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「あ、それから一真。今日だけでなくこれからもオレはクスミっちの席で食べることに決めた」

「何でだ?」

「だって一真の席で3人が一緒にいると狭いだろ?今まで気づいてやれなくて悪かったな」

このタイミングでそれに気づくなんてずるいぞ。

今まで狭くても文句言わずに付き合ってやっていたのに。

「さぁもう戻れ一真。生贄になってきてくれ」

「生贄って言ってんじゃねーかよ。わかったよ、戻るよ」

オレは渋々自分の席に戻った。

茉が不満そうにオレを見ている。

「何話してたのよ?かわいい女の子を残して」

「かわいい女の子って誰だ?」

「私に決まってるでしょ」

「かわいい女の子は自分でかわいいって言わないんだ」

それを堂々と言えるところが茉らしいというか・・・。

「そんなことより早く食べて!味の感想を聞きたいのよ」

茉はそう言って勝手にポリ袋からオムライスを取り出してオレの目の前に差し出した。

スプーンをぐいと押し付けて、早く食べろと急かしてくる。

綺麗な形のオムライス。

普段、上にかかっているケチャップはない。

オムリッチはライスにソースが絡まっているので、卵の上にソースやケチャップをかける必要がないのだ。

真ん中を境目に、左側がチーズイン、右側が鶏肉ゴロゴロ。

境目が見たくて、オレは真っ二つになるようにスプーンを入れた。

断面を見る。

左も右も同じだった。

「あれ?」

オムリッチであれば左側がケチャップライスなので赤色、右側がデミグラスソースなので茶色、になっているはずだった。

それがこのオムライスは両側が赤色だ。

「これ、オムリッチか?」

オレが知るものと異なるので疑問が生じた。

オレはえぬたまのオムリッチをリクエストしたはずだ。

えぬたまでバイトをしていた茉が内容を間違えるわけがない。

「違うわよ」

気がつけば茉もトートバッグから自分の弁当箱を取り出して食べていた。

茉は普通のおかずにご飯のスタイルで、1つの弁当箱の中にそれが分かれて入っている。

「違うって・・・お前オムリッチ作ってくれたんじゃないのか?」

「私、配膳のバイトしてたのよ?オムリッチなんて作れるわけないじゃない」

「えー、じゃあ昨日のあのメールは何だよ。OKって意味じゃないのかよ」

「私、OKなんて言ってませんけど?」

「はぁ~?」

確かに返信は『(^^)b』こんな顔文字だった。

OKっていうのはオレの勝手な解釈だ。

でもこの顔文字ならそういう解釈で間違いないだろう。

『b』は『いいね!』の指の形じゃないのか。

「じゃああれはどういう意味の顔文字なんだよ」

「いいね!でしょ」

「いいねって言ってんじゃん」

「いいね!とOKは違うでしょ。勝手に勘違いしないで怒らないでくれる?」

ムカーッ。

茉の言い方に俄然腹が立ってきた。

期待したのはオレだ。

期待はずれにしたのは茉だ。

どちらが悪い?

茉だろう。

「だいたいオムリッチを作るにはえぬたまのフライパンがないと無理よ」

「えぬたまのフライパン?」

「オムライスの型をしたフライパンがあるのよ。そこに半分ずつ具材を入れてから卵を絡めて焼くの」

「え?オムリッチってそういう作り方なの?職人が半分ずつ作って、最後に1つになるように形作ってると思ってた」

「そんな面倒なこと、あの短時間でできるわけないでしょ。昼間は戦場なのよ?」

確かにえぬたまは昼時めちゃくちゃ混んでいる。

おいしいオムライスが低価格でいただけるからだ。

オレも利用する時は混雑時をわざわざ避けるくらいだ。

1つのオムライスに時間がかかると割に合わない、ということか。

「だったらそのフライパンがあれば茉も作れるのか?」

「そのフライパン、って簡単に言うけど特注だから高いのよ?その辺のお店に売ってるわけじゃないんだから」

「100均で似たようなのは売ってないのか?」

「売ってないわよ。そんなの売られたら店は大赤字よ」

そりゃそうか。

えぬたまに影響が出るよな。

「えぬたまですら2台置くだけで精一杯。いろんな加工がされているから手入れも大変だし」

「そうか」

やっぱり高額な商品はそれなりに理由がある。

食べ物は食材や調理の値段込みになっていることで納得はしていたが、調理器具も良い物を使っていたらその分上乗せしたいよなぁ。
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