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たった数ヶ月、されど数ヶ月。

呼び鈴を押してから名方さんが現れるまでの間、どんな姿で出てくるか想像をした。

数ヶ月で大きく変わることはないと思うが、鮮明に思い出せないほど記憶は薄れてきている。

一目見て、あぁこの顔だと安心したい。

呼び鈴を押してから少し経った。

中から声が聞こえてくることもなければ、足音もしない。

続けて何回か押してみたが、結果は同じだった。

もしかしたらまだ眠っているのかもしれない。

そう思い、私は合鍵を取り出した。

初めて使う合鍵。

もうこんなふうに使うことはないかもしれないから、最初で最後かもしれない。

カチッと鍵が外れて扉を開ける。

むわっとした空気が漏れてきた。

蒸し暑い。

窓が開いていないのかもしれない。

空調が入っている音もしない。

こんな中で横になっているとしたら、眠っているのではなく倒れているのだと思う。

「名方さん?」

声をかけながら中に入る。

玄関から見える真正面の部屋にも、その左奥にある部屋にも名方さんの姿はなかった。

部屋も閉め切っているし、どこかへ出かけたのかもしれない。

昼時だから何か食べ物を買いに行ったのかも。

赤ん坊がいるから、外食よりは家で食べる方が気兼ねしなくて済む。

窓が閉め切められていたので、空調をつけることにした。

背中の荷物を下ろし、水分を補給する。

抱っこ紐を外して、那智の汗も拭ってあげた。
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