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7.ロックオン

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「カズマー」

4時間目の授業が終わって、世界史の先生と入れ替わるように現れたそいつは、何の前触れもなくオレの名前を呼んだ。

昼休憩が始まったと言っても、さっきまで教師がいた教室にはクラスメイトがまだ全員着席した状態でいる。

だからそいつはクラスメイト全員の注目を浴びた。

クラスメイトはそいつを見た後、当然ながら呼ばれたオレを見る。

いたたまれなくなったオレは、慌ててそいつにかけ寄った。

「おい!!ちょっと来い!」

シーンとしたままの教室から廊下に出て数歩進む。

やがて教室から少しずつ音が戻ったことにホッとしつつ、オレはそいつに向き直った。

「おーまーえーはー何しに来たんだよっ」

怒鳴りちらしたいところを何とか抑えながら低い声で言う。

「何怒ってんのよ」

相手は全く動じない。

そりゃそうだ。

クラスメイトが見ていようが平気で人の名前を呼べるくらいなのだから。

昨日のオレとはまるで違う。

「昨日パン買ってたから、今日はその前に渡そうと思って持ってきたの。はい!」

そいつーーー茉は持っていたポリ袋をオレの目前に差し出した。

昨日と同じポリ袋だからきっと中身はオムライスなのだろう。

「・・・何で?」

「何が?」

「何でオムライス持ってくんの?」

素朴な疑問だ。

オレは茉にオムライスを作ってとは言っていないし、作らせる理由もない。

オレに何か借りがあるわけではないし、弱みを握られているわけでもない。

「だって私のオムライス好きでしょ?」

うわっ、出た。

自意識過剰な自己満理由が。

確かにオムライスは好きだが、あえて「私の」と付けてくるところが気に障る。

「別にわざわざ作ってくれなくても・・・」

「今日はね、デミグラスソースなのよ」

そう言われた途端、オレのお腹がグゥと鳴った。

「あ、ほら。デミグラスソースに反応したね!じゃこれ食べてねー」

茉はオレにポリ袋を押し付けると、鼻歌を歌いながら自分の教室の方へ戻っていった。

くそっ、オレのお腹めっ!

デミグラスソースって言葉に反応したみたいに鳴りやがって。

確かにちょっと惹かれた感じはあるものの、ただ単にオレのHPが0になっただけなのに。

タイミングが悪すぎる。

もう1度オレのお腹がグゥと鳴ったので、観念して教室に戻った。

オレが教室を出ていっても兄キとクスミはいつも通り、オレの席で昼食を取っていた。

こいつら、自分の席で食べるという選択肢はないのか。

「おう、一真。今日も石にされずに済んだか」

「あ、今日もオムライスですね」

2人は何気なく話しかけにくるが、オレは教室に入った途端、あちらこちらから興味津々の視線が飛んできて痛い。

2人に隠れて早くオムライスを食べてしまおう。

ポリ袋からオムライスを取り出す。

今日も使い捨て容器に入っている。

昨日と異なる色のソースが目に付いた。

一口食べる。

ケチャップと違ってデミグラスソースは濃くてうまい。

もちろんケチャップもうまいが、濃い味付けのソースは食欲を増進させるから困る。

あっという間に平らげてしまった。

くそぅ、うまいな。

「何とか断る方法ないかなぁ?」

「お前、完食しておいてそれはないだろう」

「貰ったものは仕方ないだろ。貰わないようにする方法だよ」

「貰っても食べなかったらいいじゃん」

「そのまま捨てても使い捨て容器に入ってるんだから茉にはわからないだろう。それに食べ物を粗末になんかできない」

もしも弁当箱のまま渡されたら、それをそのまま返すことで不要なんだなと気づいてもらえるが、自分で弁当箱を拒否したんだった。

あれは間違った選択だったか?

「なぁ、クスミは何かいい方法ある?」

「いらない、とハッキリ言うのはどうですか?」

うーん、クスミらしくない答えだ。

同じ立場に立った時、クスミがそうするとは思えない。

「いらないって言っても強引に手渡してくるんだよ」

「じゃあもっと欲しいというのはどうですか?」

「え?」

いらないのに欲しいと要求するとはどういうことだ?

「渡すのが嫌になるくらい欲しいと言えばそのうち渡さなくなると思います」

・・・正しいのか?

その考えは。
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