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Chapter8(魔法使い編)
Chapter8-①【Body & Soul】
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リョウは自転車を置くと、日課となっているトレーニング室へ向かう。
朝の早い時間に行う筋トレは爽快だった。
ジュンヤやタクローみたいな才能は自分にはない。
筋力でカバーするしかないと、筋トレに依存していた。
誰もいないトレーニング室は自分だけの空間だ。
ラットプルマシンで広背筋をいたぶる。
自分の肉体を虐める事が快感だった。
「ぐおぉぉお!」気合いと共にバーを引っ張り切る。
バーを戻す時、手を離すのが早かった。
勢いよく銀色の重りが落下する。
『ガシャン!』派手な音を立てて、ウェイトが戻った。
荒い息で辺りを見回すが、気にする者はいない。
肉体は充実していたが、精神が不安定だった。
ジュンヤと肉体関係を持てる様になった事で、表面上の気力は充実している。
昨夜も練習が終わると、ジュンヤはリョウの尻を求めてきた。
『何故、ジュンヤは突然俺を求める様になったのか?
一度は止めようと言ったのに。』
リョウの思考はいつもの疑問に辿り着く。
『俺の行動を察して、ヨウ先輩を守る為?
そんな馬鹿な!
ジュンヤは純粋に俺の事が好きなんだ!』
リョウはそう納得しようとするが、裏の自分がそれを否定する。
『お前が鈴木先生に密告しようとしていたタイミングで、ジュンヤは戻ってきた。
都合良過ぎると思わないか?』
その囁きに対する答えが見付からない。
ジュンヤを身近に感じる程、疑心と不安が募る。
二人でいる時は幸福感に包まれ、独りになると苛立ちを覚えた。
そんな日々に嫌気が差し、リョウは行動を起こす。
『ジュンヤとヨウ先輩は未だに会っているのか?』
これがリョウの最大の関心事だ。
先ずこれが事実かどうかを知る事が先決に思えた。
試合の時の悪態を謝りたいと言って、鈴木先生からヨウの住所を聞き出す。
先生は簡単に教えてくれた。
日曜日に電車を乗り継いで、ヨウの住む町に向かう。
同じ府内なのに随分辺鄙な駅だった。
地図を頼りに、ヨウの家を目指す。
「このアパートか。」
リョウは建物を見上げた。
住宅街の一角で、ここで何時間も見張っていたら不審者に思われそうだ。
リョウは駅に引き返し、ロータリーで待つ事にする。
一本道を駅に向かって歩いていると、自転車に乗ったヨウがこっちに向かって来た。
屋敷の長い塀に挟まれて、身を隠す場所がない。
リョウはシューズの紐を直す振りして、顔を下に向けてしゃがみ込む。
自転車が横を摺り抜けて行くのが、横目で見えた。
「キキッー!」背後でブレーキの掛かる音がする。
「リョウじゃないか?」
聞き覚えのある声がした。
リョウは徐に振り返る。
「先輩じゃないっすか!ウッス!」
目を思い切り見開き、驚いてみせた。
「こんな所で何してるんだ?」
自転車を下りたヨウの胸元が膨らむ。
一段と筋力が増していた。
「し、親戚がこの近くに住んでいるんです。」
適当な嘘でこの場を凌ぐ。
「こんな辺鄙な所まで大変だな。」
ヨウは真に受け、労ってくれた。
「先輩はここで何しているんですか?」
リョウは白々しく聞く。
「俺はここに住んでいるんだ。
今日は午後から仕事だから、ジムへ行って来たんだ。
お前、腹減ってないか?」
腹が鳴ったヨウが照れ臭そうに笑う。
言われてみれば、朝早くに朝食を取ってから大分時間が過ぎていた。
「俺も腹ペコっす!」
リョウも笑っていた。
駅前の食堂に入り、ランチ定食を頼んだ。
「その後、練習はどうだ?」
温い水を飲み干したヨウが聞く。
「あの日はすみませんでした。
負けたからといって、先輩に失礼な態度を取ってしまって。」
リョウは深々と頭を下げる。
「気にするな。
それよりタイムは伸びてるか?」
ヨウは話題を変えた。
人に謝られるのが苦手の様だ。
リョウが下を向いた時、ヨウの脚が視界に入った。
黄色いスパッツが大腿筋に張り付き、張り裂けそうだ。
リョウは慌てて、視線を逸らした。
(つづく)
朝の早い時間に行う筋トレは爽快だった。
ジュンヤやタクローみたいな才能は自分にはない。
筋力でカバーするしかないと、筋トレに依存していた。
誰もいないトレーニング室は自分だけの空間だ。
ラットプルマシンで広背筋をいたぶる。
自分の肉体を虐める事が快感だった。
「ぐおぉぉお!」気合いと共にバーを引っ張り切る。
バーを戻す時、手を離すのが早かった。
勢いよく銀色の重りが落下する。
『ガシャン!』派手な音を立てて、ウェイトが戻った。
荒い息で辺りを見回すが、気にする者はいない。
肉体は充実していたが、精神が不安定だった。
ジュンヤと肉体関係を持てる様になった事で、表面上の気力は充実している。
昨夜も練習が終わると、ジュンヤはリョウの尻を求めてきた。
『何故、ジュンヤは突然俺を求める様になったのか?
