21 / 147
Chapter2(惜春編)
Chapter2-⑩【LOVE YOU ONLY】
しおりを挟む
夜遅くにヨウがやって来た。
「おい、帰ってきたぞ!
早く開けろ!」
かなり酔った様子で、乱暴にドアを叩く。
「どうかしたの?
鍵持ってるでしょ。」
イオリはヨウを見て驚いた。
目元が青く腫れ上がり、唇から出血している。
家に救急箱がない事を思い出す。
「コンビニで絆創膏を買って来るよ。」
財布を持って、ドアへ向かう。
すれ違う瞬間、手首を掴まれた。
強い力に驚き、顔を見る。
「酔っ払いに殴られただけだ。
冷やしておけば治るさ。
それより一つになりたいんだ。」
ヨウはイオリを抱きしめると、口を押し付けてきた。
唇が圧迫され、鮮血が流れ込む。
生暖かい血の味がした。
ヨウはイオリをベッドに押し倒し、パジャマを脱がしに掛かる。
「本当、どうしたの?
昼間、海でしたばかりじゃん。」
イオリは話が聞きたい。
「別に。俺はぶっ放したいだけだ。」
ジッパーから引きずり出したペニスを強引に挿入する。
「痛いよ!ヨウはどうかしているよ。」
イオリはヨウの頬を叩くと、ベッドから飛び下りた。
「ゴメン。」ヨウは頬を押さえ謝る。
「酔ってるみたいだ。
今日は帰る。」
ヨウはジッパーを上げると、出て行った。
独りになったイオリは茫然とする。
『どうしてこうなるの?』
自問自答した。
しかし今のイオリには答えが見出だせない。
その答えが分かったのは翌日だった。
ジムに行くとスバルが飛んできた。
「いつ行っちゃうんだ?」
スバルの質問には、主語が抜けている。
「何のこと?」イオリが聞き返す。
「何だよ。ヨウから聞いてないのか?」
スバルが目を丸くする。
「ヨウがどうかしたの?」
イオリは胸騒ぎを覚えた。
「今日、ヨウが退会の手続きに来たぜ。
転勤だって!」
スバルの答えに、イオリは動揺が隠せない。
『ヨウがいなくなる?』
膝が奮え、よろけそうになる。
「大丈夫か?」
スバルが支えてくれたが、声は耳に届かない。
これは淫したための因業だ。
後悔するが、後の祭りだ。
「ヨウに会ってくる。」
イオリはロッカーに引き返す。
「そうしろ。ちゃんと話し合えよ!」
後ろからスバルの声が追ってきた。
不動産の看板を照らす明かりが消えた。
暫くすると、ヨウが出て来た。
「ヨウ…。」言い慣れた名前を呼ぶ。
「おう!イオリ、どうしたんだ?」
ヨウが呑気に振り返った。
「どうしたも、こうしたもないよ!
何で黙ってたんだよ?」
イオリが詰め寄る。
「別に話したって、どうにもならないだろう?
言えば、何か改善するのか?」
強まった語気に用意していた言葉を飲み込む。
「で、いつ行くの?」
言葉に詰まり、質問を変える。
「来週の水曜日だ。」
ヨウがネクタイを緩めた。
「水曜日って、あと五日しかないじゃん!」
文句を言うが、欠伸をしたヨウは聞き流す。
「家で話さない?」
納得がいかないが、ここでは人目が気になる。
「昨日飲み過ぎて、寝不足なんだ。」
ヨウは欠伸を噛み殺す。
「じゃあ、明日は?」
イオリは尚も聞く。
「明日は送別会。
まあ、そういう事だ。
イオリはスバルさんとヨロシクやれよ。じゃあな。」
片手を挙げると、駅に向かって歩き始めた。
夢が現実になっていく。
『ヨウは知ってたんだ。』
失いかけて、初めてヨウの大切さを思い知る。
ここに住んでから、いつもヨウが側にいてくれた。
ヨウのいない生活なんて想像が出来ない。
「ヨウ、待ってよ!」
夢と同じ様にイオリは叫んだ。
一瞬立ち止まった背中は再び歩き出し、改札に消えた。
アパートの前で、イオリは桜を見上げる。
街灯の明かりの下、新緑が目に鮮やかだ。
この桜が満開の時にヨウと出逢った。
ヨウが熱い恋をするなら、相手はイオリしかいない筈だ。
イオリが本当の恋をするのは、世界中でヨウしかいないのだから。
桜を見て、気持ちは固まった。
(つづく)
「おい、帰ってきたぞ!
