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4.本家からの再出発
195.カエデ姉妹の見送り
しおりを挟む長いエスカレーターを折返し折返し、九十九折に下っていく。
「こんなに深くて地下水は大丈夫かな~」
「むしろ地下水対策で深いと聞いた気がするな」
「そうなんだ。伊勢湾を越えるところはもっと深いのかな~?」
「深いな」
「ふう~、やっと底か~」
「こっちだ」
やっとエスカレーターが終わる。ジオフロントの底に着いた気分だ。
道中、マキナは相変わらず気のない返事ばかり。
「エレベーターがあればいいのに」
「あるが、個室はマズいだろう」
「……ああ」
そうか、ボクを気遣ってエスカレーターを使ったのか。
「上《のぼ》り線は、あっちだな」
「うん」
上りと下りを示す矢印の銘板があり、左の指示に従って進むと今までと比べ小さく短い階段がある。
階段を下りると上り線のプラットホームに着く。
頭上の運行表示板には、先着・超特急、次着が特急と表示されている。すぐに来るエクストリームは停車駅を絞った超特急、スープラは各駅停車の特急列車らしい。
「ちょうど列車が来るな。しっかり勉強してこいよ」
「いや、もう卒業だから」
「編入手続き、早くしてね」
「そういう浮わついた気持ちがダメだと言ってる」
「わ、分かってるって」
「みんな、元気でね?」
「そんな、もうお別れみたいに言わないで……」
「きっと帰ってくるから~、キョウちゃん」
「あ~、はいはい」
「来たな」
ヒューンという音が聞こえ、耳がつんとしてくる。
マキナの言葉どおりエクストリームがプラットホームに姿を現す。先頭車両は青と黄色のストラップが入った銀色のロケットに見える。
「待っててね」
そういいカエデさんが抱き着いてきてキスしてくる。
「あっ」
感嘆したツバキちゃんも、おずおず抱き着いてきてカエデさんを押し退けキスしてくる。
今さらなので二人を受け入れる。
列車の入構する音で、周りから起こる〝おおおおお~っ〟という低いどよめきが、かき消される。
「おい、着いたぞ」
一両三十メートルくらいの車両が八両は連結され目の前に停まっている。
「それじゃあ……」
「それじゃ、また」
「うん、待ってる」
「じゃあ、しっかりやれよ」
「うん」
「分かってるって」
二人は小さく手を振り、列車とプラットホームを隔てる乗降ゲートを越え、銀色の胴体の中に消える。
ボクも小さく手を振り見送る。
しばらくして列車のドアがプシュっと音を立て閉まり乗降ゲートも閉まると、列車がするする滑りだし、あっと言う間に暗い坑の中に消えた。
「行っちゃったね」
「そうだな。連れて来るのも一苦労したが送り返すのも手を焼くとは……。帰るか」
「うん」
タマちゃん水無ちゃんもここを伝って帰ったんだな~。いつかボクもリニアに乗ってみたい……。
少し感傷的になりながら、降車客の流れに乗って連絡階段に向かう。もう遠慮することなくマキナと指を絡めて歩く。
「──リニアのプラットホームで公然キス」
「──キョウちゃんの妖しい関係。若い女二人は誰?だって……」
もと来た途を戻っていると護衛が呟く。
「妖しくも怪しくもない。妻の二人だと書き込んでやれ」
護衛に振り向いてマキナが言う。
「ダメだよ。余計な情報を与えたら」
「……それもそうか」
ボクの提案にマキナも頷く。
「──若い女は新しい妻、らしい。もう暴露されてます」
「──マキナ様は〝旧い妻〟だとか書かれてますね~」
「ほぉう……」
ぴきぴきとマキナの額に青筋が立つ。
「気更来さん、投稿主を特定、制裁して」
それは、さすがに赦せない。
「私にそんなこと出来ません。まず、被害届でしょう?」
「じゃあ、そうして」
「いいですけど、単なる未婚者のやっかみですよ?」
「じゃあ、早く結婚しろって言って」
「そんな無茶な……」
「──うわっ。キョウ様は〝毒舌・報復厨〟とか書かれてます」
「それって、ほぼ実況に近くない?」
そう言って後ろを振り向く。慌ててそっぽ向く数人が目に入る。
「直後に中傷者、発見。確保」
その女性たちを指さし宣言する。
「ち、違います」
「全然」
「マジ捕まえます?」
「捕まえて」
「──待て待て。放っておけ」
「でも……挙動不審だよ」
「挙動不審だけでは護衛といえど捕まえるなんてできないぞ」
マキナが小声で宥めてくる。まあ、そうなんだろう、けど。
「──一旦、後ろをやり過ごす」
エスカレーターの折返しで改札へ向かう流れから外れる。後ろにいた人たちが追い越しエスカレーターを流れて上っていく。
「悔しいな~」
「公衆の面前でべらべらしゃべるからだ」
「だって~」
「地下街で彷徨いてみるか?」
「ほんと?」
「ああ、なんなら昼を食べてもいいぞ」
「いいの? あ……でも……」
「なに?」
「何でもない……」
ボクのご機嫌とりなんだろうけど、う~ん、外の料理をマキナが食べられるかな~?
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