28 / 203
2.新居からの新生活
28.電車で初遭遇
しおりを挟む通用口から外に出ると、日はとっぷりと落ちて辺りは暗く、通用口上の外灯の周りしか明かりがない。
「そう言えば、赤井さんに連絡もしないで……」
慌てて携帯端末で、電話をかけようとして、番号を知らないと改めて気づいた。
家にも固定電話がないようだったし、有ってもそちらの番号も分からない。
「まあ、マキナに頼もう」
初めてマキナに電話をかける。呼び出し音が鳴り続けて、なかなか出ない。
受話待ちの時間に、ケイト先輩が通用口から出てきた。
マキナはまだ手が離せないんだろうな~と思っていると接続した。
『キョウ、なんだ?』
「お仕事中、すみません。赤井さんに今から帰ると伝えてもらえますか?」
『それなら、帰りが遅くなるともう伝えてる。今から帰る旨も連絡しておく。切るぞ』
「はい、ありがとうございます」
先回りして連絡してくれていたみたい。終始、仕事モードで口調が硬い。
「あの……赤井って?」
「ああ、うちのお手伝いさんが先輩と同じ名前で赤井っ言うんです」
「……はぁ? ええっと、白髪がチラチラ見える茶髪で四十代くらいの……」
「そうですね。赤井先輩と良く似た方です。親戚とかですか?」
「はあぁ~、うちのオカンだな、ほぼ」
「やっぱり……」
「あああっ。仕事に入ってるのは喜多村って言ってたけど……まさか」
大きなため息を吐いて、先輩は後ろのビルを見上げた。
「えっと、何か聴いてたり、とか?」
「喜多村のお嬢さんが、『若くて可愛いwお婿さんと突然同居し始めた』って言ってたのが……、お前だったとは」
「せ、世間は狭いですね、案外?」
「全くだ。可愛いお婿さんwが、お前とは、斜め上すぎる」
なんで、可愛いとお婿さんに失笑するのか分からん。また、ちっこいとか思われてるんだろうか?
「喧しいわ!」
思わず、また自虐に突っ込んでしまった。
「す、すまん。さあ、帰ろう」
「は、はい」
自分への突っ込みなのに謝られてしまった。ケイト先輩と一緒に駅へ。改札を抜けて帰りの電車に乗る。
帰宅の時間と重なったようで、往きとは違い車内はかなりの人が乗り込んでいた。
乗降口近くのポールに掴まり、車窓の街の明かりを眺める。
先輩はボクの後ろを庇うように立っている。
一つ、二つと駅を過ぎると、お尻に違和感が……。車内が揺れるたび、何かが当たってるのかと思ったが、どうやら違ってるっぽい。
後ろのケイト先輩を見るとにっこりするだけだ。まあ、先輩じゃないな。
となると、……斜めのおばさんサラリーマンか? ちょっと睨んで見た。
特に狼狽えもしないか。やっぱり勘違い?
視線を向き直して車窓を見ていると、明らかに掌側で触れてる感じになった。
また、振り返ってケイト先輩を見る。彼女はニッコリ。おばさんサラリーマンを見てみると、ややっ! こいつだな。
心なしかニヤついてる感じだ。思いっきり睨んでやった。
「お前、何にらめっこしてんの」
「むぅッ! にらめっこじゃないです」
お尻を触ってるヤツがいるんです~、っと先輩に囁いた。
たぶん、ヤツにも聞こえただろう。抑止力になるハズだ。
先輩は、やおら目付きが険しくなった。
そうして、また車窓に目を向けると、お尻を触っていた手が割れ目をなぞるように撫で上げるとジャージの中に忍び込んできた。
さすがに、その卑劣な行為に昂ってきた。侵入した手が尻たぶを掴んだ時に、その手首を握った。
捕まえたぞ。放すもんか!
次の停車駅に着いてドアが開くと同時に外へ躍り出た。まだ、手は掴んだままだ。
「誰か、嫐女です!」
「覚悟しろ、この痴女!」
「「えっ?!」」
後ろを確認すると、ジャージに突っ込んだ手を引き離そうとしている人を先輩も捕まえていて、もうひとり知らない人も手首を掴まえられていた。
どうなってるの?
「いやぁ~助かります。春になると出没するんですよ~。はっはっは~」
ボクは、大きくため息を吐いた。軽いノリの駅員さんに引き渡して事情を聴かれた。
なんでも不埒な行為をする者とそれで恥じいる男子を見て悦に入る者の二人組なんだとか。
「まあ、なかなか男の子は電車に乗りませんがね~。目敏く男子を見付ける目は持ってるんですね~」
持ってはいけない人がそんな能力を持っていて、困ったモンです、と他人事だ。
「では、お願いします」
「お願いします。はあぁ~」
また、大きくため息を吐く。余計な時間を取られて帰宅が遅れる。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
お兄ちゃんは今日からいもうと!
沼米 さくら
ライト文芸
大倉京介、十八歳、高卒。女子小学生始めました。
親の再婚で新しくできた妹。けれど、彼女のせいで僕は、体はそのまま、他者から「女子小学生」と認識されるようになってしまった。
トイレに行けないからおもらししちゃったり、おむつをさせられたり、友達を作ったり。
身の回りで少しずつ不可思議な出来事が巻き起こっていくなか、僕は少女に染まっていく。
果たして男に戻る日はやってくるのだろうか。
強制女児女装万歳。
毎週木曜と日曜更新です。
歩みだした男の娘
かきこき太郎
ライト文芸
男子大学生の君島海人は日々悩んでいた。変わりたい一心で上京してきたにもかかわらず、変わらない生活を送り続けていた。そんなある日、とある動画サイトで見た動画で彼の心に触れるものが生まれる。
それは、女装だった。男である自分が女性のふりをすることに変化ができるとかすかに希望を感じていた。
女装を続けある日、外出女装に出てみた深夜、一人の女子高生と出会う。彼女との出会いは運命なのか、まだわからないが彼女は女装をする人が大好物なのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる