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4.本家からの再出発
198.武勇伝
しおりを挟む「娘さんによろしく」
「娘……? ああ、娘ね。そう、娘によく言っておきます」
その反応で分かった。自分が欲しかったんだね?
「どうしてボクのファンになったんですか?」
「そりゃもう、近寄る女どもを千切っては投げ、千切っては投げ──」
ボク、そんなことしてない。何のこと言ってる? てっきり、恥ずかしファッションショーだと思ってた。
「おそらく、モール脱出の時の……」
「監視カメラでモニターしていたのでは?」
笹さんと気更来さんが耳打ちしてくる。
あああ~、この人がガチ・ファンじゃん。
ボクは単に神輿で掃討していたのは笹・打木さんと蓮なんとかさん、池なんとかさんの四人と、ミヤビ様の護衛二人だよ。
「そろそろ行こう。ありがとうございました」
「それじゃ」
「──ご安全に」
守衛さんの話をぶった切り、守衛室前をあとにする。関知していないボクの武勇伝を聞かされてもね~。付き合ってられない。
更衣室、社員食堂や社員用エレベーター前を通り抜けて奥の役員室に着く。そのまた奥の社長室のドアをノックする。
「入れ」
「失礼します」
「おや、マキナ、どうした?──キョウくんも一緒か」
「こんにちは」
部屋の奥の執務机にレンカ義叔母様が座っている。立ち上がってソファーを示す。
レンカ義叔母様がソファーに座ると対面にマキナと並んで座る。護衛たちは後ろに控える。
「赴任前にレンカおば──社長にご挨拶して置こうかと参上しました」
「そうか。まだ先でも良かったが、ちょうど良い」
「ちょうど?」
マキナと顔を見合せる。
「キョウくん、バイトしないか?」
「バイト……」
「社長、キョウはまだ学生でありバイトするより勉学に集中させたいのですが。それに男ですよ」
う~ん、できるならバイトしたいけどな~。マキナはそう言うよな~。男にできる仕事はそうそう無い。
「あ~、そんなに拘束はしないぞ。空いている時間でいいんだ」
「空いている時間なんかありません。幼稚園や初等部に顔を出そうとか言ってるんです、こいつ」
そう言ってマキナが肘で小突いてくる。そうだった~、タンポポちゃんたちに約束してたよ。
「放課後、一~二時間来てくれるだけでいいんだ」
「一~二時間といっても学校からと帰宅に一時間はかかります」
そうか~、往き帰り含めると三時間は時間を取られるのか……。ここだと手軽には行かないか~。
「週二~三回でいいんだ」
「いったい何のバイトなんです?」
「まあ有り体に言ってコンパニオン、だな」
「お断りします」
即座にマキナが拒否する。
「まあ、聞け。直営レストランのウエイター、売り場のレジや案内。空いているところでちょこちょこやって客寄せしてくれれば良いんだ」
「キョウを客寄せに使うのは危険ですよ。お分かりでしょう」
「護衛も付くのだろう。ここに来ればキョウくんが居るのだと、会えるのだと分かると過激な反応はしなくなるんだよ」
「それは……分かるような理解したくないような」
どう思うとマキナがボクを窺う。はっきり言って働きたい。週二~三回でも。
でもな~、タンポポちゃんたちの相手で不足する学習を補う時間が取れなくなるよな~。卒業できなくてもいいけど、マキナに宣言した手前できませんでしたでは言い訳もできない。
「時給一万出そう──」
は? 一万円? 一万ウォン? 一万ドン?
「──契約金は二、いや、三百出そう」
「やります!」
「──お、おい。契約金とは何ですか?」
お金に目が眩んで即諾したらマキナに宥められる。
「契約金は契約金だ。専属契約で拘束するんだから契約金は要るだろう」
「まあ確かに……専属にするんですか? こいつを」
「むう~」
黙って聞いてたら〝こいつ、こいつ〟うるさいよ?
「もう充分、宣伝効果があり当モールの顔になってる。知っているかは分からないが服飾の売上が凄まじい。連れて他の部門も軒並み昨年の実績を上回っている」
「あ~~、株価も年初来だとか」
「そこで、彼だ。うちに来ると会えるかも知れない効果を狙う」
「そんな、デート商法みたいなのはキタムラには合わないと思います。こいつを知ると幻滅すると思いますよ」
「ぐぬぬぬ……」
マキナの横腹をつねってやろうとしたら摘まめなかった……。というか摘まもうとしたら掴んでしまった。肥りすぎじゃね?
「物怖じせず天然なところが堪らない。そこいらの引きこもり男子どもとは一線を画している」
それって褒められてるのかな~。義叔母様も掴んでいいかな~?
「そこまで言われるなら少し働かせて様子を見ますか……」
「そうか。二、三日のうちに書類を用意しておく」
「分かりました」
「このあと、どうする? 食事にするが一緒にどうだ」
「ありがとうございます。ですが店内のレストランで取る予定なので」
「そうか。残念だが食事はまたの機会にしよう」
「それではまた」
社長室での話は終わり部屋を出る。お腹を掴んでいたボクの手はマキナに叩かれて早々に剥がされていた。
「あと、レストランで食事だけど、ちょっと早いよね」
「いいだろう。空いていて」
「まあ、そうだけど」
マキナの食べられるもの、あるかな~?
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