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3.喜多村本家に居候
96.早めのお昼
しおりを挟むまたエスカレーターを登って登って──。
「皆、何が食べたい?」
「ハンバーグ」
「オムライス」
「……フレンチフライ」
「焼き肉でも、ウナギでも佳いぞ」
──五階に上がって名店街に到達する。
「聞いてた? 気更来さん。どこ行けばいい?」
「ムチャぶりしますね?」
「何か言った?」
「いえ、何も……」
「そなた、早うせい」
「は、はい」
ミヤビ様に気圧され気更来さんが携帯で捜してる。
「キョウ、早く~」と皆は食べる口になってしまってた。
「ここなんかどう?」
五階を練り歩きながら一般的なファミリーレストランに行き当たる。
それから〝キョウ〟呼びはやめて耳をそばだててる人がいるからね。
「気更来さん、もうここにするから……」
「…………」
検索の手を止め呆然とする気更来さん。申し訳ない。
みんなの要求を満たすのは、なかなか無いと分かってるから。
「は~い。皆、なに食べる?」
「ハンバーグって言ったじゃない」
「オムライス」
ウェイトレスさんに案内され、席に着きもう一度みんなに聴いてみるとタンポポたちがなじってくる。
まあまあ、そう言わないで。四季折々、新しいメニューを用意してるんだからメニューを見てよ。
「春のロールキャベツ……」
「……筍ごはん」
「春野菜てんこ盛りの串揚げ、ですって」
「春の蒼湖牛ステーキとな?」
メニューを眺めて皆が唸ってる。そうでしょうそうでしょう。
でも、なんか「春」ってつけてるだけじゃあ、ってのもあるけど。
「お願いします」
「畏まりました」
ウエイトレスさんを呼んで注文を告げる。ドリンクバーをもれなく付ける。
みんな注文がバラけて良かったよ。もしかしたらシェアできるかも。
ボクの注文? 春の茸ずくしハンバーグセットだだだっ! 「春」に茸っておかしくね?
突っ込まない、絶対突っ込まないぞ。
と、料理がくる前に……アカウント登録とか携帯を使えるようにしないと。
「そなた、飲み物が来ぬぞ?」
「あ~、その空きコップで汲んでくるんです」
携帯をいじる手を止め、皆のコップを持ってドリンクバーに行く。まあ皆も付いてくる。
「こうやって~」
ボクのコーヒーで注ぎ方を説明する。
「おお、わらわにもさせよ」
「わたしも、わたしも」
「……やる」
「代わって代わって」
まあ、そうでしょう、そうでしょう。
「もっと、コップはないのかや?」
自分のコーヒーを汲んだミヤビ様が不満をもらす。
「飲み終わったらまた汲めばいいから」
「なんじゃと~!」
うるさいよ、ミヤビ様。店内は静かに。お昼前なので、まだ人はまばらで良かった。
でも、護衛たちで人口密度は上がってるけどね。
「何度も飲まないと制覇できないわね~」
タンポポちゃんが、もっともなことを言う。まあ、そう思う人もいるよね。
ソフトドリンクは何種類もあって、飽きないようにしてるから。
「アリサちゃん、コップ貸して」
え~、と言うアリサちゃんの空のコップを使って二段注ぎを披露する。
例えば、グレープジュースの上にメロンのソーダ、とかね。こうすれば、いろんな飲み物を一度に楽しめる。
「何それ、早く教えなさいよ。早く飲んで二段──いや、三段注ぎをやるわよ?」
タンポポちゃんが発展させちゃったよ。分かってたけど。
「お~!」
「お~」
「わらわもやるぞ」
いや、ミヤビ様はやめてね?
「そなたらも、飲め飲め。わらわのおごりじゃ」
「「「…………」」」
声をかけられて護衛や警護、特殊部隊の人たちが微妙な表情してる。まあ、特殊部隊はマスクしてるので目元しか分からないけど、たぶんそう。
「よし、次じゃ」
「わたしも、わたしも」
「うん、行く」
「負けないわよ~」
君らね~。さすがに三杯目に行くのを止める。食前に飲みすぎるとご飯食べられなくなるからね。
幼女たちと張り合ってる姿を見ると、なんかミヤビ様まで子供っぽく見えてきた。マキナと同い年か、それくらいだったよね?
取りあえず、食事用のお茶や炭酸に変更させて席に着くと続々と料理が運ばれてきた。
「頂きます」
「「「頂きます!」」」
「い、頂き、ます? そなたら、簡便な挨拶じゃのう」
「そう? ミヤビ様は……どんな……あいさつ……なんです?」
また、皆がボクの口に食べ物を運んでくる。ボクはいいから自分たちで食べてね。
「ふむ。挨拶か?──我らを創りたまいし高祖に奉謝せん。日々の糧を奉ず臣民に──」
「分かった。ありがとう」
やっべ。ミヤビさま、その筋の人だったのかよ!
ダメだろ、こんなところで遊んでたら~。
粗相するなって、そ~いうことかよ~ぉ!
途端に食事が喉を……んぐっ、通らなくなったよ。胃がむかむかしてきた。
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