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空調が動き出して快適な温度になっても、名方さんは戻ってこなかった。

手持ち無沙汰になり、部屋の周りを見渡していると、ふと名方さんの机に紙切れが置いてあることに気づいた。

紙は二つ折りにされており、横にはペンが置いてある。

プライベートなものを勝手に見てもいいものかどうか迷ったが、目についてしまったものは仕方がない。

名方さんの不在をいいことに、見てみることにした。

紙の最初には 堤さんへ と書かれていた。

私に宛てた書き置きだった。

安心して読み進める。


堤さんへ
昨日電話をもらってからずっと今までのことを思い返していた。
取り返しのつかないことをしてしまったと思う。
謝っても謝りきれない。
もう2度と同じ過ちをおかさないように
あなたの前から姿を消します
いままでありがとう
さようなら


「えっ」

書き置きを見た瞬間、我が目を疑った。

何かの間違いかと思い、もう1度読み直す。

頭が真っ白になった。

ひいたはずの汗がまた噴き出す感覚に襲われて、ハンカチで顔を拭った。

私の前から姿を消す、とは一体どういう意味なのだろう?

部屋は名方さんの私物が残っているから、ここを引き払ったわけではなさそうだ。

生活しているわりには物が少なすぎるようにも見えるが、単身赴任だったらこんなものなのかもしれない。
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