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YAMATO

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Chapter8(魔法使い編)

Chapter8-⑥【木枯しに抱かれて】

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年始を新居で迎えたいと思う人が多いらしい。
晩秋になるとヨウは遅くまで仕事に追われた。
それを口実に二人にも会っていない。
幾つもの報告書や契約書を作成し、家に着くともう午前様だ。
そっと玄関の鍵を開けて中に入ると、リビングの電気が点いていた。
脱ぎっぱなしにだったスリッパはきちんと揃っている。
中を覗くと、ワープロに向かっているイオリが見えた。
一体いつ寝ているのかと不思議に思う程、四六時中ワープロと辞書に向かっている。
イオリは喜怒哀楽を表面に出さない。
しかし新書の翻訳が舞い込んできただけあって、イオリの充実振りは傍目からも分か
る。
そんな姿が羨ましかった。
好きな翻訳の仕事をしているイオリと、好きな水泳から逃げ出したヨウとの違いだ。
「ただいま。」イオリに声を掛ける。
「おかえり。ハンバーグ作ってあるから、チンして。
サラダは冷蔵庫の中。
ドレッシングは新しいのを買ってあるから、それを使って。」
イオリは辞書を睨みながら、テキパキと指示した。
「ああ、いつも悪いな。」
ヨウはハンバーグをレンジに入れると、スタートボタンを押す。
冷蔵庫からサラダとビールを持って来ると、テーブルに着く。
初めてイオリが顔を上げた。
「片付けておいたよ。」
頬杖をついた顔が微笑む。
「片付けたって、何を?」
ヨウは口いっぱいにサラダを入れたまま聞き返す。
「高校生二人だよ。
最近連絡が来ないでしょ?」
イオリがウインクした。
 
確かに今週になって手紙や電話が来ていない。
先週まではマメなリョウはほぼ毎晩電話があり、ズボラなジュンヤでも週に一度の割
合で手紙が来ていた。
「どんな魔法を使ったんだ?」
ヨウは狐につままれた気分で聞く。
「興味の対象をヨウからシフトさせたんだ。」
イオリはいとも簡単に言う。
「そんな馬鹿な!
二人同時に新しい興味の対象なんて出来るかよ。」
ヨウは納得しかねる。
「言葉にすると簡単だけど、結構労力を使ったんだよ。
イオリがやったのは…。」
イオリが手品の種明かしをした。
 
先ずやったのは、折り込みの作成だ。
『部活動に熱中しているお子様をお持ちのご父兄様へ』
少し怪しげなタイトルを付け、家庭教師として生徒募集をする。
当然折り込みを入れるのは、リョウとジュンヤの家だけだ。
『文武両道を実践し、××大学を卒業した翻訳家がご子息にアドバイスいたしま
す。』
金儲けする気はないので、相場の半額とする。
獲物は直ぐに引っ掛かった。
翌日、それぞれの親に会い、暫く面倒を見て欲しいと依頼された。
端正な顔立ちでインテリ風のイオリは、どちらの母親にも気に入られた様だ。
距離が遠いので、日曜日の午前と午後で引き受ける。
日曜日に予定を入れてしまえば、二人の行動を縛れるのも計算の内だ。
移動時間が無駄になるが、ヨウを犯罪者にしない為には致し方ない。
 
「では、始めましょうか。」
イオリは黒縁の眼鏡を掛け、インテリを装う。
ただラフな格好で、親しみ易さを演出した。
ジュンヤはふて腐れている。
『大切な日曜日の午前中に勉強だなんて!』
胡散臭い家庭教師の顔を繁々と眺めている。
『体育会系の家庭教師と言う割には貧弱じゃないか!』
ヨウみたいなマッチョな家庭教師を期待していたのだろう、腹立たしさを隠しもしな
い。
ジュンヤの心境が手に取る様に分かる。
「お母さんから、得に数学を見て欲しいと言われています。
ジュンヤ君の実力を知っておく為に、簡単なクイズをやってもらいます。」
中三レベルの問題をイオリは机に置く。
『反抗がこの程度なら可愛いもんだ。』
一言も発しないジュンヤが可笑しくて堪らない。
ジュンヤは渋々ながら問題に取り組みだす。
イオリはジャケットを脱ぐと、タイトなタンクトップ姿になる。
微かに香水が漂う。
白い生地に腹筋が浮かび上がる。
「ちょっと暑いですね。
風を入れ替えましょう。」
イオリは机の前の窓を開ける為に、ジュンヤのすぐ側で身体を伸ばす。
鉛筆を動かす手が止まった。
開けた窓から、木枯らしが舞い込んだ。
 
 
(つづく)
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