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2.5◇古都へ
57.寄港地・新浜松空港
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マキナとボクは駐車場に待機していたヘリコプターまで戻って乗り込む。
お腹がすっきり、気分もすっきり。でも、愛の交歓の余韻が残っていて、身体の芯が痺れている。
乗り込み早々、護衛ふたりが紙袋を渡してくる。中を確認するとカップコーヒーとベーコンサンドが入っていた。
「お二人がトイレに行かれた間に買って来ました」
「我々はもう食べましたから、お二人で食べてください」
護衛の二人がパーキングエリアを回って朝食がわりに買ってきたと言う。気が利くじゃん。
ありがたく、マキナと一緒に食べる。
初めての寄港地、新浜松へのフライトに搭乗するのは、マキナとボクの婦夫と護衛ふたり、歩鳥さんと斎木さん、四人。
背中に朝日を受けながら、今度こそ目的地へ向かって飛び立っていく。
ヘリはすぐに山から伸びる川を越え、朝焼けに燃えるような山を捉える。その山裾にあるパーキングエリアの隣に並んで空港が見えた。
管制の指示に従って駐機場にヘリコプターを着陸させる。降りた瞬間、ボクは後悔した。
「これじゃあ、我慢できたかな?」
もう少し、ほんの少し我慢すれば余計な時間を使わずに済んだ、と反省した。
ちょっと、特殊な腹痛だったし初めてだったのでテンパっていたと猛省する。
「おそらく、一時間くらいで終わりますよ」
パイロットさんの言葉に頷く。事前にそれくらい整備などに掛かると聞いていたしね。
たった一時間ですむとも言えるけど……。
一時間ほど新浜松空港で休憩する時間ができた。空港の建物の中に入ってコンコースにつながる通路をマキナと進む。
一般旅客のいるコンコースまで着くと、ちらほらいる人たちとすれ違うたび、ちらちらこちらを見られる。
あっ、ピンクのパジャマ姿だったわ、ボク。これはもう仕方ないよね。
ピンクを推進してる団体の関係者として行動しよう。そんなのがあるのか知らないけど。
コンコースのみやげ物や食べ物を売っている店が並んでいるところまで歩いて行く。
旅の醍醐味はお弁当だよね? あと、おやつと飲み物。ボクは気になるものを抱えたカゴへ適当に入れていく。
「このウナギ(もどき)弁当って定番だよね?」
「さあ、そうかな?」
「あ、これ美味しそう」
「そうだな……」
マキナが浮かない顔をして辺りを見回している。
何だと思って視線の先を見ると、そこらで店番をしている店員さんが顔を逸らす。
「何なに?」
「なんでもない。気にするな……。早く買い物を済まそう」
「う、うん」
パジャマでいたら、やっぱり珍しいか。それ以前に場所に似つかわしくない恰好だもんね。
じろじろ見られても仕方ないか。
「マキナ、これこれ! 何なに? 面白い」
「うっ……それは……」
仮面をかぶった裸の人がお腹の前にカゴを抱えている人形で、そのカゴにお菓子? が入っている。
「『夜のパイ』だって。面白~い」
「う、あ、さっさと買って行くぞ?」
「変わった形。歪な楕円形してる。何なに?『夜に食べる大人の味』ふむふむ……滋養強壮、精力増し……ん?」
成分に、マカ、カカオマス、ウナギの肝エキス、牡蠣エキス入り……はあ、なるほど。そっちの精力、ね。
誰かさんのため人形の抱えたカゴの中のパイを全て掴んでカゴに入れた、マキナに微笑んで。
レジに並んで、はっと気づいた。ボク、携帯端末機を壊してしまったので支払いできない。
まあ、マキナに払ってもらおうか? なんて考えていたらマキナの携帯が鳴った。
「もしもし……。はい……」
受話したマキナの顔が歪んでいく。苦い顔をしながら話をしている。
「はあ~」とため息ひとつ吐いたあと、買い物の支払いを済ませてくれた。
まあ、店員さんが「夜のパイ」を一つひとつポスに通すたびに、にやにやしていたのは、許してやろう。
「どうかしたの?」
「良いことと、悪いことが」
「……何?」
「ヘリを戻すので使えなくなった……」
「ダメじゃん。それで良い方は?……」
「防衛軍の航空機で飛んで行け、だと」
「どちらも悪いんじゃないの? それ」
「私は……ヘリで戻る……」
「えっ? そんなぁ~。ボク一人で行けって酷いじゃん」
「……すまない。追っ付け、飛んで行く。文字通り」
「ボクは一体どうしたら……」
全く、これからどうしたら良いんだ。
駐機場の待機室に行くと、護衛たちが座って待っていた。
「大変だよ? ヘリでマキナさんが帰っちゃうんだって」
「聞きました。でも安心してください!」
「我々が付いて行きますから」
「ああ……そうか。ボクの護衛だもんね」
マキナとヘリコプターのことは二人も聴いたみたいだ。ってことは、マキナの上から指令が回って来たってことか?
