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YAMATO

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Chapter4(晩夏編)

Chapter4-⑩【Is This Love】

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無言のイオリを見て、ソウイチロウは動揺した様だ。
「やっぱ小せぇよな。
巨根が突き破りそうだ…。
他の奴にデカめの水着を借りてくる。」
慌てて出て行こうとする。
「ちょっと待って。」
イオリは引き留めた。
無言だったのは、小さ過ぎる所為ではない。
穿き古した競パンの温もりが、心地好かったからだ。
「ソウイチロウが着古した競パン、ありがとう。
凄く嬉しいよ。」
イオリはソウイチロウの背中に言う。
「そうか、だったら良かった。
早く彼氏の所に戻れ。」
ソウイチロウはそう言うと、表に出て行った。
ひとりになったイオリは溜息を吐く。
抱擁を期待していただけに気が抜けた。
イオリはもう一度顔を拭うと、ヨウの下に戻る。
 
ヨウは組んだ脚の上で、頬杖を突いていた。
「起きたんだ?」
案の定、目の周りがパンダ柄になっている。
「着替えたのか?」
ヨウの視線が変わった競パンに向く。
「うん。汗掻いたから、衣装替えしてきた。」
イオリは目線を逸らし答える。
「あの二人組は帰ったんだ?」
話題を変えた。
「ああ、あのもっこりビキニが、凄い剣幕で監視員に食って掛ってたぞ。
その声が喧しくて起きたんだ。
いい気味だ!」ヨウが嘲笑う。
「ビキニ男は何で怒ってたの?」
ソウイチロウの事が気掛かりだ。
「他の監視員に転ばされたって、吠えてたぞ。」
ヨウの答えに、イオリは益々不安になる。
ソウイチロウの行動が問題視されなければ良いが。
「帰る前にもうひと泳ぎしてくるか。」
ヨウはゴーグルをすると、プールに入った。
イオリはそれを見届けると、ソウイチロウを探しに行く。
しかしどこにも姿は見えなかった。
いつまでも荷物を放置しておけない。
元の場所に戻るが、気持ちは落ち着かない。
暫くするとヨウが戻って来た。
「さあ、帰るか。
旨いモン、食って帰ろうぜ。
串揚げ、カレー、お好み焼き、何にする?」
びしょ濡れのヨウが、身体を拭きなから聞く。
 
翌日、イオリはひとりでプールに向かう。
昨日と打って変わって、どんよりとした雲が空を覆っていた。
今にも雨が降り出しそうだ。
泳ぐ人も少なく、ライフセーバー達は所在なさげだった。
その中にソウイチロウの姿はない。
雨粒が顔に当たる。
必死に耐えていた雲が、ついに決壊した。
一気に大粒の雨が降り出す。
イオリは荷物を纏め、ロッカーへ向かう。
「すいません。ソウちゃん…。
いや、監視員のソウイチロウ君いますか?」
着替えを済ますと、チケットもぎのバイトに声を掛けた。
「ソウイチロウさん?お客様は?」
バイトが訝しげに聞き返す。
「従兄弟なんです。
ここで働いてるから、来いと言われていて…。
見当たらないので、休みですか?」
苗字が分からないので、一芝居打つ。
「ソウイチロウさん、昨日お客様とトラブルがあって謹慎中なんです。」
バイトが気まずそうに教えてくれた。
「だったら、直に連絡してみます。
ありがとう。」
イオリは礼を言い、駅へ向かう。
大粒の雨が頬を打つ。
 
不安が的中した。
アーケードに入り、タオルで濡れた服を拭く。
目に付いた喫茶店に入り、アイスコーヒーを頼む。
レジ脇の赤電話に10円玉を入れる。
ソウイチロウの番号は暗記していた。
番号を回しきったところで、通りに目を向ける。
雨粒が窓を叩き付けていた。
呼出し音が続くが、出る気配はない。
イオリは長い時間、通りを見詰めた挙げ句、受話器を置いた。
繋がらなかった事に安堵する。
自分勝手だが、ヨウは絶対に失いたくない。
もしソウイチロウと会ったら、一度や二度の逢瀬では済まなくなる。
席に戻ると、氷が溶けきったアイスコーヒーが待っていた。
きっとこの氷の様に、ソウイチロウに溶け込んでしまうだろう。
イオリは喫茶店を出ると、駅への道を急ぐ。
雨は既に止んでいて、西の空がオレンジに染まっていた。
もう夏も終わりだ。
『この思いは何?』
イオリはソウイチロウへの想いを、飲み残したアイスコーヒーと共に置いて来た。
 
 
(完)
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