26 / 28
25
しおりを挟む
今まで大将のことをそう呼んだことがなかった。
私は見つけられた時からこの海の家にいて、常連のみんなが大将、大将と呼ぶ中で育ってきたから、ずっとこの人のことを大将と呼んでいて、それは友達の前でも学校の先生の前でも変わらなかった。
変な言い方、と友達は笑って、事情を知った先生は戸惑っていたけど、私にはそれが普通だったから。
あえて呼び方は変えなかった。
でもここでは、最後になるここではちゃんと言った方がいいと思う。
今までちゃんと父をしてくれていたのだから。
でも・・・。
「大将、って・・・呼んでくれないと」
大将は一言、そう言った。
「なっちゃんのお父さんとお母さんはちゃんとここにいるんだから」
大将は海を指差して言う。
顔も声も知らないままの父と母。
唯一、大将だけが私の両親の姿を知っている。
実際、2人の遺体はまだ見つかっていないそうだ。
父の方は知らないが、母は泳げなかったらしい。
入水して溺れたという説はあるが、遺体が見つかっていない以上、この海のどこかで沈んだままなのか、あるいは助かってどこかで生活しているのかわからないままだった。
「自分は親代わりをしていただけで、ただ海の家の主をしていただけなんだから、大将って呼んでくれないと調子狂うよ」
「うん、ごめん大将」
「まったく」
そう言いながら大将が少し涙ぐんでいるのが見えた。
私はそれを見ないようにして海の方へ目を向けた。
私は見つけられた時からこの海の家にいて、常連のみんなが大将、大将と呼ぶ中で育ってきたから、ずっとこの人のことを大将と呼んでいて、それは友達の前でも学校の先生の前でも変わらなかった。
変な言い方、と友達は笑って、事情を知った先生は戸惑っていたけど、私にはそれが普通だったから。
あえて呼び方は変えなかった。
でもここでは、最後になるここではちゃんと言った方がいいと思う。
今までちゃんと父をしてくれていたのだから。
でも・・・。
「大将、って・・・呼んでくれないと」
大将は一言、そう言った。
「なっちゃんのお父さんとお母さんはちゃんとここにいるんだから」
大将は海を指差して言う。
顔も声も知らないままの父と母。
唯一、大将だけが私の両親の姿を知っている。
実際、2人の遺体はまだ見つかっていないそうだ。
父の方は知らないが、母は泳げなかったらしい。
入水して溺れたという説はあるが、遺体が見つかっていない以上、この海のどこかで沈んだままなのか、あるいは助かってどこかで生活しているのかわからないままだった。
「自分は親代わりをしていただけで、ただ海の家の主をしていただけなんだから、大将って呼んでくれないと調子狂うよ」
「うん、ごめん大将」
「まったく」
そう言いながら大将が少し涙ぐんでいるのが見えた。
私はそれを見ないようにして海の方へ目を向けた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる