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YAMATO

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Chapter1(イオリとヨウ編)

Chapter1-③【裸足の女神】

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引っ越し当日、昼過ぎにアパートに着く。
既にヨウは汗だくだった。
「どうしたの、その汗?」
目を丸くして聞く。
「朝一で来て、ワックスを塗っておいたんだ。
何もない状態で塗るのがベストだからな。」
ヨウがタオルで汗を拭う。
「ありがとう。」
風が通り抜ける新しい部屋で礼を言う。
「水臭いこと言うなよ。
友達だろ。」
屈託のない笑顔に無糖コーヒーを差し出す。
「悪いな、ありがとう。」
「友達だろ、礼はいらないよ。」
久し振りに声を出して笑った。
浮き立つ気持ちは春の陽気だけの所為ではなさそうだ。
友達の少ないイオリは初めて友情を実感した。
「それにさ、礼を言いたいのは、俺の方なんだ。
今まで一件も取れなかった契約が、あの後三件も取れたんだ。
一週間で四件だぜ!
所長に褒められたよ。
イオリは俺の勝利の女神だ!」
ヨウに抱き上げられ、ぐるぐると回された。
汗の匂いにどぎまぎする。
「いや、ヨウの実力だよ。」
お世辞ではなく、心底そう思う。
ヨウの一生懸命さと明るさがあれば、契約が伸びるのは当然だ。
そのきっかけが、たまたまイオリの契約だっただけだろう。
 
ヨウは小さめのTシャツとランパンを穿いていた。
アンダースパッツが見え隠れする。
動悸が激しいのは目が回った所為か、抱きしめられた所為か分からない。
「ヨウは何かスポーツしてるの?」
はち切れそうなウエアを見ながら聞く。
「ああ、サッカー部と水泳部を掛け持ちでやってた。
ただ就職してからは平日休みだから、身体が鈍ってるんだ。
イオリは何かしてたのか?」
ヨウがシュートする仕草を見せた。
「イオリは運動音痴なんだ。
クラスにそういう奴いただろ?
それがイオリ。
だから全くやってないよ。」
イオリはヨウを眩しげに見る。
以前はスポーツクラブにも通っていたが、トレーニングと呼べる代物ではなかった。
「でもさ、その腹筋は凄いよな!」
ヨウの視線が下半身で留まる。
イオリはハーフのスパッツにロンTを着ていた。
ケツワレを穿いて、もっこり感を強調させている。
「イオリはがり勉タイプで、唯一の息抜きが腹筋だったから。」
照れ隠しに、卑下して答える。
「だったらさ、一緒にスポーツクラブに通わないか?
夜の研修も今月一杯で終わるから、来月から夜は自由なんだ。」
ヨウがポージングして戯けた。
「別にいいけど…。」
無論異存はないが、心配事がある。
「気が進まない感じだな。
何か問題があるのか?」
ヨウが顔を覗き込む。
「だってさ、イオリとヨウじゃ、体力差があり過ぎるよ。
一緒に行っても別メニューじゃ、意味ないから…。」
視線を逸らせて訴える。
「何だ、そんな事か!
最初はイオリのペースに合わせるさ。
その代わりスパルタだぜ。
俺ってSっ気あるんだ。」
ヨウが妖しい笑みを浮かべ、ウインクした。
 
「さてと、そろそろワックスが乾く時間だ。
荷物を運んじゃおうぜ。」
時計を見たヨウが腰を浮かした。
車に頭を突っ込み、尻を突き出す。
きっとケツワレのラインが出ている筈だ。
「ねぇ、電気通ってた?」
不意に振り向く。
ヨウが視線を逸らす。
視線が泳いでいるのが分かる。
ゲイだという事は間違いなさそうだが、何かきっかけが欲しい。
イオリは楽しい気分で、あれこれ作戦を考えた。
「もう終わりか?」
ヨウが仰天する。
「ああ、家電は明日届くから、今日は身の回りの物だけなんだ。
後は夕方にベッドが届くだけ。」
ガランとした部屋を見回す。
机の上に十数冊の辞書があるだけだ。
実家の部屋一面にある書籍は置いてきた。
専門書があれば、必要な調べ物は出来る。
この部屋に無駄な物は置きたくない。
『あれ程大切だった書籍が、今では無駄な物か…。』
イオリは失笑する。
「ヨウ、そこの段ボールを取って。」
「これか?」
ヨウは指差すと、納戸まで運んで来た。
納戸の中はワックスが乾ききっておらず、ヨウが足を滑らす。
バランスを崩し、段ボールの中身をぶちまけた。
巨大なディルド、拘束具、マスクが飛び出す。
ロスで購入したSMグッズが飛散した。
 
 
(つづく)
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