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3.喜多村本家に居候
156.マキナが来ない……
しおりを挟む「ハノリ殿下、ありがとうございました。皆、一本締めで収めたいが、どうか?」
賛成だと、拍手がホールを満たす。
「よ~お!」
サキちゃんが音頭を取り両手を広げると、一同が合わせて、かしわ手を一度打つ。
バチッ! と、かしわ手とは思えない重複音がホールに響く。
「今宵は、めでたい。主賓が欠けておるが始めようぞ」
サキちゃんのその言葉と手合図で壁に控えていたメイドたちが給仕し始める。
「マキナ、早く来ないかな~」
生野菜のサラダとカップスープを頂きながら独りごちる。
一番イヤなのは上座で独りいて会場の晒しものになってるボクだと思うんだ。
壁際の護衛たちに視線を移す。彼女たちはご馳走を指をくわえて見てるしかないのか……。護衛も大変だな~。
そうだ! 壁際に手招きする。
「なんでしょうか?」
「護衛のみんなで食べようよ」
笹さんがやってきたので会食に誘ってみた。
「仰る意味が分かりません」
と、本当に分からないって困惑の表情を見せる。
「一人で食べてもつまんないんだよ」
「はあ~、我らはあとで頂きますよ」
大きくため息をついて笹さんは困って見える。
「いいじゃん、暇でしょ?」
また、大きくため息をつき処置なしって顔で笹さんが壁際へ戻る。そこで護衛たちを集めて話だか指図だかし始める。
イスを抱えて護衛・警護たちがボクの近くにやって来る。会場の音が歓談以上にざわめく。
「義兄上、何をしておいでです?」
「だって一人じゃ淋しいから、みんなと一緒に食べようと思って……」
慌ててレニ様がやって来る。って言っても高下駄だから、しずしずとやって来ては文句をつける。
「下僕と同席して食事など許されません」
「え~~、そんな~。下僕じゃないよ、仲間だよ──です。食事くらい一緒でもいいでしょ?」
「義兄上……」
なんかダメな子を嘲る目で見られた。
「レイニ様、キョウ様は久々に会えると思ったマキナ様がおられずお淋しいのです」
「うっ……それは……」
ボクの想いに至ったかレニ様がしおれる。
「ちょっと、キョウくんになんなの?」
「そうよ、下がりなさいよ」
会場の席からスーツによれよれの白衣をまとった女性とジーンズとTシャツにジャケットという場違いな二人が詰めよってくる。
「あっ! エロ改造魔人」
「違います! アヤメです、マキナ姉の妹の。夫の一人を忘れないでください」
「でも、病院で縛りつけてボクにエロいことしたじゃないですか?」
ボクのひと言で場が凍る。護衛たちがザッと移動しボクをかばうように二人と対峙する。
「アヤメ姉……」
「違う、違います。ただの検査です。ちゃんと検査したじゃないですか?」
居合わせる人々を見回し、エロいことなんて全然ってアヤメさんが弁解してボクに同意を求める。
「麻酔かけられたら覚えてられないよ。で、そっちの女性は?」
「は、はじめまして。三人目の──って、ちょっと自虐的ですけど、カエデです」
「カエデ……って誰?」
「はあ~、姉妹の三番目です」
マキナの次妹のカエデだとアヤメさんが教えてくれる。
「……あ~、そんな人もいた、ね」
「ひどい……」って言いカエデさんが崩れ落ちる。
だって、婚姻届に署名する時、アヤメさんのみならずカエデさんも名前を見ただけだったし。
「あんた、男なんか要らないって言ってたじゃん」
「そ、それは……父さんと違って一般人って聞いたから期待してなかったんだよ~。そしたら……そしたら~、こんな可愛い男なんだもん。それが結婚して好きにできると思ったら、もう我慢できないよ。先でいいよね、アヤメ姉さん。もう今夜でも……」
な、何言ってるの、この人。いや、でも拒否する理由はないんだけど。
「あ~、ダメダメ。私も待たされたんだから、こっちが先。今夜でもお願いしたいんだから~」
アヤメさん……あなたも大概ですね~?
「あ、あの~、我々はお邪魔なようですので……」
「ああ……ゴメンね? 込みいってるみたいだから」
護衛たち、そっちのけで身内話しちゃってたよ。折角、来てもらったけど笹さんたちには引き上げてもらう。
憤慨するレニ様にも退いてもらう。
まあ、相互理解のすき間を埋めるためにも、お見合いのやり直し気分で一緒に食事しましょうか。
「それで、マキナさんは? 一緒じゃないの?」
「分かんない。別々に来たからね~」
「ね~、キョウちゃんでいい? 誠臨の一年だよね? あたし、三年。この夏、卒業するんだ~。キタムラの関連会社でバイト中で、お金はあるからバカンスはどこでも連れて行ったげる。……ぐへへ」
カエデさん、自己紹介はいいけど欲望まる出しですよ。バカンスの予定までは聴いてません。
「好きに呼んでください。ボクはカエデさんって呼べばいいですか?」
「カエデでいいよ~、キョウちゃん」
だらしなくふやけた顔でカエデがいう。
「ちょっと、何してるのよ~」
「のよ~」
「そうよそうよ」
あ~、面倒なのが聞きつけてやって来た。分かってたけど……
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