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Chapter8(魔法使い編)
Chapter8-⑦【BINGO!】
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イオリはジュンヤの背中を眺める。
水泳部だけあって、幅が広い。
イオリが窓を開けてから、ジュンヤは消しゴムばかり使っている。
書いては、消すを繰り返す。
考えが纏まらない様子だ。
「はい、時間です。」
イオリは用紙を回収する。
空欄が目立つ。
簡単なテストで自信を持たせる作戦だったが、敵はそんなに甘くはなかった。
小数から分数への変換や最大公約数みたいな計算事は正解だ。
しかしxやyを含む計算式になると空白が多い。
「この問題は何故空白なのかな?」
イオリは座標に計算式の線を書き込む問題を例に聞いてみる。
「こんなxとかyなんて意味分かんねぇし。」
初めてジュンヤが口を開いた。
「分からなかったら、分かる様に置き換えてみるんだ。
xが1の時はyは2倍だから2。
だからここに点を付ける。」
イオリはジュンヤの背後から手を回し、1と2が交差する座標に点を書く。
「じゃあ、xが2の時、yの値は?」
イオリか聞く。
「4に決まっているだろ。」
ジュンヤは自信満々に答える。
「正解。そしたら2と4が交わる所に点を置く。」
イオリはゆっくり股間をジュンヤの背中に当て、座標に点を書いた。
「じゃあ、-1の時は?」
質問を続ける。
「…、-2かな?」
動揺したのか、不安げに答えた。
「そうだ。だからここに点を書くんだ。」
イオリは更に押し当てる。
「この三点を線で結ぶんだ。」
ジュンヤに鉛筆を渡す。
「こっ、こうかな?」
ジュンヤは線を引くと、振り返る。
思いの外、顔が接近していた。
驚いたジュンヤは直ぐに座標に視線を戻す。
「ビンゴ!」イオリは手をジュンヤの肩に置く。
「案外、簡単なんだな。」
照れ隠しに、ジュンヤは殊勝に言った。
ジュンヤは早まる動悸を覚られぬ様、冷静さを装う。
背中に当たる馬鹿デカい物体に意識が集中した。
『まさか、これがチンポ?』
俄に信じ難い。
ジュンヤはその正体に興味が募った。
イオリは空白の問題を、ジュンヤの答えを引き出しながら解いていく。
時計を見ると、既に二時間が過ぎていた。
タイミング良く母親が茶菓子を持って来た。
「先生の翻訳した本はいつ本屋さんに並ぶのかしら?」
茶菓子を置いても立ち去る気配はない。
「今、翻訳中なので、発売されるのは来春かと。」
イオリが曖昧に答えた。
「勉強中だから、出て行ってくれよ!」
ジュンヤは声を荒げる。
「あら、随分やる気が出たのね。
先生のお陰だわ。
私、絶対に買います。」
母親はまだ話したそうだったが、渋々部屋から出て言った。
「先生は彼女とかいるのか?」
ジュンヤがケーキを頬張りながら聞いてきた。
「ああ、一緒に住んでる。」
イオリも紅茶に口を付ける。
「そっか…。」とても祝福している口調ではない。
「ジュンヤ君はいないのか?」
イオリは笑いを堪えつつ聞く。
「いないよ。今はインターハイに出て、いい結果を出す事が目標なんだ。
そんな彼女作っている暇なんてないさ。」
ジュンヤが少しずつ心を開いてきた。
「だから勉強なんて、必要ないんだ。
俺は推薦で大学入るから。」
ジュンヤが未来図を披露する。
「それもひとつの作戦だな。
ただリスクが高い。
四年間、学校の求める結果を残せる選手が全体の何%いるか、考えた事あるか?」
イオリはデメリットを突き付けた。
「…。」ジュンヤは口を噤む。
「スランプになったり、怪我をした特待生に学校は冷たいぞ。
そうなって去って行った奴を何人も知っている。」
イオリの大学にも、知らぬ間に自主退学していた特待生は少なくない。
「大学に行くなら、実力で入る事を勧めるよ。
まあ、決めるのはあくまでもジュンヤ君だけど。」
説得する気のないイオリは、早々に話を打ち切った。
(つづく)
水泳部だけあって、幅が広い。
イオリが窓を開けてから、ジュンヤは消しゴムばかり使っている。
書いては、消すを繰り返す。
考えが纏まらない様子だ。
「はい、時間です。」
イオリは用紙を回収する。
空欄が目立つ。
簡単なテストで自信を持たせる作戦だったが、敵はそんなに甘くはなかった。
小数から分数への変換や最大公約数みたいな計算事は正解だ。
しかしxやyを含む計算式になると空白が多い。
「この問題は何故空白なのかな?」
イオリは座標に計算式の線を書き込む問題を例に聞いてみる。
「こんなxとかyなんて意味分かんねぇし。」
初めてジュンヤが口を開いた。
「分からなかったら、分かる様に置き換えてみるんだ。
xが1の時はyは2倍だから2。
だからここに点を付ける。」
イオリはジュンヤの背後から手を回し、1と2が交差する座標に点を書く。
「じゃあ、xが2の時、yの値は?」
イオリか聞く。
「4に決まっているだろ。」
ジュンヤは自信満々に答える。
「正解。そしたら2と4が交わる所に点を置く。」
イオリはゆっくり股間をジュンヤの背中に当て、座標に点を書いた。
「じゃあ、-1の時は?」
質問を続ける。
「…、-2かな?」
動揺したのか、不安げに答えた。
「そうだ。だからここに点を書くんだ。」
イオリは更に押し当てる。
「この三点を線で結ぶんだ。」
ジュンヤに鉛筆を渡す。
「こっ、こうかな?」
ジュンヤは線を引くと、振り返る。
思いの外、顔が接近していた。
驚いたジュンヤは直ぐに座標に視線を戻す。
「ビンゴ!」イオリは手をジュンヤの肩に置く。
「案外、簡単なんだな。」
照れ隠しに、ジュンヤは殊勝に言った。
ジュンヤは早まる動悸を覚られぬ様、冷静さを装う。
背中に当たる馬鹿デカい物体に意識が集中した。
『まさか、これがチンポ?』
俄に信じ難い。
ジュンヤはその正体に興味が募った。
イオリは空白の問題を、ジュンヤの答えを引き出しながら解いていく。
時計を見ると、既に二時間が過ぎていた。
タイミング良く母親が茶菓子を持って来た。
「先生の翻訳した本はいつ本屋さんに並ぶのかしら?」
茶菓子を置いても立ち去る気配はない。
「今、翻訳中なので、発売されるのは来春かと。」
イオリが曖昧に答えた。
「勉強中だから、出て行ってくれよ!」
ジュンヤは声を荒げる。
「あら、随分やる気が出たのね。
先生のお陰だわ。
私、絶対に買います。」
母親はまだ話したそうだったが、渋々部屋から出て言った。
「先生は彼女とかいるのか?」
ジュンヤがケーキを頬張りながら聞いてきた。
「ああ、一緒に住んでる。」
イオリも紅茶に口を付ける。
「そっか…。」とても祝福している口調ではない。
「ジュンヤ君はいないのか?」
イオリは笑いを堪えつつ聞く。
「いないよ。今はインターハイに出て、いい結果を出す事が目標なんだ。
そんな彼女作っている暇なんてないさ。」
ジュンヤが少しずつ心を開いてきた。
「だから勉強なんて、必要ないんだ。
俺は推薦で大学入るから。」
ジュンヤが未来図を披露する。
「それもひとつの作戦だな。
ただリスクが高い。
四年間、学校の求める結果を残せる選手が全体の何%いるか、考えた事あるか?」
イオリはデメリットを突き付けた。
「…。」ジュンヤは口を噤む。
「スランプになったり、怪我をした特待生に学校は冷たいぞ。
そうなって去って行った奴を何人も知っている。」
イオリの大学にも、知らぬ間に自主退学していた特待生は少なくない。
「大学に行くなら、実力で入る事を勧めるよ。
まあ、決めるのはあくまでもジュンヤ君だけど。」
説得する気のないイオリは、早々に話を打ち切った。
(つづく)
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