妄想日記2<<BEGINS>>

YAMATO

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Chapter2(惜春編)

Chapter2-⑩【LOVE YOU ONLY】

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夜遅くにヨウがやって来た。
「おい、帰ってきたぞ!
早く開けろ!」
かなり酔った様子で、乱暴にドアを叩く。
「どうかしたの?
鍵持ってるでしょ。」
イオリはヨウを見て驚いた。
目元が青く腫れ上がり、唇から出血している。
家に救急箱がない事を思い出す。
「コンビニで絆創膏を買って来るよ。」
財布を持って、ドアへ向かう。
すれ違う瞬間、手首を掴まれた。
強い力に驚き、顔を見る。
「酔っ払いに殴られただけだ。
冷やしておけば治るさ。
それより一つになりたいんだ。」
ヨウはイオリを抱きしめると、口を押し付けてきた。
唇が圧迫され、鮮血が流れ込む。
生暖かい血の味がした。
ヨウはイオリをベッドに押し倒し、パジャマを脱がしに掛かる。
「本当、どうしたの?
昼間、海でしたばかりじゃん。」
イオリは話が聞きたい。
「別に。俺はぶっ放したいだけだ。」
ジッパーから引きずり出したペニスを強引に挿入する。
「痛いよ!ヨウはどうかしているよ。」
イオリはヨウの頬を叩くと、ベッドから飛び下りた。
「ゴメン。」ヨウは頬を押さえ謝る。
「酔ってるみたいだ。
今日は帰る。」
ヨウはジッパーを上げると、出て行った。
独りになったイオリは茫然とする。
『どうしてこうなるの?』
自問自答した。
しかし今のイオリには答えが見出だせない。
 
その答えが分かったのは翌日だった。
ジムに行くとスバルが飛んできた。
「いつ行っちゃうんだ?」
スバルの質問には、主語が抜けている。
「何のこと?」イオリが聞き返す。
「何だよ。ヨウから聞いてないのか?」
スバルが目を丸くする。
「ヨウがどうかしたの?」
イオリは胸騒ぎを覚えた。
「今日、ヨウが退会の手続きに来たぜ。
転勤だって!」
スバルの答えに、イオリは動揺が隠せない。
『ヨウがいなくなる?』
膝が奮え、よろけそうになる。
「大丈夫か?」
スバルが支えてくれたが、声は耳に届かない。
これは淫したための因業だ。
後悔するが、後の祭りだ。
「ヨウに会ってくる。」
イオリはロッカーに引き返す。
「そうしろ。ちゃんと話し合えよ!」
後ろからスバルの声が追ってきた。
 
不動産の看板を照らす明かりが消えた。
暫くすると、ヨウが出て来た。
「ヨウ…。」言い慣れた名前を呼ぶ。
「おう!イオリ、どうしたんだ?」
ヨウが呑気に振り返った。
「どうしたも、こうしたもないよ!
何で黙ってたんだよ?」
イオリが詰め寄る。
「別に話したって、どうにもならないだろう?
言えば、何か改善するのか?」
強まった語気に用意していた言葉を飲み込む。
「で、いつ行くの?」
言葉に詰まり、質問を変える。
「来週の水曜日だ。」
ヨウがネクタイを緩めた。
「水曜日って、あと五日しかないじゃん!」
文句を言うが、欠伸をしたヨウは聞き流す。
「家で話さない?」
納得がいかないが、ここでは人目が気になる。
「昨日飲み過ぎて、寝不足なんだ。」
ヨウは欠伸を噛み殺す。
「じゃあ、明日は?」
イオリは尚も聞く。
「明日は送別会。
まあ、そういう事だ。
イオリはスバルさんとヨロシクやれよ。じゃあな。」
片手を挙げると、駅に向かって歩き始めた。
夢が現実になっていく。
『ヨウは知ってたんだ。』
失いかけて、初めてヨウの大切さを思い知る。
ここに住んでから、いつもヨウが側にいてくれた。
ヨウのいない生活なんて想像が出来ない。
「ヨウ、待ってよ!」
夢と同じ様にイオリは叫んだ。
一瞬立ち止まった背中は再び歩き出し、改札に消えた。
 
アパートの前で、イオリは桜を見上げる。
街灯の明かりの下、新緑が目に鮮やかだ。
この桜が満開の時にヨウと出逢った。
ヨウが熱い恋をするなら、相手はイオリしかいない筈だ。
イオリが本当の恋をするのは、世界中でヨウしかいないのだから。
桜を見て、気持ちは固まった。
 
 
(つづく)
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