上 下
32 / 203
2.新居からの新生活

32.働く途

しおりを挟む
 沈黙ちんもくのあと、マキナが口を開く。

「……分かった。庶務しょむに話は通しておく」

 ただし、週三日にとどめること、と制限が付いた。少々、不満だが働くみちができた。

「──で? 働きたい本音は」

 思わずニヤついてしまったら、マキナから追及ついきゅうされた。

「駅まで遠いので自転車が欲しくて」と、通学なんかに使いたい、とぽろっとこぼしてしまった。

「そりゃ、ダメだ。まだタクシー、使ってくれる方が安心だよ」

「ええっ? そんなあ~」

「自転車は買ってやる。通学に使わないなら」

 まあ、働く途はとざされないようだから我慢がまんだ。運転免許を取りたいとか知られると、もっと厄介やっかいそうだし。

「……まだ、何か隠してるな?」

 空いたグラスを差し出しながら、いぶかしげに訊いてくる。

 お金儲けはできそうだとほくそ笑んでいたのを見られたみたい。

「べ、別に……」と、ビールをグラスに注ぐ。

 返答が甘かったのか、口をとがらせて睨まれた。

 どうやって誤魔化ごまかすか答えあぐねているところに、「適温ていおんです」とお風呂の通知がされた。

「お風呂が温まりましたよ。私の残り湯ですけど。早く食べて入ってください」

「……分かった。一緒に入るんだろうな?」

「え~、さっき入ったばかりですよ」

「ダメなのか?」

「ぐっ……」

 ボクは降参こうさんして、二度目の入浴を決めた。ご機嫌きげん取りは必要。

 食事が終わりマキナが部屋に戻っている内に、洗い物に取り掛かる。

「入るぞ~」の声かけに、はいと答えて洗い物を終える。

 脱衣場に入ると裸のマキナが待っていてビックリした。

 スウェットを脱ぎ始めると、脱がしてやると言って脱がされた。お酒が入ったからか遠慮がない。

「なんだ、これ」と言って、自分で選んだおとなしめの下着をまむ。

 夜は買ってやったヤツ、と指定された。左様ですか。

 身体をシワシワにさせて二度目のお風呂を上がり、脱いだものを着ようとしたらダメ出しされた。

 泣く泣くスウェットとかを抱えて部屋に行くあとを全裸のマキナも付いてくる。

 部屋に行く間だけでも着てくださいよ。振り返り、振り返りして行くと、追い立てるように手を払う。

 ボクは犬やウシじゃないぞ。

 これからは、酒を飲ませてやらん!


 自室に入り急いでクローゼットから、マキナ好みを準備して着付けていく。

 マキナはベッドに座ってそれを観ている。

 あれ? これってまた脱がされる、よね? 意味なくね?

 と思う間もなく、身に着けるや腕を引かれてベッドに倒される。

「ちょっと待って。明日の準備してない」

「明日のことは、明日すれば良い……」

 なるほど……確かに……って納得はするけど、ぎ取る手は止まらない。



 昨夜は、烈《はげ》しかった。

 ここ最近で一番の夜を過ごした。

 まあ、三夜しかない内の一番なんだけど……。

 マキナのにおいも味もきつくくて、もしかしたらアレか? と思った。

 ソレにられてマキナの求めにあらがいにくくこたえてしまった。

 おじいさん先生、生垣きがき先生の言っていた、それが「分かる」ってことなんだろうか?

 これが生きてるってことなんだろうか?

 おおかぶさる温かな重さを感じて目が覚めた。

 マキナの下からけ出すと普通﹅﹅を着けて小用に。下着姿でうろついても抵抗が無くなったな。

 何も着けないでいるのも、それはそれでいい気がしてきた。マキナと二人きり限定で。

 階下に下りてダイニングのタブレットとか勉強道具、ランドリーの服を回収すると部屋に戻る。

「ええっと、今日は……」

 今日の時間割を確認してテキストを用意する。放課後は、どうしよう。

 ケイト先輩の練習をながめているか? それもひまだよね。

 かと言って、お手伝いすると陸上部が警告けいこくされる。マキナの会社に行って、掃除の時間まで待つ……のも暇だし邪魔じゃまになる。

「どうしよっかな~」

 タブレットをいじって復習の続きをしながら考える。家に居ても赤井さんが来るまで退屈たいくつだろうし……。

 そこで実家に帰って荷物をまとめて来よう、とひらめいた!

 早速、母に電話、と思ったけど朝早い時間だ。いそがしくて応答できないだろう。

 短文通信でませておこう。

[夕方、荷物を取りに行きたいけど良い?]

 と送って復習に集中した。

 一通り復習したころにドアの開閉音がした。赤井さんが来たようだ。

 タブレットなどを片付けてダイニングに下りると、朝食の下ごしらえを始めている赤井さんがいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

声劇・シチュボ台本たち

ぐーすか
大衆娯楽
フリー台本たちです。 声劇、ボイスドラマ、シチュエーションボイス、朗読などにご使用ください。 使用許可不要です。(配信、商用、収益化などの際は 作者表記:ぐーすか を添えてください。できれば一報いただけると助かります) 自作発言・過度な改変は許可していません。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

処理中です...