*いにしえのコトノハ*9 苦くて、甘くて、時々しょっぱい

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早速ベッドの布団をまくり上げて、そこに男を座らせる。

「そうだ、名前言ってなかったな。オレはくまの。エンカレ大の2回生」

「ぼくはこむらです。同じ大学に入学したばかりの1回生です」

「コブラか」

「いえいえ、小さい村でこむらです」

「あぁ、悪い。オレのサークル、すぐにあだ名を作ってそれで呼び合う風習があるんだ。こむらだったらコブラかなって」

「初対面でいきなりあだ名をいただけて光栄です」

「ちなみにオレはプーって呼ばれてる」

「プー?くまの・・・あぁ!」

コブラはすぐひらめいた。

ディズニーのくまのプーさんから派生したことが痛む頭でもわかったようだ。

・・・って、いけね。

頭痛薬を欲してるんだった。

急いで薬箱から頭痛薬を取り出す。

男の一人暮らしにこんなもの・・・と持たされた時は不満に思っていた親のお節介が、こんなところで役立つとは。

薬箱はオレが一人暮らしをする時に、親が持っていけと押し付けてきたものだ。

【一人暮らししたら、あんた絶対薬なんて買わへんやろ?

 欲しい物ばっかり目に付くから備えのこと考えへんねんて

 風邪ひいてからないーって思っても遅いんやで

 そやからこれ持っていき

 期限、まだ先やから

 ほれ】

当時のことがついさっき起こったように思えるほどよく覚えている。

あの後、何か袋に入れられることもなく渡された薬箱。

そのまま電車に乗ったので、奇異な視線を向けられた。

何かの罰ゲームかと思った。

水の入ったコップと錠剤をコブラに手渡すと、プッと笑いが込み上げた。

コブラが不思議そうにオレを見る。

「いや、薬は常備しておいた方がいいぞ。いつ風邪ひくかわからんし」

「そうですね。風邪をひいてからじゃ遅いって、身をもって体験しました」

【風邪ひいてからないーって思っても遅いんやで】

まったくその通りだ。

痛感したのはオレじゃないが、このおかげでコブラを助けてやれたと思えばあの恥ずかしい記憶も多少は薄れる。
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