*いにしえのコトノハ*9 苦くて、甘くて、時々しょっぱい

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事情を説明すると、ワッキーは少し驚きながらも

『すばらしき心意気!』

と評価してくれ、行く先々でこうした旅の動画を送ってきてくれている。

ちゃっかり画面の端にヒカリちゃんを入れることも欠かさない。

ヒカリちゃんは今朝送ってきたままの包帯姿で、それをかばうように逆の手で対応している。

そこにいれば

「プーさん、これ持って」

なんて雑用を依頼されていたかも、と思うと想像で顔がにやけてしまうが、もうそんなことは起こらない。

それは多少残念だな、という気になった。

ましてや他の男とヒカリちゃんとのそういうやり取りが動画からちらっと見えたりすると、焦りも発生してくる。

みんなの恋愛事情はよく知らないが、こういう旅行でカップルが誕生することは少なくない。

高校時代では修学旅行後にカップルがいつの間にか増えていて、取り残されたような気になったものだ。

「今回の旅行は取り止めだ。仲間にもそう伝えたし、途中合流する予定もない」

それを聞いてコブラは目を剥いた。

「そんな・・・ぼくのことを気にしてるなら無視してください。もう部屋に戻りますから!」

「まぁそう慌てるな。病み上がりですぐ動こうとするなよ。また悪化するぞ」

「でも結構早くから出かけてたじゃないですか。前々から予定していた旅行なんですよね?」

「もう取り止めたって言ってるだろ。お前が寝ている間にこれは解決した話なんだよ」

「でも・・・」

コブラはしつこい。

言い返す元気が出たのは良いことだが、あまり長々と言われ続けるとオレの決意がしぼんでしまいそうだ。

ここはコブラがオレの後輩という立場を利用して、先輩風を吹かせるしかない。

「だいたい元気になったらまずはありがとう、だろ。誰が頭痛薬を提供してやったと思ってるんだ。感謝されるならともかく、意見されるなんて心外だな」

一気にまくしたてると、コブラはハッとして頭を下げた。

「申し訳ありません!出過ぎた真似を・・・。看病してもらったこと、本当に感謝しています」

看病と言っても薬を飲ませて温かいタオルをおでこに乗せてやっただけだ。

母親から聞いたあの何とか頭痛は確かに温めたら治った。

さすが年の功だ。

「まぁまぁ、オレはケンカしたかったわけじゃない。ここに残ったのは1つ理由があるんだ」

コブラはずっとうなだれたままだったが、オレは台所に場所を移した。

ワンルームマンションなので、台所と言えるほどスペースはないが、男の一人暮らしだとこれくらいで十分だ。
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