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3.喜多村本家に居候
92.嵐のような奥方たち
しおりを挟む「サキ様、護衛も車も用意されたのでしょう?」
「少々のことでは、びくともしませんよ」
「外の食事も食べてみたいわ」
「……キョウよ、そなたも何か言え」
「えっ?!」
ちょっと待って。どうしてボクに振るのさ。サキちゃんは、お義父様たちに圧倒されてボクに助勢を求める。
「──皆さん、外は危険ですよ。女ばっかりですよ。計画通りにすれば、問題なく遊べるんですから、もう少し慎重に」
「まったく、女なんてどうとでもなるわよ」
「──えっ?」
なんか、ちょっと話のベクトルが合わない。危ぶむなら女性のことだと思ってたのに。
「それよりも怖いのは家よ」
「そうそう、もう外出を嗅ぎ付けてるかも知れないわ」
「最高の対抗手段は、無計画。予想外の行動で引っかき回すの」
「──こんなこと、言われてますよ? サキちゃん」
諦念を込めてサキちゃんに返す。ボクには無理~。
「「「プッ」」」
皆さんに揃って吹かれた。何かおかしなこと、あった?
「そなた……。頼りにならんヤツじゃ」
いま会ったばかりの、親以上の方たちに何が言えるって言うのさ。
「ね~ね~、さっと行って、さっと帰ってくれば大丈夫よ?」
「「うんうん」」
「もう知らん。そなたらで段取りせよ」
あ~、サキちゃん、投げ出してしまった。それを聞いた義曽祖父・ユキ様がにんまり微笑む。
「言質取ったわ。ショウちゃん、レンカちゃんに連絡、予定の前倒しを通達。ヒロちゃん、護衛・車両の準備を急がせて。私は、厨房と使用人たちに食事の変更を通達するわ」
「はい」
「分かりました」
「そなたら……謀った、のか?」
「サキちゃん、ど~するのさ?」
「「「プッ」」」
あれ? なんかまた吹かれた。
──せっかく夜延べして準備したのに……朝令暮改だね。ま、夜に決まったことが朝、覆ったから〝暮令朝改〟か?
「そなたが言うか。ゆくゆくは、こやつらを扱えるようになるようにな? 決して染まってはならんぞ」
奥方たちを憮然と見てボクに振り返る。対して、お義父様たちは、携帯端末で連絡し始めている。
「染まりはしないと思いますが、とても対抗できるとは思えませんが」
「いずれ、当主の妻となり内助とならねばならんと言うのに情けない」
「知りませんよ。一般人が男家いだら大変な家だったんですから」
「まず、そなたを鍛えねばならんようじゃな」
ボクのどこを鍛えるって言うのさ。そもそも、鍛えられるの?
「大丈夫よ。私たちが鍛えるから」
義曽祖父ユキ様が言うと携帯片手の義祖父ショウ様、義父ヒロ様がうなずく。
それを受けてサキちゃんが、微妙な表情になった。ボク、ちょっと何されるか不安なんですけど。
「──あ~、あなたは気にしなくていいから……。だから、私たちが、勝手に行くだけだから……。そうそう──」
「──は? 早く準備なさい。そう……なんと情けない。そもそもね~、一朝一事あれば即応できなくて何が護衛か? その意味を──」
お義父様たちに対応されてる皆さんの苦渋の表情が見えるようだ。
統率者のユキ様は、部屋を出ていかれた。屋敷の使用人に話をつけに行ったのか?
敵に回したくない人たち相手にボク、何ができるって言うんだ。
「片付けてしまいそうじゃの~。わしの苦労は、いったい……」
「…………」
かける言葉がない。三人で根回しされたらね。
まあ、発想自体、思いつきみたいだったんだからひっくり返されても、どうってことないでしょうけど。
「あやつらにも、説明せんとならんな」
視線の先には、幼女たちと先生役のクロユリさんが、ちらちら、こちらを見てる。
情勢は傾き、お昼より早いお出かけが決まったのを知って、そわそわしてるっぽい。
そんな嵐の中、サキちゃんから着信音が聴こえる。
「うむ、わしじゃ……。うむ、分かっておる……。ふむ……ふむ……。なぜ、わしが取りなせばならん。そもそも、あやつらが段取ると言うたのじゃから──」
う~む、レンカさん方面の苦情かな? 合掌。
「──わしは知らん。そなたの思うようにせよ。……そうじゃ……うむ。……じゃから、話した通り対応すれば良かろう。……うむ、すまん、キャッチが入った、切るぞ──」
なんか各方面から陳情されてるような。
「──わしじゃ……追い返せ。……うむ……ミヤビ? そう申したのか? あ~、分かった、通すが良い。はあぁ~」
電話を切ったあと、サキちゃんが大きくため息をついた。
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