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3.喜多村本家に居候
108.マキナの思いは?
しおりを挟む携帯を取り出し会社の代表番号経由でマキナにつないでもらう。
「もしもし?」
『どうした?』
「は~、お仕事中、申し訳ありません……。少し相談したいことが」
『手短に頼む』
だよね~。
「ご学友でしたミヤビ様がボクを気に入り妻の一人に迎えたいと──」
『なに! いや、すまん。続けて……』
「──はい。それで、ですね……」
『うん……』
かい摘まんで経緯をマキナに説明する。
おそらく、お子が居られないのは知ってるだろうから、それは省いた。
奥方の代わりにボクの子種を提供すること、喜多村家で初床を済ますご意向であること、それを済まさずにはお帰りにならない、と話した。
『……そうか……。ならば、お言葉のままに。喜多村のためだ。もう何代も喜多村から男を差し出した経緯はなかったはずだ。姻籍の者でもいなかったはず。快挙だ。誇るべき成果だ。喜多村のために──』
「マキナの言葉で言って?」
一瞬だったと思う。でもボクにははるかに長い沈黙に感じた。
『……キョウ、その身を捧げて、くれるか?』
「はい、喜んで」
『それじゃ、切るぞ?』と、それは奥歯を噛み締め絞り出すようだった。
「うん。週末、待ってます……」
『…………』
電話は、プツリと切れた。耳にはツーツーと話中音が響く。
「は~~。マキナは……仰せのままに、せよ、と……」
「そうであろう、そうであろう。さすが愛友マキナじゃ──」
浮かれるミヤビ様を見てたら、なんか腹立ってきた。なんとか意趣返しできないかな?
「──では、疾く屋敷に戻って肌を磨いて来よ。わらわは支度を指図してくるゆえ──」
「お待ちください。奥方様たちにお会いして、ご挨拶しとうございます」
「──な、なに? それは……またの機会でよかろう?」
「いいえ。ボク──わたくしが密通するような不調法者とそしりを受けるやも知れません。奥方様にご挨拶して初床を迎える不躾をご寛恕いただけますよう哀願しとうございます」
「うぬぅう~……」
ふぅ~む。困ってる困ってる……ざまあ。
「──分かった。疾く申し伝えるゆえ、待っておれ」
そう言うなり引き返して行く。ミヤビ様、独断専行だろう。根回ししてないね? きっと。
まあ、奥に閉じ籠ってる高貴な奥方はなかなか外には出てこない。キシシシシw。
「キョウ様……悪い表情してらっしゃいますよ?」
「ギクッ──そ、そうかな~?」
横によってきた笹さんが囁いてくる。
「それより、なんで? 付いてきたのは」
「我らは本来、陰ながら主君をお護りする影。いかなる時もお傍からは離れません」
「あ~新都にも居たね? そんな人」
「若い者たちですね? もう三十ともなれば任務を全うできませぬゆえ、身を退きこのようなことをしておるのです」
なんか……諦念が籠ってるね、定年だけに。
「ふふふ。大変なんだね?」
「それで……これからどう為さるのです?」
「どうもしないよ。マキナ──ああ、ボクの主人が許可しちゃったから、なるようになればそれを為す、しかないかな?」
心中お察ししますと、慰めてくれる。
「キョ~ウ」
「たいくつ」
「もう、屋敷に帰ろ?」
「そうだね。ん~お風呂が先か、食事が先か……サザレさんにでも訊こうか……」
ボクたちは、庭園の散策から屋敷へ歩を進めた。屋敷に戻るとタンポポちゃんたちを部屋へ送ると、サザレさんを捜す。
どこに居るかな~? 使用人館だろうけど。まあ居場所が分からなかったらサキちゃんに訊いてもいいけど?
「居たいた。サザレさん、訊きたいことがあるんだけど?」
「何でございましょう?」
使用人館で若いメイドさんのアイロン掛けを指導してる? 岩居サザレさんを見つけた。
「ボクとミヤビ様の初床は聴いてる? その支度に食事が先かお風呂が先か聴きたくて」
「そうでございますね~。お食事のあと、ご入浴された方がよろしいですね」
支度に就いては直命を承けていると言い答えてくれる。
「そう……。じゃあ、食事はタンポポちゃんたちと一緒に食べるから本館に用意して? それから初床にはどんな衣装をするのかな?」
「初床には白襦袢でございましょうか?──」
それから、初床の作法などサザレさんに教えてもらう。
お酒飲んで、お餅食べて、衝立向こうに人を置いて見守られながら行為におよぶ……ってどんな羞恥プレイだよ。
お風呂も介添えの男に身体じゅう点検され洗われ、服──襦袢一枚で寝所に入る……。
取りあえず、そこは省略してくれそうだけど。
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