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低価格でおなじみのえぬたまがオムリッチなんて高額なメニューを扱うことに違和感があったが、それを聞けば納得だ。
「もちろんそのフライパンがあれば私もできると思うけどね。作る過程は間近で見ていたし」
「・・・・・・・・・」
よほど負けず嫌いなのか、茉は自分自身がオムリッチを作れないとは言いたくないらしい。
オムリッチ試食が実現しない今、茉が作れても作れなくてももうどうでも良いのだが。
こんなことを言うと、きっとまたうるさくなるので何も言わない。
「オムリッチは無理だけど、えぬたまにあるオムライスなら作れるから、私。それを作ってあげようと思って。これはその第一弾」
オレが断面を見たくて真っ二つにしたオムライスは、ケチャップライスに混じって白い物が見えた。
「あ、これチーズインオムライスか」
「ピンポーン!当たりっ」
白い物はチーズだ。
本来チーズインオムライスと鶏肉ゴロゴロオムライスになるところを茉が作れないから・・・もとい、専用フライパンがないから前者一択にしたというわけか。
これはこれで嬉しい。
「えぬたまって半熟オムライスが1番人気だけど、他にもたくさん種類があるの」
「それは知ってる。でもいつも半熟オムライスを選んじゃうんだよなー」
えぬたまのメニュー表はいっぱい種類があるせいでページ数が多い。
今日は違うものを食べようと思って見ていても、途中で見飽きて結局いつものを選んでしまう。
ちなみにこの店で「いつもの」を注文すると、誰であれ半熟オムライスが出てくる暗黙ルールが存在したりする。
それほどこのメニューのオーダー率が高いのだ。
「だからえぬたまのオムライスを日替わりで作ってきてあげる」
「ほー、それはどうも」
ということは明日もオムライスを作って持ってくるのか。
何でこいつ、急にオレにオムライスばっかり作ってくるようになったのだろう?
・・・と、この時はまだそれほどこのやり取りに疑問を感じていなかった。
事の重大さに気づいたのは、数日経ってからだった。
翌日。
昼休憩。
「カズマー」
昨日と同様、声を上げながら茉が教室に入ってくる。
自分の弁当箱が入ったトートバッグとポリ袋をオレの机に置くと、近くの席から空いている椅子を取ってきて座った。
兄キたちは・・・昨日の宣言通り、クスミの席で食べようとしている。
もうオレの席の方を見ようともしない。
「なぁ、いちいちオレの名前呼んで入ってくるなよ」
「何で?いいじゃない。私が来たってアピールなんだから」
それは誰に、何の目的で、しているのだ。
「それより今日は鶏肉ゴロゴロオムライスよ」
「言うなよ。食べるまでの楽しみにしようと思ったのに」
「あ、そうだったの?ごめんねー」
全然悪びれた感じを見せず、茉はオムライスとスプーンを突き出してきた。
オレは渋々それを受け取る。
翌日の今日は、鶏肉ゴロゴロオムライス。
そしてその翌日はゴールドオムライス。
ライスが卵かけご飯になっており、どこから見ても黄色ということでこの名が付いた。
だから本来はゴールドではなく、イエローオムライスのはずだが。
翌日は土曜日で学校は休みなので、土日を飛ばして月曜日は五目オムライス。
名の通り、五目飯のオムライスだ。
そして火曜日はオムカレー。
ソースがカレーになっているオムライスだ。
・・・と、こんなふうに本当に茉はえぬたまで販売されているオムライスを作って持ってきた。
オレの名前を呼びながら、オレの真ん前という定位置についてオレにオムライスを差し出す。
最初は茉の出現に戸惑っていたクラスメイトもいつしか慣れて、奇異な視線も向けなくなってきた。
というか、茉が毎日昼時に来るようになったせいで、いつの間にかオレと茉が付き合っているという噂が流れるようになり、兄キたちはもちろん、クラスの女子もオレと接することを避けるようになった。
おかげでオレの「そろそろ彼女を作って青春を満喫したい」とう野望は夢物語となって消えていった。
え?
そんなオチ?
「もちろんそのフライパンがあれば私もできると思うけどね。作る過程は間近で見ていたし」
「・・・・・・・・・」
よほど負けず嫌いなのか、茉は自分自身がオムリッチを作れないとは言いたくないらしい。
オムリッチ試食が実現しない今、茉が作れても作れなくてももうどうでも良いのだが。
こんなことを言うと、きっとまたうるさくなるので何も言わない。
「オムリッチは無理だけど、えぬたまにあるオムライスなら作れるから、私。それを作ってあげようと思って。これはその第一弾」
オレが断面を見たくて真っ二つにしたオムライスは、ケチャップライスに混じって白い物が見えた。
「あ、これチーズインオムライスか」
「ピンポーン!当たりっ」
白い物はチーズだ。
本来チーズインオムライスと鶏肉ゴロゴロオムライスになるところを茉が作れないから・・・もとい、専用フライパンがないから前者一択にしたというわけか。
これはこれで嬉しい。
「えぬたまって半熟オムライスが1番人気だけど、他にもたくさん種類があるの」
「それは知ってる。でもいつも半熟オムライスを選んじゃうんだよなー」
えぬたまのメニュー表はいっぱい種類があるせいでページ数が多い。
今日は違うものを食べようと思って見ていても、途中で見飽きて結局いつものを選んでしまう。
ちなみにこの店で「いつもの」を注文すると、誰であれ半熟オムライスが出てくる暗黙ルールが存在したりする。
それほどこのメニューのオーダー率が高いのだ。
「だからえぬたまのオムライスを日替わりで作ってきてあげる」
「ほー、それはどうも」
ということは明日もオムライスを作って持ってくるのか。
何でこいつ、急にオレにオムライスばっかり作ってくるようになったのだろう?
・・・と、この時はまだそれほどこのやり取りに疑問を感じていなかった。
事の重大さに気づいたのは、数日経ってからだった。
翌日。
昼休憩。
「カズマー」
昨日と同様、声を上げながら茉が教室に入ってくる。
自分の弁当箱が入ったトートバッグとポリ袋をオレの机に置くと、近くの席から空いている椅子を取ってきて座った。
兄キたちは・・・昨日の宣言通り、クスミの席で食べようとしている。
もうオレの席の方を見ようともしない。
「なぁ、いちいちオレの名前呼んで入ってくるなよ」
「何で?いいじゃない。私が来たってアピールなんだから」
それは誰に、何の目的で、しているのだ。
「それより今日は鶏肉ゴロゴロオムライスよ」
「言うなよ。食べるまでの楽しみにしようと思ったのに」
「あ、そうだったの?ごめんねー」
全然悪びれた感じを見せず、茉はオムライスとスプーンを突き出してきた。
オレは渋々それを受け取る。
翌日の今日は、鶏肉ゴロゴロオムライス。
そしてその翌日はゴールドオムライス。
ライスが卵かけご飯になっており、どこから見ても黄色ということでこの名が付いた。
だから本来はゴールドではなく、イエローオムライスのはずだが。
翌日は土曜日で学校は休みなので、土日を飛ばして月曜日は五目オムライス。
名の通り、五目飯のオムライスだ。
そして火曜日はオムカレー。
ソースがカレーになっているオムライスだ。
・・・と、こんなふうに本当に茉はえぬたまで販売されているオムライスを作って持ってきた。
オレの名前を呼びながら、オレの真ん前という定位置についてオレにオムライスを差し出す。
最初は茉の出現に戸惑っていたクラスメイトもいつしか慣れて、奇異な視線も向けなくなってきた。
というか、茉が毎日昼時に来るようになったせいで、いつの間にかオレと茉が付き合っているという噂が流れるようになり、兄キたちはもちろん、クラスの女子もオレと接することを避けるようになった。
おかげでオレの「そろそろ彼女を作って青春を満喫したい」とう野望は夢物語となって消えていった。
え?
そんなオチ?
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