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6.魔の弁当箱

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オレはクスミの方をちらっと見た。

クスミと目が合う。

「私、貸しましょうか?」

一瞬、天使の声が聞こえたかと思った。

が、それはクスミの声だった。

この流れでオレと目が合えば自然とそういう言葉が出てくるだろう。

クスミが兄キみたいに鈍感すぎるやつじゃなくて良かった。

クスミはカバンから小銭入れを取り出すと、500円玉を取り出した。

「わー、助かる」

「わー、それすげー」

クスミの行為にオレと兄キが一斉に声を上げて、そしてかぶった。

オレがクスミから500円玉を受け取るよりも先に、兄キはクスミに近寄った。

おい、こら。

先にお金を受け取らせろ。

「クスミっちのそれ、Nキャラじゃん!」

兄キが目をつけたのは、クスミの小銭入れだ。

柄がNキャラなのだ。

「Nキャラの小銭入れって売ってるの!?」

Nキャラに目がない兄キは興奮気味になっている。

Nキャラの小銭入れなんて売っているわけがないだろう。

ザコキャラなんだから。

「これは白い生地に自分でNキャラを描いて縫って作りました」

「すっげー」

相変わらずすごい。

白い生地にNキャラを自分で描くという発想が。

「いいなー、これ。オレのお年玉袋と交換しない?」

「え?」

さすがにその条件は嫌だと思ったのか、クスミは小銭入れをさっと鞄の中に片付けた。

そしてオレに500円玉を手渡してくれた。

「もう、クスミっちってば人が良いんだから。おい、一真。今日1日クスミっちのこと、クスミ様って呼べよ」

「はい、クスミ・・・様」

「よーし」

クスミのおかげで何とか昼飯抜きは免れたので、クスミ様云々は別に構わないが、何もしてくれなかった兄キが偉そうにしているのには少しイラッとした。

さて、お金が手に入れば話は早い。

昼休憩が終わる前にパンを買って食べないと。

ここでパンは全て売り切れて結局食べられないのであった、という結末にだけはなりたくない。

オレの学校の購買部は、自分の教室の真下にある。

階段を下りてすぐなので、近くて便利だ。

昼食用のパンは結構な種類と数があるので、売り切れることはほぼない。

人気なパンから売れていくので、残っているものに福が少ないということは否めないが。

この購買部で昼食を買う時はパン2つと飲み物のセットで決まっている。

特別このパン、この飲み物、というものはないが、中にクリームが入っているものをよく選ぶ。

今日はチョコクリームパンといちごジャムパンと牛乳にしておいた。

3つ買っても300円だ。

これでオレの空腹は免れる。

クスミ・・・いや、クスミ様のおかげだ。

「ちょっと!こんなところにいたの!?」

「うわっ」

昼食を買って購買部を出ると、目の前に茉が現れた。

何だこいつ。

何でこんなところにいるんだ。

「うわっ!って、失礼じゃない?人を何だと思ってるのよ!」

急に現れたくせに茉は怒っている。

そりゃあ会いたくもないやつがいきなり目の前に現れたら驚くだろう。

「何だよ。購買部に用事か?ほらよ」

そう言って出入り口から離れたが、茉は中に入ろうとしない。

「購買部に用なんてないわよ。カズマに用があって来たの」

「ゲッ」

「ゲッって何よ!」

やばい、やっぱり昨日の行動は間違っていた。

茉のスイッチをオンにしてしまったようだ。

やっぱり年が明けて会っていなかったのだから、あのまま会うべきではなかったのだ。

「よくここがわかったな」

「さっき教室に行ったのよ。そしたらクスミさんがカズマがここにいるって教えてくれて」

「クスミが?」

「ユノモトにも聞いたけど、何かあさっての方向見て一言も発してなかったわよ」

兄キ・・・茉が現れただけで石にされてしまったのか。

弱すぎるだろ。

まぁ本人自ら進んで石になったんだろうけど。

「・・・・・・こんな所まで来て一体何の用だ?」

「用っていうか・・・・・・はい」

茉は手に何か持っていて、それをオレの目の前に差し出した。

「何だ?これ」

「お弁当」

「おべ・・・はぁー!?」

「ちょっと、こんなところで大声出さないでよ」

ここにはオレのように昼食を求めて買いに来るやつがいるから、当然オレたち以外にも人はいる。

オレが大声を上げたので、何事かと気にしながらちらちらこちらを見るものの、話しかけてくるやつはいない。
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