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1.お見合いからの新生活
03.会社探検
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そこへモデルのような女性がやって来て、携えてきたタブレットをマキナさんに渡している。
「喜多村課長代理、お持ちしました。こちらの方ですか?」
慌てて立ち上がったボクの姿を上から下へと女性が流し見てくる。
「そうだ。婚約が決まってね。自宅に送り届けるまで待ってもらってる──」
「は? 婚約、ですか?」
男の子? と女性が驚いてボクを二度見してくる。
「そうだ。ああ、キョウ君、ちょっと」
「はい?」
彼女たちのやり取りを傍観していたらボクが呼ばれた。
「婚約者の蒼屋キョウ君だ。また来社するかも知れないので覚えて置いてくれ」
「は、はい。受付をしています、総務課の岬です」
そう言って、入館章のIDストラップを渡してくる。
「はい、蒼屋です。よろしくお願いします」
喜多村になるかも知れませんが……、と付け加える。
「なるかも、は無いだろう」と言うマキナさんは耳を少し赤くしている。
それを聞いて岬さんは、一瞬しぶい顔をした表情をすぐさま微笑みに戻した。
「そうですね……。申し訳ありません」
とすぐに喜多村になりますと訂正する。
「可愛い男の子ですね、課長代理。それでは失礼します」
マキナさんが何やら操作し終えたタブレットを、岬さんは受け取り一礼して返っていった。
入館者名簿にボクの名前なんかを載せてくれたのだろう。
備え付けのバリスタ機でコーヒーを汲んでくれたマキナさんとソファーに座って、新居のことや、着のみ着のままで来たので生活に必要な服や文具について話した。
「──そうだね。あまりに性急だった。時間ができれば家に寄ってもいいけど、今のところ、そこまでは分からない」
母に話して用意してもらえるか電話しておいてと言ってマキナさんは仕事に戻って行った。
母に電話してできる限り学校の制服や勉強の道具をまとめてもらうように頼んでおく。
あとは、マキナさんの仕事の片付き次第だけど、まだ少しかかりそうだよなあ~。暇だ~。
かと言って、携帯を弄って遊んでもいられない。
分かっていたけど、どこにいても自分が浮いている。ちらちらと、視線を感じる。
フロアにある席の半分ほども人はいないけれど、そこここでパソコンに向かったり書類を確認している人たちがいる。皆、女性だろう。
ボクは、社員でもなく来社した取引先の人間でもないのは明白だ。
シックなスーツばかりを着た人たちの中で、薄緑色に花柄が入った春らしいワンピースが浮いている。
しかも、ボクとしてはオシャレした方のワンピースを着ている。
それも先週、急遽買ったばかりの衣装だ。
百歩譲って、その服だった。言われるままだと、和服を着せられそうだったので母に妥協してもらった。
個人的意見だと学校の制服が正解だったのかも知れない。すぐ相手の家に移ることになったんだから。
通う誠臨学園は、ズボンでもスカートでも、好きに選べる制服だ。
ボクはスカートを選んで通っているので、その姿ならビジネススーツの群れの中には、かなり解け込むだろう。
まあ、そんな異物が事務所の休憩スペースに居座ってるんだから、皆さんは珍獣を見る思いだろう。
少し居たたまれなくなってマキナさんのところへ行き、社内を彷徨いても良いか訊いてみた。
「臨時IDで大体のところは見れるよ」とマキナさんが教えてくれる。
こちらの方はもう少し時間がかかると謝られる。お気になさらずと返す。さあ、社内探検に出発だ!
今いるフロアは面白くなさそうなので、取りあえずは一階のダイニングとは違う表側、玄関口どうなってるのかな、っと?
マキナさんに連れられたエレベーターに行って、IDをかざすが反応しない。
自分のIDが来訪者だからかな?
仕切りでできた道を引き返して行っていない方に足を向けた。
マキナさんが仕事をしている入口を素通りして、その先へと、また空けられた入口になった隙間の前に着く。
事務所の方を見ると、机に向かっている女性がちらほらいる。皆さん大柄なので女性だろう。
こちらに気付いて視線を送ってきた人がいて、慌てて会釈すると道を先へ進む。
向かって歩いてくる人には会釈しつつ、次々、現れる入口を素通りして、廊下(仮)が途切れたところにエレベーターホールになったところに行き着いた。
建物の中ほどにあるので、その先の事務所の向こう側にもエレベーターなりがあるのだろう。
そこのエレベーターはチェックがないみたいなので一般訪問者が使えそう。
使えるエレベーターが確認できたから、廊下(仮)の先は同じかな? と思って進んでみた。
結果、同じような仕切りの連なりと奥にエレベーターがあり、エレベーター前のソファーはないものの、外部階段に出る扉に気がついた。
端まで分かったので中央のエレベーターに戻って「下りる」を押す。程なくして開いたエレベーターに乗り込んで一階へ。
「喜多村課長代理、お持ちしました。こちらの方ですか?」
慌てて立ち上がったボクの姿を上から下へと女性が流し見てくる。
「そうだ。婚約が決まってね。自宅に送り届けるまで待ってもらってる──」
「は? 婚約、ですか?」
男の子? と女性が驚いてボクを二度見してくる。
「そうだ。ああ、キョウ君、ちょっと」
「はい?」
彼女たちのやり取りを傍観していたらボクが呼ばれた。
「婚約者の蒼屋キョウ君だ。また来社するかも知れないので覚えて置いてくれ」
「は、はい。受付をしています、総務課の岬です」
そう言って、入館章のIDストラップを渡してくる。
「はい、蒼屋です。よろしくお願いします」
喜多村になるかも知れませんが……、と付け加える。
「なるかも、は無いだろう」と言うマキナさんは耳を少し赤くしている。
それを聞いて岬さんは、一瞬しぶい顔をした表情をすぐさま微笑みに戻した。
「そうですね……。申し訳ありません」
とすぐに喜多村になりますと訂正する。
「可愛い男の子ですね、課長代理。それでは失礼します」
マキナさんが何やら操作し終えたタブレットを、岬さんは受け取り一礼して返っていった。
入館者名簿にボクの名前なんかを載せてくれたのだろう。
備え付けのバリスタ機でコーヒーを汲んでくれたマキナさんとソファーに座って、新居のことや、着のみ着のままで来たので生活に必要な服や文具について話した。
「──そうだね。あまりに性急だった。時間ができれば家に寄ってもいいけど、今のところ、そこまでは分からない」
母に話して用意してもらえるか電話しておいてと言ってマキナさんは仕事に戻って行った。
母に電話してできる限り学校の制服や勉強の道具をまとめてもらうように頼んでおく。
あとは、マキナさんの仕事の片付き次第だけど、まだ少しかかりそうだよなあ~。暇だ~。
かと言って、携帯を弄って遊んでもいられない。
分かっていたけど、どこにいても自分が浮いている。ちらちらと、視線を感じる。
フロアにある席の半分ほども人はいないけれど、そこここでパソコンに向かったり書類を確認している人たちがいる。皆、女性だろう。
ボクは、社員でもなく来社した取引先の人間でもないのは明白だ。
シックなスーツばかりを着た人たちの中で、薄緑色に花柄が入った春らしいワンピースが浮いている。
しかも、ボクとしてはオシャレした方のワンピースを着ている。
それも先週、急遽買ったばかりの衣装だ。
百歩譲って、その服だった。言われるままだと、和服を着せられそうだったので母に妥協してもらった。
個人的意見だと学校の制服が正解だったのかも知れない。すぐ相手の家に移ることになったんだから。
通う誠臨学園は、ズボンでもスカートでも、好きに選べる制服だ。
ボクはスカートを選んで通っているので、その姿ならビジネススーツの群れの中には、かなり解け込むだろう。
まあ、そんな異物が事務所の休憩スペースに居座ってるんだから、皆さんは珍獣を見る思いだろう。
少し居たたまれなくなってマキナさんのところへ行き、社内を彷徨いても良いか訊いてみた。
「臨時IDで大体のところは見れるよ」とマキナさんが教えてくれる。
こちらの方はもう少し時間がかかると謝られる。お気になさらずと返す。さあ、社内探検に出発だ!
今いるフロアは面白くなさそうなので、取りあえずは一階のダイニングとは違う表側、玄関口どうなってるのかな、っと?
マキナさんに連れられたエレベーターに行って、IDをかざすが反応しない。
自分のIDが来訪者だからかな?
仕切りでできた道を引き返して行っていない方に足を向けた。
マキナさんが仕事をしている入口を素通りして、その先へと、また空けられた入口になった隙間の前に着く。
事務所の方を見ると、机に向かっている女性がちらほらいる。皆さん大柄なので女性だろう。
こちらに気付いて視線を送ってきた人がいて、慌てて会釈すると道を先へ進む。
向かって歩いてくる人には会釈しつつ、次々、現れる入口を素通りして、廊下(仮)が途切れたところにエレベーターホールになったところに行き着いた。
建物の中ほどにあるので、その先の事務所の向こう側にもエレベーターなりがあるのだろう。
そこのエレベーターはチェックがないみたいなので一般訪問者が使えそう。
使えるエレベーターが確認できたから、廊下(仮)の先は同じかな? と思って進んでみた。
結果、同じような仕切りの連なりと奥にエレベーターがあり、エレベーター前のソファーはないものの、外部階段に出る扉に気がついた。
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