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4.本家からの再出発
202.見せパン・クエスト
しおりを挟む店長・ウエイトレスたちへの挨拶もそこそこにレストランを出る。
「笹、ルート──」
「あ、ちょっと。文房具のほかに学習用タブレットと、ゴムひもなどの手芸用品と、下着類でスケジュール組んで」
「──だそうだ。笹、頼む。気更来に投げるのは無しだ」
「畏まりました……」
笹さん、脂汗が吹き出そうな顔をしてる。
「三階に下着。四階で文房具。あ、手芸がある。タブレットは四階……まずエスカレーターで下りて……こちらです」
「よし、行こう」
「うん」
笹さんの案内でみんな動きだす。
「そっちは空いてる方?」
気更来さんにそっと訊く。
「そうですね。ほかとあまり変わりませんが、ここから離れるにはいい選択です」
五階のバックヤードは荷物搬入で込み合って来ているので、と気更来さんは合格を出す。
「タブレットの~、筆記具の~……お裁縫道具類はこれくらいでいいか」
「もう通販で買え」
「小物だと送料が高くつくからな~。それで次は、鬼門の見せパンか……」
「笹?」
「はい……。店内が少し混んできました……バックヤード経由で二階へ。こちらです」
気更来さんを窺うと首肯してる。
「職員エレベーターで二階に下りて、バックヤードから店内に戻ります」
スイングドアを抜けてバックヤードを渡っていると店員さんにギョっとされる。首から下げたIDを見ると納得してくれるけど。護衛の黒服は威圧感あるからね。
「あら? 少年K?」とか「キョウちゃん?」とか、ボクに気づくと話しかけられるのが煩ったい。「こんにちは~」とか言ってやり過ごす。
話したそうだけど、おば──お姉さん方に捕まると話が長くなる。
「笹さん、アンスコとかドロワーズとかの陳列場所、分かります?」
「えっ……分かりかねます……」
「そっかー」
エレベーターの中で笹さんに訊いてみるけど分からない。仕方ない、衣類エリアの店員さんに聞くか。
お姉さん方と話さないって決めた側から覆さないといけないとは。
三階のバックヤードに出ると見つけた店員さんに訊いてみる。
「あの~、お仕事中すみません。アンダースコートとか──」
「えっ! キョウちゃん?」
「え、ええ。それでアンダースコートとかの~」
「──あの! 一緒に写真撮っていい?」
「はあ……。まあいいですけどー、アンダー──」
「じゃあ、ここ暗いからあっちで」
「──ちょちょちょっと~」
「「「──あっ!」」」
腕を絡め引きずるお姉さんに為す術なく移動する。護衛たちもボクが話しかけた店員だからと油断して慌てている。
衣料品のバックヤードは半弧状になって見通しが悪い上に、店内のように照明は充分になく薄暗い。並べられた商品棚や所々、出入口近くにある仕分け台と作業する店員さんの横をすり抜けて窓際へ。ここでもボクたちを見た店員たちは驚いている。
「突飛な行動は慎んでください」
一番端まで連れてこられ、追い付いてきた笹さんが強い語威で店員に注意する。
「あ、あら……ごめんなさいね。ちょっと舞い上がってたみたい」
「まあまあ。それで一緒に写真、ですか?」
笹さんを宥め、改めて店員さんに聞く。
「ああ、そうそう」
「どうすればいいですか?」
「並んで……。ここに座りましょう」
バックヤードの端、窓のある所は店員の休憩に使うのかパイプイスがいくつか置かれている。そのイスを並べて一緒に座る。
「あなた、写真撮ってくれる」
「はあ、いいですよ」
店員さんが携帯端末を歩鳥さんに渡して頼む。
「じゃあ、いきます、よ?」
「ちょっと待って。キョウちゃん、もっと近く。もっと寄って」
「こう、ですか?」
「う~ん、もっと」
「こう?」
「まだまだ……」
「ま、まだ?」
「こう、よ!」
「え、えっ?」
肩を寄せ合うくらいかと思ったら、体を重ね、それはもう密着。まだ足りないとボクを抱き寄せ顔を密着するほどに……。やり過ぎです。こちらを見るマキナの目がきょわい。
「これでお願い」
「じゃあ……はい。撮れました」
「ちょっと。もう一枚、お願い」
「はあ……。はい、撮れましたよ」
ちょっと呆れつつ歩鳥さんが角度を変えて撮影する。
「それでですね……見せパンなどが──」
「ちょっと私も一緒に撮って!」
「キョウちゃん、私も私も!」
やっと話を聴けると思ったら、ほかの店員さんが護衛たちに割り込み前に出てきて撮影をねだる。
「何ですか、この集まりは! まあ~! 少年K? キョウちゃん? ってマキナ様?」
人垣をかき分け一人が前に出てくるとボクに驚き、さらにマキナに気づいて驚く。店員より一回りは年嵩の彼女はマキナを知っている。
「そうですか。アンダースコートなどをお求めなのでね?」
「そうです」
年嵩の店員さんは衣料品の統括責任者で牧村さん。休憩でもないのに作業を放棄して集まっているのを注意しに来たという。これ幸いと話すと相談に乗ってくれる。
「では、見繕って来ましょう。その代わり……その……」
「ああ……。一緒に写真、ですね?」
もじもじしながら二の句を継げない様子を察して提案する。
「ありがとうございます。あなたたち、写真を撮ったら直ちに作業に戻りなさい」
「「「は~~い」」」
責任者として言葉でも店員たちは半分呆れて生返事する。まあ、威厳は地に落ちたかもしれない。
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