「君たち、キョウを頼む」
「「お任せください」」
マキナとボクは、ヘリと古都へ行く航空機の準備ができるまでお通夜のように湿った空間にいた。
「ボク、携帯壊して持ってないから、どうしたら良いかな」
「取りあえずは、私の携帯を使ってくれ。向こうに着いたら、すぐに端末機を誂えて返してくれ」
それって、すぐ向こうに追いかけて来ないとマキナは不便だよね。
あの時、ちゃんと言って壊れた端末を回収していれば……。今さら言っても仕方ないけど。
それに反して護衛の二人はなんとなく楽しそうで、なんか腹立つ。
◇
本作に出てくる団体・人物は、架空の存在であり、実際の団体・人物とはいっさい関係ありません。
お腹がすっきり、気分もすっきり。でも、愛の交歓の余韻が残っていて、身体の芯が痺れている。
乗り込み早々、護衛ふたりが紙袋を渡してくる。中を確認するとカップコーヒーとベーコンサンドが入っていた。
「お二人がトイレに行かれた間に買って来ました」
「我々はもう食べましたから、お二人で食べてください」
護衛の二人がパーキングエリアを回って朝食がわりに買ってきたと言う。気が利くじゃん。
ありがたく、マキナと一緒に食べる。
初めての寄港地、新浜松へのフライトに搭乗するのは、マキナとボクの婦夫と護衛ふたり、歩鳥さんと斎木さん、四人。
背中に朝日を受けながら、今度こそ目的地へ向かって飛び立っていく。
ヘリはすぐに山から伸びる川を越え、朝焼けに燃えるような山を捉える。その山裾にあるパーキングエリアの隣に並んで空港が見えた。
管制の指示に従って駐機場にヘリコプターを着陸させる。降りた瞬間、ボクは後悔した。
「これじゃあ、我慢できたかな?」
もう少し、ほんの少し我慢すれば余計な時間を使わずに済んだ、と反省した。
ちょっと、特殊な腹痛だったし初めてだったのでテンパっていたと猛省する。
「おそらく、一時間くらいで終わりますよ」
パイロットさんの言葉に頷く。事前にそれくらい整備などに掛かると聞いていたしね。
たった一時間ですむとも言えるけど……。
一時間ほど新浜松空港で休憩する時間ができた。空港の建物の中に入ってコンコースにつながる通路をマキナと進む。
一般旅客のいるコンコースまで着くと、ちらほらいる人たちとすれ違うたび、ちらちらこちらを見られる。
あっ、ピンクのパジャマ姿だったわ、ボク。これはもう仕方ないよね。
ピンクを推進してる団体の関係者として行動しよう。そんなのがあるのか知らないけど。
コンコースのみやげ物や食べ物を売っている店が並んでいるところまで歩いて行く。
旅の醍醐味はお弁当だよね? あと、おやつと飲み物。ボクは気になるものを抱えたカゴへ適当に入れていく。
「このウナギ(もどき)弁当って定番だよね?」
「さあ、そうかな?」
「あ、これ美味しそう」
「そうだな……」
マキナが浮かない顔をして辺りを見回している。
何だと思って視線の先を見ると、そこらで店番をしている店員さんが顔を逸らす。
「何なに?」
「なんでもない。気にするな……。早く買い物を済まそう」
「う、うん」
パジャマでいたら、やっぱり珍しいか。それ以前に場所に似つかわしくない恰好だもんね。
じろじろ見られても仕方ないか。
「マキナ、これこれ! 何なに? 面白い」
「うっ……それは……」
仮面をかぶった裸の人がお腹の前にカゴを抱えている人形で、そのカゴにお菓子? が入っている。
「『夜のパイ』だって。面白~い」
「う、あ、さっさと買って行くぞ?」
「変わった形。歪な楕円形してる。何なに?『夜に食べる大人の味』ふむふむ……滋養強壮、精力増し……ん?」
成分に、マカ、カカオマス、ウナギの肝エキス、牡蠣エキス入り……はあ、なるほど。そっちの精力、ね。
誰かさんのため人形の抱えたカゴの中のパイを全て掴んでカゴに入れた、マキナに微笑んで。
レジに並んで、はっと気づいた。ボク、携帯端末機を壊してしまったので支払いできない。
まあ、マキナに払ってもらおうか? なんて考えていたらマキナの携帯が鳴った。
「もしもし……。はい……」
受話したマキナの顔が歪んでいく。苦い顔をしながら話をしている。
「はあ~」とため息ひとつ吐いたあと、買い物の支払いを済ませてくれた。
まあ、店員さんが「夜のパイ」を一つひとつポスに通すたびに、にやにやしていたのは、許してやろう。
「どうかしたの?」
「良いことと、悪いことが」
「……何?」
「ヘリを戻すので使えなくなった……」
「ダメじゃん。それで良い方は?……」
「防衛軍の航空機で飛んで行け、だと」
「どちらも悪いんじゃないの? それ」
「私は……ヘリで戻る……」
「えっ? そんなぁ~。ボク一人で行けって酷いじゃん」
「……すまない。追っ付け、飛んで行く。文字通り」
「ボクは一体どうしたら……」
全く、これからどうしたら良いんだ。
駐機場の待機室に行くと、護衛たちが座って待っていた。
「大変だよ? ヘリでマキナさんが帰っちゃうんだって」
「聞きました。でも安心してください!」
「我々が付いて行きますから」
「ああ……そうか。ボクの護衛だもんね」
マキナとヘリコプターのことは二人も聴いたみたいだ。ってことは、マキナの上から指令が回って来たってことか?
「君たち、キョウを頼む」
「「お任せください」」
マキナとボクは、ヘリと古都へ行く航空機の準備ができるまでお通夜のように湿った空間にいた。
「ボク、携帯壊して持ってないから、どうしたら良いかな」
「取りあえずは、私の携帯を使ってくれ。向こうに着いたら、すぐに端末機を誂えて返してくれ」
それって、すぐ向こうに追いかけて来ないとマキナは不便だよね。
あの時、ちゃんと言って壊れた端末を回収していれば……。今さら言っても仕方ないけど。
それに反して護衛の二人はなんとなく楽しそうで、なんか腹立つ。
◇
本作に出てくる団体・人物は、架空の存在であり、実際の団体・人物とはいっさい関係ありません。
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