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4.本家からの再出発
179.キョウの処置
しおりを挟む「アヤメ、病院まで脚や腕は? キョウは大丈夫だろうな?」
キョウを抱えてワゴン車に戻りながらアヤメに訊く。
「へ?……ああ~、あれ信じちゃったの? 全く問題ないよ」
「何!?」
「そ、そんなに睨まないでよ~。ああ言えば解放してくれるって思ったから」
「それを早く言え!」
「だって、敵を欺くには、まず味方から、って言うじゃん」
悪びれもせずアヤメが言い放つ。
「お前な~。それで、あいつらが言っていた鼓動や呼吸が浅いのも問題ないんだな?」
「さあ? 大丈夫じゃない? たぶん」
「……お前な~、しっかりしてくれよ」
カエデや護衛たちも固唾を呑んでいる。
「だって、こんな状態に陥るって初めてだから。生身で実験できないし。血行が悪いから、擦ってあげたらいいんじゃない? 血行が悪いのは間違いないんだから──」
「おい、擦ろう」
「分かってる」
護衛たちが声をかけ合い、キョウにマッサージを始める。非常に歩きにくいがしょうがない。そんな中、羽衣の手つきが心なしか嫌らしいような気がする。
「──そんなことより心臓や肺をまともに動かさないといけないから」
「「「はっ?!」」」
みんなが一斉に声を上げ、マッサージの手が止まる。
「……それで、壁内の病院じゃなきゃいけないのか?」
「まあ、そう。過剰投与された麻酔に抵抗、身体中で休眠・仮死状態を維持してるナノマッスィーンが疲弊してると思うから」
「何だ、そのナノマッスィーンってのは? 巻き舌で言っても恰好よくないからな」
「ええっ? うっそ~ん」
この非常時におどけるアヤメに憤る。心底、アヤメが妹で良かったと感じる。姉であったなら下剋上だ。
ナノマシーンとは〝ミクロの従僕〟で、人体の各所で単純な作業をこなしている生命体や擬似生命体の総称だ。
誰しも、少なからずお世話になっているが、キョウに投与されているものは、それとは些か趣を異にしていると感じる。
「それで、キョウにはどんな秘密がある。お前なら分かるんだろ?」
「それは、私も聞きたいです。キョウ様の奪還が叶わぬならば抹殺せよと御館様から密命を受けました」
「何!? オレは聞いてないぞ?」
とんでも発言をした笹を問いただす。
「話せそうもない命でしたので、その時には、わたくしが呑み込み実行する心算でした」
「笹……」
苦渋の決意をしていたんだと笹を思いやる。
「しんみりしてるところ悪いけど詳しくは私にも知らないし分からないんだよね~」
雰囲気をぶち壊しアヤメが告白する。それによれば、日々の手入れなり調整しか知らされておらず、キタムラGHの香具羅院長の指示に従っていただけと言う。
詳しく知っているのは院長なのかも知れない。あの入院の時も意味ありげだったな。厄介な……
「そうか……。かと言って御館様には尋ねられない。しかし……」
香具羅院長も詳細は話さないだろう。御館様なら、なおさら。当事者であるオレにも御館は話してくれない。いつか話してくれるのだろうか。
彼女たちにとって、キョウはただの駒の一つなのかも……いや、確実にそうだ。オレだってその一つなのだろう。
もしキョウと出会っていなければ、こんな思いをしなくてすんだのだろうか? だからと言ってキョウが誰かと婚約・結婚して、そいつの元で過ごしているなどと考えたくもない。
キョウと出会って心奪われたのは、もう変えようもない。
貨物ターミナルを通り抜け放置していたワゴンに乗り込む。ゴタゴタがあったので空港警備のお咎めはなかったようだ。
「よくマキナ姉が出会えたね~? キョウちゃんと」
「ああ……そうだな」
「どうやって出会ったの?」
「それは、私も知りたい」
カエデに続きアヤメまで聴いてくる。今さらかよ。どうしてこんな話になったのか。結婚前はキョウに無関心だったのに。移動中が暇だから仕方ないのか。
「それは……たまたま婚活サイトで、見かけて、だな」
「ウソだね」
「そうそう」
「結婚できるのに、七年も婚活してたの? マキナ姉ならいくらでも見つかったろうに」
「どう考えてもキョウちゃんの結婚可能年齢まで待ってた」
「そうとしか考えられない」
「き、気のせいだ。お前たちが納得する男を捜していたんだ」
何て鋭いやつら。うかつなことは言えないな。
「七年……あるいは、それ以上前から知り合ってる可能性がある」
「うっわ~、小学生を追い回してたの。実の姉でも引くわ~。ショタコン極まれり」
「ぐっ……どこにそんな証拠がある」
人の話を聞け、信じろ。
そう言いながら、出会った時は……いや、これは墓場まで持って行かねば。キョウもきっと覚えていまい。お見合いでも気づかなかった。
キョウの護衛を頼んだころの事情を知る歩鳥・斎木が車を操縦していて助かる。
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