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2.新居からの新生活

55.さらば、性旬の新居よ

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 マキナが、ふところから携帯端末機を取り出す。画面を見たその顔がゆがむ。

 手を伸ばして操縦そうじゅう席の後ろに下がったヘッドセットを二つ取ると、一つをボクに渡してくる。

 まあ、付けろって事ね。マキナと仲良くヘッドセットを着ける。

『聴こえるか?』
『うん。聴こえる』
『実は、自宅に侵入者が、あった﹅﹅﹅
『えっ?』

 そこで、アンナたちがボクをねらっていて、家の外に出たのを良いことに病院ならばと、襲撃しゅうげきしてきた、らしいと告げられる。

 おまけに、自宅に侵入した。

 病院の襲撃が不首尾に終わるとみるや、腹いせなのか、単に家宅侵入に手間取った時間差なのか……。

 そこまでは、分からない。

『ボクにそんな価値があるの?』

 ボクは自問する。ごく平凡な家庭で、いや、もしかしたら、平凡よりは少し下かもしれない家だったよ?

『それは、そうかもしれないが……』

 そこら辺はマキナもよく分からないよう。

『──に角、本家に避難ひなんして判断をあおごう』

 分かったけど、その前に新居から荷物を取って来たいよね?

『──まあ、ダメだと思うが……。すまない、自宅に回ってもらえるか?』
『アイ・アイ・マム!』と、パイロットさんが振り返りサムズ・アップでこたえてくれる。

 マキナは携帯をもう一度、確認しながらため息をつく。


 自宅の上空へ到達すると、門柱もんちゅうに設置された侵入をしらせる警告けいこくとう明滅めいめつしているのが夜闇よやみによく見える。

 玄関や勝手口からは、黒服が逃げていくのが見えた。サーチライトで照らしてもどんなヤツかまでは識別しきべつできない。

 家を回って飛ぶと徐々じょじょに被害が見えてくる。

『あれ、あの袋を持ってるヤツ、録画して』

 袋を持ってるって事は盗んで来た物だろう。

っても取り戻せないぞ。それに失ってつらいものなどないだろ?』

 まあ、返っては来ないだろうけど。録画が何かしら証拠しょうこにならないだろうか?

 その荷物には、マキナに買ってもらったものがあるかもしれない。

 それはもう、思い出だからえが無いんだ。マキナには言わないけど、ね。

 しばらく、追ったが近くに停めてある黒塗りの車に乗り込むと急加速で走り去る。

 車のナンバーは……外交ナンバー……じゃないな……。

『──車など、いくらでも調達できる。証拠にはならんな』

 確かに。朝になったらスクラップになってる可能性が、いや、必ずスクラップにするだろう。

『降りるところは、ない、よな』

 自宅に戻って着陸が可能か探るが……。近隣きんりんの方たち、うるさくしてゴメンね。

 ちらほら、玄関先まで出て見る人や、窓からうかがってきてはいるが、それ以上はして来ない。

 侵入警報が発した時点で通報はされてるだろうが、ヘリまで飛んで来てさわがれては寝ていられない。

『うちの屋上に降りられても、地面には降りられないな』

 一応、新居も平たい屋上があるけど病院ほどの大きさは無い。

 そこに降りても二階や地面に降りるのに避難ひなんはしごしかないから利便性が悪い。

 さすがに大きい庭は面積的には充分だが、植木や花壇かだん邪魔じゃまをする。


 近くの小学校まで移動して、その校庭に無断で降りて家に急ぐ。

 こじ開けられた玄関、荒らされた室内。

 急いで二階の部屋へ行くが、コントロールパネルが壊されて照明がともらない有り様。

「ここまで、やるなんて……」

 マキナの端末機で照らされた室内は、無残に破壊された天涯てんがいベッド、マットレスが刃物で切りきざまれていて痛ましい。

「やられた……」

 クローゼットが曝露ばくろされ、衣類が持ち去られている。

「くっそ~!」
あきらめろ。また、買ってやるから……」
「……ものじゃ無いんだ、よ?」

 見るまでもなく一切いっさい合切がっさい、無くなってる印象だ。

 本当にアンナなら、ゆるすまじ(怒)

