた。
ジュンヤは慌てて飛び退く。
「そんなビビるなよ。
何もしやしねぇよ。」
男が声を殺して笑う。
40歳前後だろうか、ピッタリしたタイトなライダースにピチピチのホワイトジーンズ
を穿いている。
ジーンズは信じられない程ローライズで、うっすら生えた陰毛とスカルのタトゥーが
覗いている。
「まだ若そうだな。
SMに興味あるのか?」
男は一歩近寄り、耳元で囁く。
見るからに危なげな男に戸惑う。
横目でリョウを見ると、まだワゴンの中の競パン選びに没頭している。
変態丸出しの男に興味が沸くが、同時にジュンヤの中で警報機も鳴り響く。
「初めて来たんで、見てただけっす。」
蚊の鳴く様な声で答える。
「まあいいさ。もし気になったら連絡してこい。」
男は電話番号を手帳に書くと、破って寄越した。
震える手で紙片を受け取る。
男は背を向けると、ビデオコーナーに歩いて行った。
持っていた開口マスクに視線を落とす。
しかし背後からの視線が気になって、落ち着かない。
ジュンヤはマスクを棚に戻すと、ボール付きの猿轡を手に取る。
そして人気No.1と書かれた首輪を引ったくるとレジへ向かった。
支払を済ますと、リョウの下に行く。
「先に出てる。
下で待ってるから。」
キョトンとしたリョウを置いて、店を飛び出す。
男が追ってきそうで、階段を駆け降りた。
リョウは中々出て来ない。
男も現れなかった。
電柱の陰で、イライラしながら待つ。
辺りは薄暮に包まれてきた。
折れそうな下弦の月が微かに見えた。
階段からシルエットが現れた。
リョウだ。
ジュンヤは駆け寄ろうとして、歩みを止める。
その後ろにホワイトジーンズが浮かぶ。
二人は何事か話している。
男がリョウの股間を鷲掴みする。
『うぐっ!』リョウの声が聞こえた気がした。
リョウと男のシルエットが重なり、暫く離れない。
「じゃあ、後でな。」
男はそう言うと、繁華街に消えて行った。
残ったリョウが左右を見回している。
ジュンヤは電柱から姿を現す。
「どうしたんだよ、急に出て行くなんて!」
ジュンヤに気付いたリョウが咎め立てる。
「それよりあの男と会うのか?」
男の消えた方向を見て聞く。
「何だ、見てたのか。
近所に住んでるらしいんだ。
SMグッズを沢山持ってるから見に来いって、誘われたんだ。」
リョウが無邪気に言う。
「それって、どういう意味か分かってるのか?」
呆れ顔で聞く。
「まあね。悪いけど、先に帰ってて。」
リョウは悪びれた様子も見せずに、時計を見る。
「ゴメン、時間だ。
じゃあ、またな。」
踵を返したリョウは男の消えた方向へ歩き出す。
「お、おい、待てよ!」
ジュンヤの声は呆気なく夜空に吸い込まれていった。
リョウは高々と聳え立つマンションを見上げる。
渡された紙に書かれたマンション名と一致した。
鼓動が早まり、掌に汗が滲む。
部屋番号を押すと、直ぐにインターホンが繋がる。
「さ、さっき紙を貰った…。」
緊張で声が震えた。
「おう、入れ。」
自動ドアが開く。
『今なら未だ間に合う。
帰るなら今だ。』
リョウは後ろを振り返る。
しかし擡げ上がった好奇心が、リョウをエントランスの中に引きずり込んだ。
「馬鹿入るな!」
エントランスに消えた後ろ姿にジュンヤは茫然とする。
「どうすればいいんだろう?」
自問自答するが、答えは見付からない。
夜空を見上げると、下弦の月は雲に隠れていた。
(つづく)
すぐ後ろに細身の体躯の男が、ニヤニヤしながら立っていた。
ジュンヤは慌てて飛び退く。
「そんなビビるなよ。
何もしやしねぇよ。」
男が声を殺して笑う。
40歳前後だろうか、ピッタリしたタイトなライダースにピチピチのホワイトジーンズ
を穿いている。
ジーンズは信じられない程ローライズで、うっすら生えた陰毛とスカルのタトゥーが
覗いている。
「まだ若そうだな。
SMに興味あるのか?」
男は一歩近寄り、耳元で囁く。
見るからに危なげな男に戸惑う。
横目でリョウを見ると、まだワゴンの中の競パン選びに没頭している。
変態丸出しの男に興味が沸くが、同時にジュンヤの中で警報機も鳴り響く。
「初めて来たんで、見てただけっす。」
蚊の鳴く様な声で答える。
「まあいいさ。もし気になったら連絡してこい。」
男は電話番号を手帳に書くと、破って寄越した。
震える手で紙片を受け取る。
男は背を向けると、ビデオコーナーに歩いて行った。
持っていた開口マスクに視線を落とす。
しかし背後からの視線が気になって、落ち着かない。
ジュンヤはマスクを棚に戻すと、ボール付きの猿轡を手に取る。
そして人気No.1と書かれた首輪を引ったくるとレジへ向かった。
支払を済ますと、リョウの下に行く。
「先に出てる。
下で待ってるから。」
キョトンとしたリョウを置いて、店を飛び出す。
男が追ってきそうで、階段を駆け降りた。
リョウは中々出て来ない。
男も現れなかった。
電柱の陰で、イライラしながら待つ。
辺りは薄暮に包まれてきた。
折れそうな下弦の月が微かに見えた。
階段からシルエットが現れた。
リョウだ。
ジュンヤは駆け寄ろうとして、歩みを止める。
その後ろにホワイトジーンズが浮かぶ。
二人は何事か話している。
男がリョウの股間を鷲掴みする。
『うぐっ!』リョウの声が聞こえた気がした。
リョウと男のシルエットが重なり、暫く離れない。
「じゃあ、後でな。」
男はそう言うと、繁華街に消えて行った。
残ったリョウが左右を見回している。
ジュンヤは電柱から姿を現す。
「どうしたんだよ、急に出て行くなんて!」
ジュンヤに気付いたリョウが咎め立てる。
「それよりあの男と会うのか?」
男の消えた方向を見て聞く。
「何だ、見てたのか。
近所に住んでるらしいんだ。
SMグッズを沢山持ってるから見に来いって、誘われたんだ。」
リョウが無邪気に言う。
「それって、どういう意味か分かってるのか?」
呆れ顔で聞く。
「まあね。悪いけど、先に帰ってて。」
リョウは悪びれた様子も見せずに、時計を見る。
「ゴメン、時間だ。
じゃあ、またな。」
踵を返したリョウは男の消えた方向へ歩き出す。
「お、おい、待てよ!」
ジュンヤの声は呆気なく夜空に吸い込まれていった。
リョウは高々と聳え立つマンションを見上げる。
渡された紙に書かれたマンション名と一致した。
鼓動が早まり、掌に汗が滲む。
部屋番号を押すと、直ぐにインターホンが繋がる。
「さ、さっき紙を貰った…。」
緊張で声が震えた。
「おう、入れ。」
自動ドアが開く。
『今なら未だ間に合う。
帰るなら今だ。』
リョウは後ろを振り返る。
しかし擡げ上がった好奇心が、リョウをエントランスの中に引きずり込んだ。
「馬鹿入るな!」
エントランスに消えた後ろ姿にジュンヤは茫然とする。
「どうすればいいんだろう?」
自問自答するが、答えは見付からない。
夜空を見上げると、下弦の月は雲に隠れていた。
(つづく)
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