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3.喜多村本家に居候
132.板ばさみ? 引っ張りだこ?
しおりを挟む「ちょっと~、キョウちゃんの部屋見たいな~」
「うん、見せて」
「う、それは……」
ボクの部屋はいろいろ見せられない状態なのよね~。
「さあ義兄上、戻りましょうぞ」
「キョウ、帰るのよ」
「うん、かえろ」
「かえる……」
レニ様、タンポポちゃんたちが急っついてくる。
「あの、その……それは、ここの責任者に訊いてみないと、なんとも」
「怪しい……」
「うん、怪しい」
まあ、疑われるよね~。
「何も怪しくないよ。あの……古い家だから仕来りとかいっぱいあって、ね?」
「ふぅ~ん。まあいい。夕食は一緒に食べられるよね? その時に聞かせて」
「そうそう」
「あ~……それも、どうかな~なんて……」
「ますます怪しい……」
「そうだね。いったい何を隠してるの?」
「うんうん」
二人が疑念を深めちゃった……。
「それは……」
「義兄上、もうよいではありませぬか? 戻りましょう。そなたら、義兄上を困らせるでない」
「うっ。ま、まあ、あとで聞くよ」
「キョウちゃん……遠い人になった……」
「じゃ、じゃあ、あとでね?」
あとでって言っても、良い言い訳が何も浮かばない。
物思いに耽りつつ、レニ様タンポポちゃんたちに引き摺られ本館に戻る。
◆
「ねえ……」
「分かってる」
水無が悪巧みしている。それをタマも分かっている。
「こっそり付いてかない?」
「必至」
タマ水無は、部屋に戻るふりして距離を空けキョウのあとを尾ける。
キョウたちは屋敷──迎賓館の端まで行くと両開きのドアを抜けて行く。
「──思い出したけど」
「なに?」
「羽徳殿下の第一正室」
「うん」
「山級怜瓊って言う」
「それが?」
「レイニってレニに似てない?」
「ああ、確かに。それで?」
「それだけ」
「ガクッ──そのレイニ様があのレニ様だと?」
「まだ確証がない」
「まあね」
「奥に籠ってるからレイニを見た人がいない」
「ふう~ん」
「うわさでは豊かに結った髪に艶やかな着物を着てる」
「ふんふん」
「背丈は一六五センチらしい」
「まあまあの身長だね」
「でもアレは、ちっちゃ──キョウちゃんより低い」
「あ~、キョウちゃんは──」
「自称一六〇センチ。でも、本当はギリ一五五」
「あ~、キョウちゃん思ったより低いかな~なんて思ってた。見栄っぱりだよね。それが?」
「そのキョウちゃんより低い」
「まあ、そうだったね」
「私は一六三センチ」
「自慢か! 私も一六〇はあるから」
などと取り留めのない話に脱線して使用人の屋敷を抜けて行く。
「こ、こんにちは」
「え、ええ、こんにちは?」
そこでは使用人との接触もままある。
「ここはなに? キッチンにランドリー。使用人の働くところ?」
「うん」
「こんなところに住んでないよね」
「おそらく」
「あ! こけた」
「むう」
「す、すばやいね、タマちゃん」
タマは幼女の転倒を見るやドアの開いた部屋に飛び込む。水無も慌ててタマに倣う。
「想定ずみ」
ドヤ顔のタマに水無がイラっとする。
「ここって居室だね」
「うん」
忍んだ部屋はベッドが並び質素な家具しかない。二人は、しばらく待機してやり過ごす。
「もういいかな?」
「尾行再開」
使用人の部屋から出るとまた、壁に沿って二人は歩み始める。
渡り廊下手前の扉越しに見ているとキョウたちは壁方向に向いている。
「あれ? あそこ、ドアか何か?」
「かもね」
「消えた」
「急ぐ」
キョウたちが壁に消える。二人は、両開きを開けて消えた場所へ渡り廊下を急ぐ。
「これなに? 壁の中に消えた?」
「エレベーター」
「ああ、エレベーターか」
「建物に合わせて装飾されてる」
「は~、なるほど」
「二階に停まってる」
「部屋は二階かな」
「断定不可能。また動きだした」
エレベーターの動きを観察していると二階から上へと動き出す。
「五階か~。二階とどっちよ」
エレベーター表示が最上階五階で止まる。
「五階。責任者に会いにいった」
「そうか。二階で待ってるとキョウちゃんと会えるかな?」
「たぶん会えない。レニ様がレイニなら部屋は最上階」
「ああ~、そこに戻ろうって言ってたから」
突如、タマが歩きだす。
「タマちゃん、どこ行くの」
「……おしっこ」
「なんだ……私も行く」
「早くして」
まったくマイペースな二人である。
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