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3.喜多村本家に居候

109.館入り、だって

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 メイド長・岩居いわいサザレさんに話をいたあと迎賓げいひん館に戻り荷物をまとめる。

 護衛たちにそれを運んでもらい使用人館を伝って本館に入る。

 母家おもやに部屋をもらうのは本来一大儀式ぎしきで、行列を作って玄関口から入るらしいんだけどパス──というか省略。

 元々、婚姻こんいん挨拶あいさつに来ただけなのに何の因果いんがで本家の部屋をもらうのか分からないんだから。

「なんで五階なの? もう、二階でも三階でもいいのに」

 館の西側の階段をえっちら、ボクたちは登っている。荷物は護衛たちが持ってるから、ほぼ手ぶらなんだけど非力ひりきなボクにはキツい。

「ミヤビ様の寝所しんじょは最上級にしないといけないでしょう? 今回だけです。次からはエレベーター使えばいいですから」
「ちょっと~~。エレベーター使っていいならそっち使おうよ?」
「なんでも輿こし入れ──輿こしを降りてからやかた入りは自分の足で入る決まりらしいです。門から大分だいぶあるので昔は大変だったらしいですよ?」
「ちょっと待って? 門て山裾やますその門?──」

 その昔、敷地しきちの境界である門の前で輿こしを降り館まで歩いていったらしい。

「──ムダな儀礼ぎれいだよね? すぐ廃止はいし
「そうしてください」


「またか~」

 ひざをぷるぷるさせてボクの部屋だと言うところに着いてみると、迎賓げいひん館の部屋より大きい。

 入った応接間のとなり居間リビング。そこから寝室につながる……。

「ま、まあ五階だけあってながめは良いかな?」

「やっと来た──来ちゃったわね~?」
「あ、ユキ様。いらっしゃいませ」
「こちらこそ、いらっしゃい、キョウちゃん」

 義曽祖父のユキ様が、お茶を用意するから休憩きゅうけいなさいとねぎらってくれる。

 護衛たちは荷物を降ろし、近習きんじゅう──いわゆる護衛や侍女じじょひかえる待機部屋に下がっている。

「とうとう、ここまで来ちゃったわね~」
「ここまで? とは……」

 お茶で一息ついたところでユキ様が口を開く。

「ここは当主や当主に順ずるものの住まうところよ」と教えてくれる。

「ショウちゃんもヒロちゃんも、受け入れているから大丈夫よ」
「は、はあ~?」

 どこらへんが大丈夫なのかが分からないんですけど?

「あら、分かってないようね? ショウちゃんヒロちゃんを追い越して次期当主格に昇り詰めたのよ?」
「え~~っ。そんなのはご遠慮えんりょしたいです」
「まあ、少し早くなっただけで、いずれく立場だから大丈夫よ?」

 まったく大丈夫に感じない。いったい何年先だったんだか……。


「ユキ、こんなところにったのか? 大変じゃぞ。山級やましな鬼君おにぎみが来る──来られるぞ!」

 お茶してたら、なんか、サキちゃんがドタドタ部屋に飛びこんでくる。

「まあ! ど、どうしてそんなことに?」

 ユキ様まであわててる?

「どうかされました?」
「どうもこうも……そなたは知らぬな──」

 姻戚いんせき煌家こうけの権力をうらから握る山級やましな家の〝鬼君〟と呼ばれるひとが喜多村を訪れる、らしい。

「へ~。そんなひとが来るなら光栄じゃん」
「〝へ~〟ではない。まったく、そなたは……。『初床』をごらんになる、らしいぞ?」
「ええ~~っ! そんな人に見せるものじゃないと思うけど?」
「その通りじゃ。まったく、どうしてこんなことに……」

 ──あれ? これって、もしかしてボクのせい?

「──あの~、その人ってミヤビ様の?」
「ミヤビ様の正室せいしつ、じゃな」

 身からでたさび、だった……。

「そ、その人って普通は奥に引きこもってたりしない、の?」

 ──奥様だし。

「そうじゃ。なにゆえ、初床を見るなどと申されるのか、心緒しんしょはかりかねる」
「まったく、そうね~?」

 や汗がにじんできた……。ストレス反射はんしゃってヤツ、だね?

「あの~、ボクのせい、かも?」と、おずおず、口にする。

「どう言うことじゃ? 話してみよ」とサキちゃんがほうけつついぶかしげに聴いてくる。

「ミヤビ様に、初床におよぶ不調法ぶちょうほうを奥方様に直接会ってびるって、言っ・ちゃっ・た~」
「✕✕✕✕✕✕✕~!」

 言葉にならない声を発してサキちゃんが天をあおぐ。

「ユキよ、わしは気分が悪い。熱も出てきた。病気じゃ。……出迎えやら何やら、あとはまかせる」
「まあ! 逃げるのですか、情けない」

 それでもをなごですか? とユキ様がなじる。

をなごの出るまくは少なかろう。キョウをたのむ」

 なんか、スミマセン。

 なんとかユキ様が取りなして、逃げ出すサキちゃんをなだめる。

「どこぞに作法さほう指南しなんするものはらぬかの~」
実家うち煌家こうけに出したものは居りませぬ。儀礼ぎれい典範てんぱんさといものも居ないでしょう、ね~?」

はじしのんで他家に聴く、か~?」って、ため息交じりでサキちゃんがぼやく。

「ま、まあ、サザレさんがいいって言った通りやってみる」
「おおっ! サザレがった。岩居いわい家のものならば」
「そ、そうですね?」

 なんか納得してるよ。ボクに分かるよう説明してよ? まあ、だいたい想像つくけど……。
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