*いにしえのコトノハ*8 なっちゃん

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私の体温が熱くなってきたからか、次第に那智がぐずり始め、家に着いた頃には声を上げて泣いていた。

体を揺すりながら取っ手に手をかける。

出かけた時に施錠したまま、何も変わっていなかった。

本当にどこへ行ってしまったのだろう。

那智の泣き声は大きくなるばかりだが、こちらが泣きたい状況だった。

やがて隣人が那智の声を聞きつけて、外に出てきた。

泣き声がうるさいと怒られるのかと思い、すみません、と会釈混じりのお詫びを述べる。

しかし隣人は怒るどころか、にっこり笑って応えた。

「名方さんだったら出かけられましたよ」

隣人から名方さんの名前が出て驚く。

小さなアパートだが、ちゃんと近所付き合いはしていたようだ。

そんなことよりも。

思わぬところから情報が入り、期待する。

「あの、どこへ出かけたかご存知ですか?」

焦る気持ちを抑えつつ、尋ねる。

「はい、おそらく海に行ってるかと」

「海?」

全く予期していなかった行き先に耳を疑った。

「暑いですからね。頭を冷やすのに川か海、近くにないか尋ねられたので。駅の向こう側が海だから、そっちに行ったと思いますよ」

「そう・・・ですか」

頭を冷やすのに川か海、とは一体どういう意味だろう?

泳ぐつもりなのだろうか?

私が来るとわかっているのに?
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