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3.喜多村本家に居候
145.レニの捜査
しおりを挟む「ちょっと、子供たちを見てきますね?」
「……分かりました」
レニは、にがにがしくもキョウを見送る。何を訊いてもはぐらかすキョウに淋しさを覚えつつも助ける術はないものかと頭をひねる。
「殿下、義兄上に何かが起こっております」
「何とはなんだ?」
レニは率直にハノリに訊いてみる。ハノリは唐突な問いに首をかしげる。
「おそらく昨晩、暴行されております」
「穏やかではないな。ならば、なぜキョウは訴えてこぬ」
「それは……弱みを握られ助けを求められぬ苦境にあるからです」
「弱みと言うてものう……。キョウを脅すほどのものがあるかのう?」
レニの言い分にハノリは懐疑的で取り合わない。
「それは……そこまでは分かりませぬが。きっと我らには話せぬ弱みです」
「ふむ……しばらく、様子を見てはどうか?」
「そんな悠長な。ますます深みにはまるやも知れませぬ」
「わらわからは、それほどの苦難を背負ったようには見えなんだ。しばらく待ってみよ」
「……分かりました」
そう返事はしたものの、レニは納得いかない。
レニがキョウを追って部屋を出ようとしたところ、ちょうど護衛たちの部屋から出てきた場に出会した。
ドアの陰から窺うと彼は奥へと進んでいく。その先は館の主の部屋。そのドアの向こうに体が吸いこまれると、部屋を出て待機部屋に顔を出す。
「そなたら、昨夜のキョウ義兄上の様子に異変はなかったか?」
部屋を覗くと乱れた寝間着の姿で惚けるものばかり。黒衣に身を包むまともな二人に訊いてみる。
「特に変わった様子はありません」
「……そうか。先ほどはこちらに何をしに来たのか?」
「それは……」
「──我らの様子を見にこられただけです」
言い澱んだ者を補い、もう一人が答える。その様にレニは違和感を覚える。
「そうか……。そちらのものはダラけ過ぎではないか?」
ソファーの寝間着姿の警護たちに目を向け聴く。
「も、申し訳ありませぬ。きつく叱っておきます」
「そうするがよい。見苦しい……。して、義兄上はどちらに向かわれた?」
「さ、さあ、そこまでは存じ上げません」
「子供たちを見に行かれたのでは?」
「そうか……。邪魔をした」
「いえ……」
レニは、平静を保って待機部屋をあとにする。
「あやつらは何か隠している……」
(護衛が義兄上の行方を知らぬのも不自然じゃ……。言葉の端々に含むところを感じる……)
疑念を深め奥の──館の主の部屋へ足を向ける。部屋の前、ドアの向こうのかすかな話し声に耳を傾ける。
「扉越しでは分からぬ……」
右耳をドアに当てて中の話に集中する。
『……なんとかならない?……ゾンビは気持ち悪い』
『そう言うても、ゾンビ討伐は怖さと爽快感をかね備えておるのじゃ』
『それは、女の気持ちでしょ? もっと男が楽しいのにしてよ』
『シューティングはダメか? あと野球とかサッカーとか考えておったのじゃが?』
『野球はルールが難しすぎるよ。サッカーもパス回しとか難しそう』
『うぬぬ……。では、やはりシューティングじゃな。単純明快じゃ。モールからの脱出ゲームならばどうじゃ?』
『相手は女にして』
『女が襲うて来ては、子作りを忌避せぬか?』
『イヤになるだろうね、当然』
『では、ダメじゃ。何かないものかの~』
『旅行ゲームは? 列車や飛行機で旅して、観光して、食事して、お風呂に入って、旅館に泊まるの』
『それのどこにゲーム要素を盛り込むのじゃ?』
『さあ?……いっぱい観光スポットを回ったり旅館に泊まるとポイントが付く、とか?』
『ペナルティや減点要素は? 女に好意を持つか?』
『さあ? あっ……』
『なんじゃ?』
『困った時に助けてくれる』
『ほぉう……旅先でアバンチュールを愉しむのじゃな?』
『なんかそれもイヤ。困った時に助けてくれるだけでいい』
『そなた、女は下心で男に近づくものぞ』
『うわ~、聴きたくなかった』
『寝所を共にするごと、旅の手助けが厚くなる、とか』
『自分を切売りしてるみたいでイヤ』
『贅沢な……水心あれば魚心、と言うじゃろう?』
『下心の間違いじゃあ?』
『まあ、そうなるか、の~。しかし、旅か……。男の求めるものは、そのような自由かも知れぬ、な……』
『あと、子育てゲーム、とか?』
『なんじゃ、それは』
『お世話して赤ちゃんを育てていくの』
『ふむ……育成ゲームか……。赤子を作るのをゲームにしたいのじゃが……』
『痛くされなきゃいいんだけどね~』
『相手がはじめてでは寛容に受け入れねば、な?』
『え~? マキナはやさしかったよ?』
『ほぉう?……。それでマキナは、どうじゃった?』
『っ!……じゃ、じゃあ、ゾンビはやめてね』
『考えておく』
話が終わったとみるやレニは慌ててキョウの自室まで引き返し部屋に隠れる。
(いったい、なんの話じゃ? ゲーム? 義兄上は旅に出られるおつもりか?)
レニは密談の内容がよく分からなく首をかしげる。
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