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私を見つけたのは、海の家を開く1ヶ月前だったらしい。

夏、いつものように海の家を開く前に修繕箇所がないか確認をするためにわざわざ立ち寄ったのが、ちょうど私が置き去りにされていた日だった。

偶然のようにも思えたが、そうする兆候が何かあったらしい。

「お隣さんの様子がおかしかったんだよ。時期でもないのに海に行くって言うし、その後訪ねてきた人も行方を探しているし」

お隣さん、が私の父だった。

訪ねてきた人、が私の母だった。

何か変だと思って昼食後海へ向かったら、海の家に私だけがいた。

その近くには父の衣服と母の靴があった。

それで事情を察したそうだ。

「せめてこの子だけは助けなきゃと思って、後はもう必死だったよ。子どもなんて持ったことがないから同僚や常連のみんなに聞きまくってさー」

当時を思い出すと、大変だと言いながらも大将は楽しそうで、それも周りに仲間がたくさんいたからなのだと実感させられる。

実際、大将には仲間が多いのだ。

海の家にいれば自然と常連は増えていくし、会社にも仲の良い人が多いようで、よくみんな一緒に大勢で遊びに連れて行ってくれた。

両親のことはわからないことが多かったが、私には血縁関係がいなかったようで、大将が私の育ての親になってくれた。

見つけた年に少し早い有給休暇を取得して、海の家の常連に手伝ってもらいながら子育てをしてくれた。

だからだと今ならわかるのだが、私には当初、海の家で大将の手伝いをする私のことを多くの人が知っており、なっちゃんと親しく呼んでくれる理由がわからなかった。

そんな私に疑問を抱いたままだとかわいそうだからと、小学生になるタイミングで大将が私の生い立ちについて教えてくれた。

その時もこんなふうに大将と並んで海を見ながら、だった。
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