*いにしえのコトノハ*9 苦くて、甘くて、時々しょっぱい

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オレも1回生の春は教材を買い込んでいたが、次回からは必要最低限の分しか手に入れなくなった。

こういうことは全て経験がものを言う。

教材を購入しないと単位が貰えないような講義は、必修以外選択肢から外した。

高校までは決められた授業は強制的に受けなければいけなかった。

大学ではこういう面で融通が利くのが良い。

自由に選択できる分、何を受講するか考えなければいけないのは多少面倒だが。

「バイトは?」

「やってないです」

「仕送りでやりくりできないなら自分でお金を工面しないと」

「はい。でも売店のバイトはもう募集してなくて」

「あー、大学内のバイトは締め切るの早いもんな」

大学の構内でバイトを募集しているところはいくつかある。

まず売店。

本屋や食料品、衣料品コーナーで学生バイトを募集している。

あとは学食。

ここは主に皿洗いと片付けだ。

地元からこちらに移り住んできた者やバイト経験者がこぞって応募する。

応募期間は短く、募集人数も少ないため、あっという間に受付は終了する。

決して時給は高くないが、みんな手っ取り早く近場でバイト先を見つけたいのだろう。

もちろん大学内にこだわらなければ、バイトは他にもある。

「駅まで行けば他にもバイト募集してるだろ?」

「はい。でも自分ができそうなのがなくて」

「できそうにないのって何だよ」

「レジ打ちとか、商品を綺麗に入れる自信ないですし、家庭教師も数学とか教えられないですし、衣服も綺麗に畳めないですし」

「何だそりゃ」

「この辺に詳しくないので配達も難しいですし、料理をしたことがないので調理補助なんてのも・・・」

「できないのばっかりだな」

「はい。ぼく本当に何もできないやつで・・・」

「そうじゃなくて、できないならできるようになればいいじゃん」

「え?」

「誰だって最初から完璧にできるやつなんていない。だからいろいろ経験してできるようにしていくんだろ。自分でその可能性を消してちゃ何もできなくて当たり前だって」

オレだってそうだった。

調理ができなくて、好き勝手食べて不健康になった。

でも調理を覚えたおかげで今みたいに変わることができたんだ。
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