 あきらめて撤収てっしゅうするしかないね。

「──しばらく、住めないね?」
「…………」

 マキナは、うなだれ無言でこたえる。この結果が予想できていたのかもしれない。

「ちょっと、お花摘はなつみ……」と、断ってボクは一階に下りてトイレに入る。

 実は、起きてから違和いわ感があった。いい機会だと便座にすわって確認する。

れてるかな?」

 自分では見えない、な。手鏡てかがみもないし……。

「ちょっと、マキナさん!」

 トイレのドアを少し開けマキナを呼ぶ。彼女に確かめてもらおう。

 メイが入りたそうにして後ろにいるが、入れてやらないよ?

 マキナにも見せたこと無いと思うところを見てもらうんだから。

 マキナとはいえ、またを開いて見せるのは、かなりずかしい。

「うむ、腫れてるな。まあ、病気ではない、と思うが……」
「昨夜、というか今晩こんばん、ヤらなかったよね?」

 ボクは懸念けねんを伝える。

 連日、しぼられてるので、それをおぎなうため増産態勢たいせいになっているのに今晩は無かったからでは、と。

 夜は、できなかった上、女性にはさまれフェロモンをいっぱい吸って頭もピンクになってたからね。

「──ちょっと、アヤメに聴いてみる」

 長妹ちょうまいのアヤメさんにマキナは電話する。

 聴き終わって終話すると「はぁ~」っと、ため息をついてマキナは言った。

まったなら抜け」だと、身もフタもない事を言われたらしい。

 でも、ここじゃあね?

我慢がまんできるか?」とヘリで向かう空港・新浜松まで行けば、給油と整備で時間が取れるらしい。

「分かった。我慢してみる」

 それから、病院の事、搾精さくせいの検査結果の事を聴いて知らせてくれた。病院はともかく、搾精の事はなんでと思ったら、検査は喜多村GHジェネラル・ホスピタルでやってるんだって。

 月曜日の搾精は、精子の質・量とも問題なし。

 まあ、病院の片付けで報告が遅れるのを予測して知らせてくれたようだ。

 どうしても片付けしていると、忙殺ぼうさつされるからね。まあ、片付けてたら検査報告の書類を見つけただけらしいけど。

 名残なごりおしくも、新居から撤収する。護衛の二人、メイとマキナと、ボクたちはまとまって学校の校庭に戻っていく。


「メイ、いや──ジュリア、今日ちゃんと学校行ってね? 約束よ」
「分かった。『俺は帰ってくる! 必ず』だな」

 そうだ、とボクは答えて、そのセリフはジュリアが言ったんだけど、と心中でっ込む。

 指切りしてメイを校庭そこに残し、ヘリは飛び立つ。護衛の二人は付いて来て良いのか聴くと、マキナがやとっているので何処どこまでも付いてくるらしい。

 ボクは定位置のマキナのひざの上。護衛は歩鳥ほとりさんが先に座って、あとで斎木さんと交代だって。

 お疲れ様です。

 向かうは西のかなた、古都。ヘリコプターは砂ぼこりを巻き上げて飛び立っていく。

 ボクたちの逃走とうそう──いや、闘争とうそうはまだまだ続く……。


 そうそう、学校関係に休む連絡をマキナに頼《たの》む。

「ああ、やっておく」と、マキナがけ負ってくれる。マキナも会社を休むのを伝えないとね。

 しかし……ワクワクが止まらない……。

 ヘリに乗るのも初めてだけど、旅──それも空の旅ってすごくない?

 将来、できたら船の旅や、列車の旅も良いよね?




   [完]



作者『本話で十万字、突破しました。ありがたや~!(*^∇^)ノ♪

 長らく、ご愛読いただき、ありがとうございました!
 ペロりねったの次回作に、ご期待ください!』





キョウ『うおおぉいっ! 勝手に終わらすなよ、作者! まだまだ、続きますよ?』
 
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