一度は止めようと言ったのに。』
リョウの思考はいつもの疑問に辿り着く。
『俺の行動を察して、ヨウ先輩を守る為?
そんな馬鹿な!
ジュンヤは純粋に俺の事が好きなんだ!』
リョウはそう納得しようとするが、裏の自分がそれを否定する。
『お前が鈴木先生に密告しようとしていたタイミングで、ジュンヤは戻ってきた。
都合良過ぎると思わないか?』
その囁きに対する答えが見付からない。
ジュンヤを身近に感じる程、疑心と不安が募る。
二人でいる時は幸福感に包まれ、独りになると苛立ちを覚えた。
そんな日々に嫌気が差し、リョウは行動を起こす。
『ジュンヤとヨウ先輩は未だに会っているのか?』
これがリョウの最大の関心事だ。
先ずこれが事実かどうかを知る事が先決に思えた。
試合の時の悪態を謝りたいと言って、鈴木先生からヨウの住所を聞き出す。
先生は簡単に教えてくれた。
日曜日に電車を乗り継いで、ヨウの住む町に向かう。
同じ府内なのに随分辺鄙な駅だった。
地図を頼りに、ヨウの家を目指す。
「このアパートか。」
リョウは建物を見上げた。
住宅街の一角で、ここで何時間も見張っていたら不審者に思われそうだ。
リョウは駅に引き返し、ロータリーで待つ事にする。
一本道を駅に向かって歩いていると、自転車に乗ったヨウがこっちに向かって来た。
屋敷の長い塀に挟まれて、身を隠す場所がない。
リョウはシューズの紐を直す振りして、顔を下に向けてしゃがみ込む。
自転車が横を摺り抜けて行くのが、横目で見えた。
「キキッー!」背後でブレーキの掛かる音がする。
「リョウじゃないか?」
聞き覚えのある声がした。
リョウは徐に振り返る。
「先輩じゃないっすか!ウッス!」
目を思い切り見開き、驚いてみせた。
「こんな所で何してるんだ?」
自転車を下りたヨウの胸元が膨らむ。
一段と筋力が増していた。
「し、親戚がこの近くに住んでいるんです。」
適当な嘘でこの場を凌ぐ。
「こんな辺鄙な所まで大変だな。」
ヨウは真に受け、労ってくれた。
「先輩はここで何しているんですか?」
リョウは白々しく聞く。
「俺はここに住んでいるんだ。
今日は午後から仕事だから、ジムへ行って来たんだ。
お前、腹減ってないか?」
腹が鳴ったヨウが照れ臭そうに笑う。
言われてみれば、朝早くに朝食を取ってから大分時間が過ぎていた。
「俺も腹ペコっす!」
リョウも笑っていた。
駅前の食堂に入り、ランチ定食を頼んだ。
「その後、練習はどうだ?」
温い水を飲み干したヨウが聞く。
「あの日はすみませんでした。
負けたからといって、先輩に失礼な態度を取ってしまって。」
リョウは深々と頭を下げる。
「気にするな。
それよりタイムは伸びてるか?」
ヨウは話題を変えた。
人に謝られるのが苦手の様だ。
リョウが下を向いた時、ヨウの脚が視界に入った。
黄色いスパッツが大腿筋に張り付き、張り裂けそうだ。
リョウは慌てて、視線を逸らした。
(つづく)
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