早く開けろ!」
かなり酔った様子で、乱暴にドアを叩く。
「どうかしたの?
鍵持ってるでしょ。」
イオリはヨウを見て驚いた。
目元が青く腫れ上がり、唇から出血している。
家に救急箱がない事を思い出す。
「コンビニで絆創膏を買って来るよ。」
財布を持って、ドアへ向かう。
すれ違う瞬間、手首を掴まれた。
強い力に驚き、顔を見る。
「酔っ払いに殴られただけだ。
冷やしておけば治るさ。
それより一つになりたいんだ。」
ヨウはイオリを抱きしめると、口を押し付けてきた。
唇が圧迫され、鮮血が流れ込む。
生暖かい血の味がした。
ヨウはイオリをベッドに押し倒し、パジャマを脱がしに掛かる。
「本当、どうしたの?
昼間、海でしたばかりじゃん。」
イオリは話が聞きたい。
「別に。俺はぶっ放したいだけだ。」
ジッパーから引きずり出したペニスを強引に挿入する。
「痛いよ!ヨウはどうかしているよ。」
イオリはヨウの頬を叩くと、ベッドから飛び下りた。
「ゴメン。」ヨウは頬を押さえ謝る。
「酔ってるみたいだ。
今日は帰る。」
ヨウはジッパーを上げると、出て行った。
独りになったイオリは茫然とする。
『どうしてこうなるの?』
自問自答した。
しかし今のイオリには答えが見出だせない。
その答えが分かったのは翌日だった。
ジムに行くとスバルが飛んできた。
「いつ行っちゃうんだ?」
スバルの質問には、主語が抜けている。
「何のこと?」イオリが聞き返す。
「何だよ。ヨウから聞いてないのか?」
スバルが目を丸くする。
「ヨウがどうかしたの?」
イオリは胸騒ぎを覚えた。
「今日、ヨウが退会の手続きに来たぜ。
転勤だって!」
スバルの答えに、イオリは動揺が隠せない。
『ヨウがいなくなる?』
膝が奮え、よろけそうになる。
「大丈夫か?」
スバルが支えてくれたが、声は耳に届かない。
これは淫したための因業だ。
後悔するが、後の祭りだ。
「ヨウに会ってくる。」
イオリはロッカーに引き返す。
「そうしろ。ちゃんと話し合えよ!」
後ろからスバルの声が追ってきた。
不動産の看板を照らす明かりが消えた。
暫くすると、ヨウが出て来た。
「ヨウ…。」言い慣れた名前を呼ぶ。
「おう!イオリ、どうしたんだ?」
ヨウが呑気に振り返った。
「どうしたも、こうしたもないよ!
何で黙ってたんだよ?」
イオリが詰め寄る。
「別に話したって、どうにもならないだろう?
言えば、何か改善するのか?」
強まった語気に用意していた言葉を飲み込む。
「で、いつ行くの?」
言葉に詰まり、質問を変える。
「来週の水曜日だ。」
ヨウがネクタイを緩めた。
「水曜日って、あと五日しかないじゃん!」
文句を言うが、欠伸をしたヨウは聞き流す。
「家で話さない?」
納得がいかないが、ここでは人目が気になる。
「昨日飲み過ぎて、寝不足なんだ。」
ヨウは欠伸を噛み殺す。
「じゃあ、明日は?」
イオリは尚も聞く。
「明日は送別会。
まあ、そういう事だ。
イオリはスバルさんとヨロシクやれよ。じゃあな。」
片手を挙げると、駅に向かって歩き始めた。
夢が現実になっていく。
『ヨウは知ってたんだ。』
失いかけて、初めてヨウの大切さを思い知る。
ここに住んでから、いつもヨウが側にいてくれた。
ヨウのいない生活なんて想像が出来ない。
「ヨウ、待ってよ!」
夢と同じ様にイオリは叫んだ。
一瞬立ち止まった背中は再び歩き出し、改札に消えた。
アパートの前で、イオリは桜を見上げる。
街灯の明かりの下、新緑が目に鮮やかだ。
この桜が満開の時にヨウと出逢った。
ヨウが熱い恋をするなら、相手はイオリしかいない筈だ。
イオリが本当の恋をするのは、世界中でヨウしかいないのだから。
桜を見て、気持ちは固まった。
(つづく)
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説







ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる