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3.喜多村本家に居候

81.ニュース・バラエティーでバラされる

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『次です』

 淡々と進行に徹する相楽。次のフリップを重ねる。

『下着、ですか──』
『次』と、容赦なく次のフリップを出す。
『ほぉ、肌着を揃えている、ようですな』
『次』

 新しい場面のフリップが出される。

『うす緑のワンピース、ですか』
『このあと、護衛に見つかり追い払われてしまったそうです。次──』

 撮影者の言を述べて、新しいフリップを重ねる。

『どんなものを買ったのか知りたいですな』
『そうですね~』


「う~~」と唸りキョウは、心中で地団駄を踏む。


『──別の方の撮影です。護衛に囲まれて買っているのを見て、ビビっと来たそうです』

 撮影者の言葉を用いた心証を示して相楽は解説する。

『また、衣服ですね~。空色のワンピースですか。春らしいワンピースがお好きなんですね~』
『その方の目撃では、柄はあっさり、ワンポイント花柄くらいのおとなしいワンピースを買っておられたと、証言をいただきました』

 写真のフリップを示して撮影者の印象を述べる相楽。

『そうですね。そのワンピースを着た姿が見たかったですな~』
『ハンガーラックや護衛、人の陰に隠れてたりしてましたからね~』
『ふっふっふっ……見たいですか?』

 含み笑いで意味深に相楽がパネラーを挑発する。

『なんです。気持ち悪い』
『あんた、まさか……』
『ちょっと~、人が悪いよ。あるなら見せてよ』
『そうそう。勿体ぶって』

 パネラーも期待して声を上げる。

『分かりました……ええっと──』

 相楽は裏返しのフリップを確認して頷く。

『引っ張るなよ』
はよ、見せろや』
『──これです!』と差し出したフリップは、うす緑のワンピースを着た少年、キョウの全身写真だった。

 だが天地が逆になっている。

『あんた! わざとやってるやろ~』
『ほんま、ほんま!』
『そんなボケは、いらん』

 逆さまになったフリップにパネラーは非難轟々ごうごう

『えっ? あっ、すいません。……こう、です!』

 わざとらしく表を確認して、うす笑いの相楽は直ちにフリップをひっくり返す。

『ほあぁ~!』
『かあいい~!』
『滅ぶべし、喜多村。こんな子をぉ~!』
『ねっ? 可愛いでしょ? まるで──』
『『『天使!』』』

 満を持した相楽の言葉は、パネラーたちにさえぎられる。

『──もう。それ、言おうおもたのに~』

 相楽がいきどおってフリップを倒す。

『こんな子、どこにおったんやろね~?』
『そやね~?』
『こんな子、居たら話題になってるやろな~』

 至極もっともな意見がパネラーたちで交わされる。

『知りたい? 知りたい?』

 また挑発するように相楽が訊く。

『あんたな~、知ってんねやったら、はよ教えなはれ』
『せやせや』
『皆さん、言葉、言葉。それでは、……発表、……します!』

 相楽はフリップを良くよく、繰り返し確認している。失敗しないよう念を入れているようだが口角がわずかに上がっている。

『引っ張るな~、ええ加減にせぇよ?』
『はい! こちら』

 充分引っ張ったと言えるを置き、勢いよくフリップを出す。

 そこには、画像の少年のものと思えるプロフィールが、所々隠されて書かれている。

『ほう、新都の人やったんやね~』
『えっ? 高校生! えらい若かったよね~?』
『はあ~、身長一五五センチ。こんまいな~』


「ボク、一六〇センチだ!──」とキョウが声を上げる。その突っ込みには幼女たちは反応しない。

「──それに『こんまい』って語感、侮蔑ぶべつひびきがするんだけど?」

 キョウが視線を向けると、サキは含み笑いで応えている。それが更にキョウをいらつかせる。


『君らな~、ローカル放送でも言葉に気ぃつけてな?』

 自分が司会だと思い出したような相楽が、パネラーをたしなめる。

『『『あんたもな!』』』

 パネラーから一斉に相楽が突っ込まれる。

『ゴホン……なぜ、新都の人が古都・蒼湖おうみに来たのか?』

 相楽から疑問が提起される。

さらった?』
拉致らち
誘拐ゆうかい……。いや、嫌がってる様子なかったやんな?』
『皆さん、意見がかたより過ぎですよ? ジャジャン!』

 また、パネラーを嗜めてフリップの目隠しをがす相楽。自分の声で効果音アタックを真似るほど力が入っている。

『婚約! ま、まあ、そんな年やけどな~』
『高校生で婚約は不思議やないけど……』
『そうでしょ? ジャジャン!』

 またしても、剥がす際のアタックを声で入れる相楽。

『婚姻?! 早いて』
『そんなら何か? 男家とついで来たゆうんかいな~?』
『まだ高校生やろ? 学校わいな? 退学したん?』
『そうでしょ~? そう思うでしょ~?』

 進行を忘れた相楽がパネラーをあおる。

『あんた、ええ加減にしぃや』
『せやせや』
『君らね~、ことば、ことば! ジャジャン!』

 声アタックを入れノリノリでフリップの目隠しをぐ相楽。

『新都で襲われた?! どーゆうこっちゃ?』
『新都は治安、ええのんちゃうん?』
『あ~、何か分かる……。写真見るだけでも、こう……ぐっと来るもん、あるからな~』
『はあ、罪つくりな子、ちゅうこっちゃな?』
『それがです、ね~……』

 またしても意味深にことばをつむぐエセ司会の相楽。

『まだ、何か隠してるんかいな? ほんまええ加減にせんと!』
『まあまあ。それで?』
『襲ってきたのは、外国籍在留者、ではないか? という意見があります』

 沈痛に相楽が解説する。

『は~、なるほど……。それでこちらに避難してきたと?』
『こわいな~、新都』
『いや、でもね。こっちに避難して来ても、名家が男子を囲ってるから、わいらに当たらへんやん』
『そうやね? 街中に男子、ったら襲われてる』
『こちらは、男日照りがひどいからな~』
『皆さん、男を見つけても節度ある対応を。少しずつ、衣をぐように距離を詰めましょう。この商店のように襲いかからないように』

 司会に戻った相楽が大仰に苦言を呈する。

『商店て。もろ、あのショッピングモールやん』
『喜[ピーー]らのショッピングモールやん』
『いや、だから監視映像が提供されたんですから、そこは……ね?』

 危ない発言を危惧きぐして相楽はパネラーをたしなめる。

『「ね?」じゃないよ。喜[ピーー]らのみならず、五家は男を解放しろ!』
『はい! では、視聴者の皆さん! プレゼントです。こちら!』

 パネラーの暴走を止めるように次の話題に振り、相楽はスタジオそでへ手招きする。
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