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4.本家からの再出発
184.懐妊報告
しおりを挟む「ただいま戻りました……」
打木が力なく戻ってくる。
「どうしたんだ?」
「いえ、お館は『そうか』と仰るだけで、あとは任せろと」
笹が問いただすと打木が応じる。
「そうだろう。世迷い言など聞かれはしない」
「そうではなく、懐妊については疑問を持たれていませんでした」
「どういうことだ?」
「言葉のままです。しばらくは心穏やかに過ごすように、と労りの言葉を授かりました」
「は? それは、どういう……」
思わず同じ言葉を繰り返しかけてやめる。
「安定期までは、のんびりしていろ、とも仰いました」
「意味がわからん」
お館が認めたことで妊娠が既定事項になっている……。
「だから言ったでしょ? あとは、キョウちゃんにどう話すかだよね~」
「ふさぎ込んだものを、びっくりさせてもな~って思う」
「一気に躁状態になるとパンクしそう」
何を言ってる。キョウがそんなになるワケなかろう。
「現実と夢想の折り合いがついたころまで待つ?」
「そうだな~。赤ちゃんへの執着が緩んだころに知らせる方がいいかな~?」
「うん。それがいいね」
そんなことにはならん。赤子などできては、いないのだから。
「それでは、私は新都に帰りますよ。アヤメくん、キョウくんを頼むよ」
「任せてください」
「お疲れ様でした。お気をつけて」
部屋に訪れた香具羅院長の挨拶を受けて送り出す。
「アヤメは残ってもらうとして、お前たちも新都に帰れ」
「あんまり話できなかったから、まだ」
「ズルい。うちもまだ残る。今夜、泊まる」
「お前ら、夕食を食べたら帰れ。学校が大事だろ?」
「「え~~?」」
「アヤメ姉だけ、ズルい」
「私は、キョウちゃんのお世話しないといけないからね?」
「学校なんかどうでもいい。キョウちゃんが心配」
「オレはお前たちの頭が心配だ。それで二人とも卒業できるんだろうな~? ツバキは進学もあるが」
「「うっ……」」
「お、夫が体調不良だからって言う!」
「それイイネ! 私もその方向で……」
「あのな~……ツバキは(婚姻)予定であって(つまり婚約段階)、そんな言い訳は通用しない」
「へへ~ん」
勝ち誇ってカエデが胸を張る。
「ぐぬぬぬ~……夫予定が体調不良って理由でこちらの学校に転校してやる~」
すぐ手続きするとツバキが息巻く。
「はあ~~っ。月曜の朝イチで帰れよ?」
「えっ! ぃやった~!」
「おい、静かにしろ。キョウが起きる……そう言えば子供たちはおとなしくしているか?」
「してるんじゃない。みんなでお昼寝してたよ?」
ゴメンと謝ってツバキが報告する。
またか……。キョウは幼児化してるんじゃないか? 早めに復学させないと……。
寝室を覗きみると、そろってスヤスヤ眠っている。
「はあ~~。こっちの気も知らないで……」
メイドたちが夕食を運んで現れたので子供たちを起こし部屋に帰らせる。キョウも眠い目をして起きる。護衛たちは待機部屋に下がる。
「佳き日に当たり、特別メニューに致しました」
配膳を指揮するサザレが食べる前に挨拶する。皆は鰆の西京焼きに赤飯だが、オレは深皿だけ。
「どうして……」
「マキナ様は、おじやに致しました。これならば、いかばかりか食べられると存じます」
「何でマキナは、おじや?」
「それはね~──」
「カエデ!」
「おっと。……食欲不振対策、だね?」
「「そうそう」」
そうそう、じゃね~よ。
「ふうん……。そうなんだ……。それで何で赤飯?」
「何か記念の日……かな?」
お前たちは、もうしゃべるな。サザレが、しゃべりそうなのだが雰囲気を悟り弁えている。
「仕方ない……」
ん? んんっ! 口に含むと、ほのかな酸味、柑橘系のすっぱさが食欲をそそる。おじやと言うかモチ麦が交ざった粥だな。美味い。
「ね~ね~。ちょっと、ちょうだい?」
「んあ? 食べるか?」
特製おじやをかっ込んでいるとキョウがねだってくる。
おじやをひと口すくってキョウの口に放りこむ。
「……ん! 美味しい~。これなら食欲も戻るね?」
「そ、そうだな……」
久々にキョウの笑顔を見た気がする。
回りは「バカップル」などと小声で揶揄してくる。お前たちは、キョウとの食べさせ合いっこ、させてやらんからな?
「ボクもいっぱい食べてゴニョゴニョ頑張らなきゃ」
ん? これはもしかして気持ちの折り合いがついたか? 今なら……いや、まだしばらく様子見だな。
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