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(1)告白
しおりを挟む「桃華先輩、……ボクと、つっ……付き合ってください」
「ダメよ! 全然ダメ」
生徒会長であり侵されざる孤高の人、久遠桃華がそう言い、僕は一瞬で失恋した。
恋焦がれていても告白などと考えてはおらず、遠くから見ているだけでよかった片思いなのに、罰ゲームで想い人に告白しなきゃいけなくなったんだけど。
そうして、お昼休みに校舎裏へ来てもらい告白したんだけど……。
「千堂くん? 桃華、オレと付き合え! くらい言わないとダメ」
背中まである髪を身体の後ろへ払い姿勢を正すと、キッとボクを睨みつけて、桃華先輩はそう言った。
何言ってるの、この人?
告白にダメ出し?
再度、やれってこと……かな?
告白のリテイクなんて聞いたこと、ないんですけど~?
先輩は、ポーズをつけたまま、僕をにらみ続けて動かない。
早くしろ! って言外に圧力をかけてきている感じだ。
ま、まあ恥のかきついでにやってみるか……。
「桃華!……先輩。ボクと付き合え!……ってください……」
うわ~、やっぱりダメだ~!
僕は自分の不甲斐なさと自己嫌悪で、その場に蹲った。
「ん~……まあ、いいでしょう。でも人前でベタベタはダメ。わたくしの立場があります。それから、二人だけの時は桃華と呼ぶこと。それから……」
そう言いながら、鼻息荒くする先輩。
どこに昂る要素がありましたか?
見上げるとスラっとした御御足からスカート、ジャケットを押し上げるおぬめ様、そしてご尊顔が僕を覗き込んでいる。
チビな僕だけど、桃華先輩を下から見上げると、今さらながら大きさが際立って見えた。
「あの~、それってどういう──」
「あなたと付き合う条件よ。あっ、わたくしと付き合っているのは秘密。分かった?」
「──はあ~、はい?」
「それじゃ。放課後、生徒会室に来ること、いいわね?」
そう言って、桃華先輩はスカートを翻して去っていく。
えっと、これは付き合うって、ことかな?
付き合ってもいいってことだよな?
頬をつねっても痛かった。嬉しいけど現実味がない。
ふわふわと浮わついて足許覚束なく教室に戻ると、自分の席に座った。
まさに無自覚に移動して気づいたら教室の自分の席にいた感じだ。
床に目を向け虚ろを見つめて、先輩の言ったことを反芻《はんすう》する。
「当然、ダメだよな~」って声が聴こえる。
「誰も失敗してるんだから当然だ」
「誰も落とせない孤高の花、久遠桃華」
「チビっ子にはハードルが高過ぎた。てか、まさに山のように高いか」
でも、そんな声は気にならない。だって桃華先輩と付き合うことになったんだから。
なぜかはサッパリ分からないけど。
「気を落とすなよ。順当ってヤツだからな」
僕に向けた声がかかる。振られて当然の慰《なぐさ》めの言葉ばかりだ。
だけど嘲笑も失笑も気にならない。
誰にも誇れないけど桃華先輩は、僕を受け入れてくれた。
それだけで僕は満足だった。
◆
「全く、遅いったらありゃしない。どれだけ、わたくしを待たせるの?」
誰もいない生徒会室で、桃華はほくそ笑んでいた。
「でも、ようやく手に入ったわ」
幾度となく告白を断わり続けてきたのを回顧しながら念願が叶《かな》ったのを悦んでいた。
その手に握られた首輪を慈しむように撫でながら……。
それは一体、誰に使われるものなのか?
桃華にしか分からない。
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